かくしてふたりは
それからの日々はもんもんとしていた。
頭の中で渦巻く妄想。
れーこさんとの密事を思い描いてはかき消し、消えたと思ったらまた浮かぶ。
溜息も多い。幸せが逃げてゆくと言われていても溜息が止まることは無かった。
それでも朝はやってくるし仕事は無くならない。
ただ無為に日々を積み重ねあっという間に次の面会日になってしまった。
どんな顔をして会えばいいのかといくら自問しても答えは出てこない。
少し睡眠不足気味な俺は何も考えずにいつもの喫茶店へ向かっていた。喫茶店の前に立った所で意識が明瞭になった。
身体に染み付いてしまった習性と言うかルーチンと言うか無意識の内に覚醒が促された。
何度か深呼吸をし扉を開くとドアベルが軽い音を立てた。
いつもの席を見るとすでにれーこさんが座っていた。
背筋を伸ばしじっと前を見つめて。
「すみません。遅れました」
席に座って頭を下げる。
「大丈夫、私もいま来たところよ」
れーこさんの声が平坦だ。冷たい感じがする。
「それよりも、かかくん。考えてくれた?」
「ええ、考えましたよ。れーこさんの事ばっかり」
俺の言葉にれーこさんは目を見開いた。
そして、頬がほんのり桜色に染まった。
「そ、れで。返事はくれるのかしら?」
「はい。俺で良ければ、と言うかれーこさんには返事の内容がわかっていたんでしょ?」
「そんな事、は無いわ。このひと月断られたらどうしようって何度も泣きそうになったもの」
「れーこさん。これ」
俺は財布から名刺を取り出してれーこさんにの方へ差し出した。
「あっ、私。私も」
彼女も名刺を出して俺の方へ差し出す。
「今後とも宜しくお願いします」
かくして、俺と彼女はお付き合いする事となった。
今まで聞いてこなかった事を存分に語り合った結果、なんと彼女の方が年上だという事が判明。まあ予想はしていたから動揺はしなかった。
驚きなのは職場だ。彼女の職場はこの喫茶店のある街より六駅も離れている。今住んでいる場所も職場の近辺らしく少し無理をしてこの喫茶店まで来ていたらしい。
それを聞いて俺は申し訳なく思った。在学中からずっと同じ場所で続けてきた営み、それを変えたくなかった。まあ俺もれーこさんとは違う方向に四駅は離れているのでおあいこだ。俺は自転車で走ってきているのだが。
俺たちは付き合いはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます