第26話<仲間外れ2>

「応援団完全結成の前祝いみたいなもんやな!」


健太はハカセが担ぐ太鼓を自慢げに見せつける。


「ほ~う‥‥」


興味深そうに洋介が太鼓を見つめていると「洋介も叩いてみるか?」としたり顔で誘う健太。


「おお、良いんけ?」


ハカセから太鼓を受け取った洋介は、思わず笑顔に変わっている。


「気をつけて扱ってくださいね」


ハカセの忠告に洋介は一応頷くが、力一杯バチを握る姿に手加減する様子は微塵も無い。


「祭とケンカは男の華やけ、まあ見とけ!」


そう言って洋介は、何拍子とも解らない位デタラメに太鼓を叩き始めた。


「ヨ~ッ!ハッ!」


叩いている合間に洋介は、妙な掛け声まで入れている。

ひとしきり叩き終えると「どうや?こんなもんちゃうけ!」と満足顔でバチと太鼓をハカセに返す洋介。


「お~!良いやん!」


応援団員としての何を褒めているのか、何故か拍手する健太。


「さっぱりしたけ教室戻るわ!」

「おお、またな!」


振り返りもせず走り去る洋介に手を振る健太。


「僕達も早くしないと休み時間が終わりますよ」

「おお、そうやな!」


健太は校舎の掛け時計で時間を確認した後、慌てて立ち位置に戻る。


「けどさっきと同じアダ名での声援では、恥ずかしくて顔を出しずらいかも知れませんよ」


時間的にも諦めたようにハカセが太鼓を肩から下ろそうとすると「そういうもんか~何でも言えるのが仲間やろ、じゃあ名前やったら良いやろ!」と健太は手振りで再び太鼓を叩けとハカセに催促する。


「仕方ないですね」


ハカセは下ろしかけた太鼓を肩に担ぎ、再び太鼓を叩き始めた。


「フレー!フレー!光久~!」


ハカセの太鼓に合わせて、健太の声が響き渡る。

脇目も振らず二人が見上げた保健室の窓から顔を出したのは、保健室の先生だった。


「光久君夏風邪で休みだよ」

「え~!!」


以外そうに顔を見合わせる二人。


「それで来んかったんや!」

「やはり名前で呼んで正解でしたね」


冷静に状況分析するハカセとは対照的に健太は「夏風邪バンザ~イ!」と再びお祭り気分に戻っている。


「風邪で寝込んでいるのにバンザイは駄目ですよ」


安心した二人が笑い合っていると「お前達放課後ちょっと来い!」と背後から体育教師の怒鳴り声が二人を突き刺す。

睨みを効かす体育教師の前で健太は小さく返事を返したが、教師の姿が見えなくなると「説明は任した!」とハカセの肩に軽く手を置く。


「こんな時に団長権限ですか~?」


苦笑いでハカセがぼやくと「そう、団長命令や!」と健太はハカセを指差し妙なポーズを決めている。


「仕方ないですね!」


大方展開を予想していた様子でハカセは笑顔を返し、二人は教室に戻って行った。


放課後職員室隣りの個室で体育教師を待つ二人は、静かに顔を見合わせている。


「頼むから上手く言ってくれな!」


まるで悪巧みでもしているように、小声で耳打ちする健太に「どうしたのですか、珍しく慎重ですね」とハカセも小声になっている。


「せっかく手に入れた太鼓、取られるかもしれんやろ」


小声のままだが、膝を叩くジェスチャーで困り具合を強調する健太。


「確かにそれは困りますね!」


ハカセが笑顔を返したタイミングで個室の扉が開き、体育教師が入って来た。


「それでお前達‥‥休み時間に騒いでたのは何でなんや‥‥」


重苦しい雰囲気で、体育教師が唐突に話しを切り出すと「自主練です!」と緊張からか、必要以上に大きな声で返答する健太。


「自主練って、お前達部活入ってなかったやろ」


ソファーに座りかけながら、体育教師は話しを続ける。


「部活にはまだなってないですけど、応援団をしていまして」


怖いと有名な体育教師を前にして、ハカセの顔は緊張で強張っている。


「応援団~?」

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