第13話 五角鬼

 岩から体を出した岩動の足元に四つの異繋門が現れ、朔達が姿を見せたのに合わせて、要が外に出たことで、装甲結界が解けて巨神体へ戻った。

 「皆さん、鬼動集を倒したんですね」

 朔が、四人を見ながら聞く。

 「消し炭にしてやったぜ」

 「切り刻んであげましたわ」

 「木っ端微塵にした」

 「岩の下」

 四人が、妖鬼械をどう倒したか答えていくが、笑顔を浮かべる者は、一人も居ない。

 まだ戦いが終わっていないことを全員感じていて、それを証明するように鬼姫が姿を現す。

 「鬼動集を全員倒すとはやるな」

 鬼姫の口から出たのは、蔑みや罵倒ではなく称賛だった。

 「痛い目に合って少しは汐らしくなったか?」

 梓が、馬鹿にしたような薄笑いを浮かべて言う。

 五人の前に立つ鬼姫は仮面を付けず素顔を見せていて、朔に付けられた右目の切り傷を隠そうとせず、まるで見せ付けるかのように晒していたからだ。

 「さっきの言葉は嘘ではない。お前達星巫女の力が強大なのは知っていたがここまでやるてとは思わなかったからだ。もっとも巨神体の力があってのものだがな」

 五人の背後に立つ、巨神体を見ながら言う。

 「これからどうするつもり?」

 朔が、右手に出した哀斬刀の切っ先を向けながら聞く。

 「こうするのよ!」

 鬼姫が、両手を広げると四つの鬼道が開いて、中から出てきた四鬼の鬼代が梓達に飛び掛かり、鬼姫自身は朔に向かって来き、右手から出した刀で斬りかかってくる。

 「鬼代なんて今更過ぎんだよ!」

 梓達が、鬼代を破壊した直後、破片の中から鬼動集の被っていた仮面が現れ、四人の顔に張り付いていく。

 「うわ~!」

 仮面に張り付かれた四人はその場に倒れ、顔を抱えて苦しそうに呻き声を上げる。

 「皆さん、今助けます!」

 「仮面を斬れば爆発して四人の頭が吹き飛ぶぞ。さすがの星巫女でも頭を吹き飛ばされてはどうにもなるまい」

 鬼姫の声を聞いて、刀を持つ手を止める。

 「いったい何をした?」

 「仮面を通して奴等の霊力を奪っているのじゃ。鬼動集に仮面を被らせていたのはこの策の為であったのよ」

 鬼姫は、せせら笑いながら仕組みを説明する。

 「渡邉朔、妾と戦え。勝てばその者達も解放される。戦わずともよいが放っておけば霊力を吸い付くされて奴等は死ぬ」 

 朔は、返事をせず、式神とを出し、式神達に四人を異繋門に通して、安全な場所に移動させた後、巨体神に入って炎浄になる。

 「望み通り戦ってやる。お前の鬼械を出せ」

 立ったまま手を何もせず、鬼姫を見下ろしながら言い放つ。

 「それで良い。鬼身創造!」

 鬼姫が、声に合わせて右手を上げると上空に鬼道が開き、真っ黒で黒い光りを放ち、今までと雰囲気の異なる鬼力機関が現れ、周囲に散らばる鬼代の破片が集まってきて巨体を形作り、完成すると胸部が開き、飛び上がって中へ入る。

 「五角鬼!」

 鬼姫が乗る五角鬼は、鬼力機関と同じく真っ黒で、鎧を着ているように分厚い装甲に覆われ、頭、両肩、両肘と合わせて五つの角が付き、これまでの鬼械とは雰囲気のことなる強大さを感じさせる姿をしていた。

 「喜斬刀きざんとう

 鬼姫の声で、五角鬼の両手に刃の黒い刀が表れ、柄を握って持つことで、さらに強大さが増す。

 「哀斬刀!」

 朔は、炎浄に二本の刀を持たせる。

 「お前も刀を二本出せるのか」

 「霊力さえあればいくらでも出せる」

 「ならば、これはどうだ?炎獄えんごく

 鬼姫の声に乗せて、唾から吹き出す漆黒の炎が刃を覆い、喜斬刀をより禍々しく邪悪な武器へと変えていく。

 「火炎剣!」

 哀斬刀に灯された炎は、朔の激しい怒りと戦意を具現化したように赤味が増して、揺らめきも激しかった。

 二体は、合図も無く同時に駆け出し、地響きを起こしながら距離を詰め、炎浄は縦斬りに五角鬼は横斬りにと、右手に持つ刀を相手に向って振り降ろす。

 二本の刃がぶつかり、金属ならではの重味のある音を響かせ、発生した衝撃で大気が揺れ、赤と黒の大粒の火花が飛び散り、辺りの物を燃やしていく。

 音が鳴り止まない内に刀を引いた二体は、左手に持ってる刀を振って二撃目に入るが、一撃目と同じくぶつかり合うだけだった。

 それから二体は、相手を斬り付けようと違う角度から刀を振っていくが、その度にまるで示し合わせたかのように刃がぶつかり、重く激しい音を打ち鳴らし続けていく。

 「どうじゃ~朔。妾の剣さばきは?」

 「雑過ぎて言葉もない!」

 「これはどうじゃ?!」

 五角鬼が、剣を高速で突き出して来る。

 「はあっ!」

 朔は、炎浄に両腕と上体を右側に捻った後、気合いの入った声を出しながら反動を付けて、おもいきり真横に振り、二本分の猛烈な剣圧で五角鬼を吹き飛ばす。

 五角鬼は、空中で体勢を立て直して着地した後、地面を蹴って飛び上がり、刀を上段に構えて斬り掛かってきた。

 朔が、炎浄に両手の刀を前に出させて攻撃を受け止めた後、二体は互いに武器を引かず、力を押し合う体勢になり、赤と黒の炎が装甲の表面を激しく照り付け、刃同士が擦れ、全ての関節が軋み、ゆっくりかつ重い音が鳴らす。

 「黒雷」

 鬼姫が、言う間で喜斬刀から炎が消え、代わりに唾から出る黒い雷が刃を通して、炎浄の全身に電流を流す。

 「黒岩」

 電流攻撃を受けた炎浄が片肘を付く間で、地面から鋭く突き出した岩に腹を突かれたまま押し上げられ、千年桜より高くなったところで、刃を突き刺して岩を破壊して落下する最中、周囲を見回すが五角鬼の姿はどこにもない。

 鬼力の位置から居場所を探ろうとした直後、突然おもいっきり顔を殴られてぶっ飛ばされてしまう。

 何が起こったのか分からない中、腹に背中にと四方八方から攻撃を受け、一方的に打ちのめされた後、背中に強烈な一撃をくらい地面に叩き付けられ、立ち上がろうとするも頭上に現れた無数の黒い火縄銃が一斉に発砲してきて、炎浄を爆煙で覆っていく。

 銃撃が止み、ゆっくり降りて来た五角鬼が着地する間で煙が晴れ、無傷の炎浄が立ち上がって、姿を見せる。

 「やはりこの程度では倒せぬか。ところでどうじゃ、我が五角鬼の力は?」

 鬼姫が、余裕をたっぷり効かせた声で聞いてくる。

 「何故お前が梓さん達の力が使える?」

 「仮面を通して奪っている奴等の霊力を五角鬼の角に取り込んでおるからじゃ」

 「どうしてわたしの力は奪わなかった?」

 「直に痛め付け苦しめて殺したいからに決まっておろう」

 「ならその角を全部破壊すればみんなの力が戻るのね」

 「やれるのか?」

 「やってみせる」

 朔は、強い声で言い返す。

 「そうこなくてはな」

 「炎浄!阿修羅形態!」

 朔の声に合わせて、炎浄の両肩に溢れ出た霊力が、刀を持った四本の腕に変わり、六本腕の阿修羅のような姿になる。

 「腕を増やした分強くなっているのだろうな」

 「この形態にさせたことを後悔させてやる」

 二体は、走って距離を詰め、刀による打ち合いに入るが、腕の数で勝る炎浄が圧倒して、押し返される。

 それから飛び上がった五角鬼が放つ黒雷を刃で全て打ち散らし

 地面から突き出てくる岩を踏み台にして、五角鬼が居る高さまで一気に飛び上がって斬りかかり

 避けられた後の高速攻撃を六本の刃を使い全て弾き返し

 周囲を取り囲む銃から放たれた弾を駒込のように回って切り裂いたところで刀を全部束ね

 六本分にした大型の刃がら吹き出す極太の炎の柱を振り下ろし、五角鬼が炎獄で防いでも引くことなく押し付けたまま、地上へ向かって急降下していく。

 二体が地面に激突したことで、爆音と衝撃が起こり、噴火のような高い土煙が上がる。

 音が止まずに煙も晴れない中、体を起こした二体は刀を突き出すが、炎浄は動きが一瞬鈍った為に、哀斬刀の刃は五角鬼の左肩を火花を上げながら掠める一方、五角鬼の刃は炎浄の腹部に突き刺さり、刺された箇所から動力である霊力水がしたたり落ちて、地面に水色の大きな水溜まりがてきていく。

 「どうだ?さすがの星巫女もこれは痛かろう?」

 鬼姫の問いに朔は答えず、炎浄の損傷箇所と同じ腹部から流れ出る血を左手で抑える。

 「まだ痛くないならこれはどうじゃ?」

 言いながら喜斬刀をさらに押し出すと、切っ先が炎浄の背中を付き抜け、それに合わせて朔は口から血を吐き出し、足元に赤黒い染みができていく。

 装甲を突き抜けた炎浄の損失が体に直接伝わり、刺されたのと同じ箇所に傷を受け、吐血させたのだ。

 「このまま苦しみながら死ぬがいい」

 「これでやっと動きを止められた」

 「なんじゃと?」

 朔は、炎浄本体の両手の刀を消して、五角鬼の右腕を掴む。

 「離せ~!」

 「もう遅い!」

 五角鬼が両手を離そうと、暴れている間に四本の腕を動かし、両肩と両肘の角を叩き斬っていった。

 「これでみんなの力はもう使えない」

 「おのれ~!」

 鬼姫は、五角鬼の右足を突き出し、炎浄の胸部を蹴って引き離す。

 朔は、炎浄に両足を踏ん張らせて勢いを止めた後、左手から出す霊力で腹の傷を癒すが、それに比例するように増やしていた腕が消えていく。

 奇神を動かすのは、ただでさえ負担が大きい上に今日は二回目とあって、体に掛かる疲労も凄まじく、さらに腹を刺された深手を治癒したことで、阿修羅形態を維持できなくなってしまったのだ。

 左手の刀を消し、右手に残した刀に左手を添え、霞の構えの姿勢を取り、刃から炎を出した状態で、炎浄を五角鬼に走らせていく。

 「それでこそ殺しがいがあるというものだ!」

 鬼姫は、五角鬼に右腕を引いた姿勢で駆け出す。

 二体は、武器を振りながらすれ違うように駆け抜け、互いに背中合わせになったところで足を止める。

 足音が鳴り止む間で、五角鬼の左腕が肩から斬られて落ちた。

 炎浄は、両腕が刀を持ったまま落ち、地面に当たると刀が消えたことで、二本の腕に別かれた後、装甲結界が解けて、巨神体の腕に戻っていく。

 「ああ~!」

 朔は、中に反響するっぽいほどの悲鳴を上げた。

 腹部の時と同じく、炎浄の損傷が体に伝わり、両腕が斬れて肩から落ちたからだ。

 両肩から絶えず血が流れ出る中、振り返った瞬間、突き出てきた喜斬刀の切っ先に左目を突き刺された。

 「ああぁぁ~!」

 悲鳴を上げる朔の顔には、両腕と同じように刺し傷ができ、血がとめどなく流れ出る。

 炎浄は、片膝を付いてる頭を下げると、装甲結界が消え、巨神体に戻ってしまう。

 「あはははっ~!これじゃ!これの声が聞きたかったのじゃ~!真に良い悲鳴じゃ。これで妾の痛みが分かったであろう。面を上げい。その首をはねてくれるわ」

 鬼姫は、五角鬼に刀の切っ先を巨神体の顎に当てて、無理矢理に顔を上げさせる。

 「死ね~い!」

 五角鬼の振るう刃が、炎浄の首に迫る。

 っっっっっ!

 「な、なんじゃと~?!」

 鬼姫は、目の前の光景に驚きの声を上げた。

 巨神体が口を開け、中にある歯で刃を咥えて、攻撃を止めていたからだ。

 「ええい!離せ!離さぬか~!」

 鬼姫は、刃を離そうと、五鬼角の右腕を必死に動かすが、朔は巨神体から伝わる猛烈な不可により歯が折れ、口から大量の血を流しながらも咥えたまま離さない。

 朔は、左目と両腕の激痛を鬼を倒すという執念だけでかき消して、その勢いで体を突き動かし、巨神体に飛び上がらせ、右足を振り上げて、五角鬼の即答部にぶち当てて蹴り倒す。

 「哀斬刀!」

 朔は、刀を巨神体の口元に出し、歯で柄を咥え、五角鬼に向かって走らせていく。

 「おのれ~!」

 鬼姫は、五角鬼を起こし、刀を拾って走らせ、二体が振った刃がぶつかり合って、激音が響く中で、一本の刃がぶっ飛び、回りながら地面に突き刺さって揺れる。

 折れたのは喜斬刀の方で、哀斬刀の刃は五角鬼の胸に食い込んでいて、朔は力の限り巨神体を踏み込ませて、内部にある鬼力機関を切断していく。

 巨神体が足を止めると、口から刀が消え、左膝が地面に付き、続いて右肘が付いた後に崩れるようにして、うつ伏せに倒れたまま動かなくなり、その背後では鬼力機関を破壊された五角鬼が大爆発を起こす。

 「五角鬼を倒すとはほんに大したものじゃ 」

 爆発する前に外に出た鬼姫が、倒れて動かない巨神体を見て、笑いながら朔へ称賛の言葉を送る。

 「まあ、よい。これで超都の守りは無くなった。後は霊圧障壁を破壊するまでよ。朔、お前が妾に使った技をやらせてもらう」

 鬼姫は、右腕に散らばっている鬼代の破片を集め、鬼械の右腕を作り、右手に出した喜斬刀を持たせ、霊圧障壁におもいきり打ち込む。

 一回では変化は起きなかったが、何度も内に効力が弱まり薄くなって完全に消えてしまう。

 「ついに千年破れなかった皇居に足を踏み入れたぞ。朔よ、お前が守ろうとしたものが壊されるのをそこで感じてるがいい」

 鬼姫が、喜びの声を上げる中、目の前に異繋門が現れ、皇居内に待機していた御用隊と妖浄化隊が姿を見せる。

 「雑魚以下の分際が妾の前に立つな!」

 鬼姫は、右手を振って、黒い鬼力を波状に放つ。

 「お前の好きにはさせぬぞ」

 御用隊達の前に現れた異繋門から出てきた長巫女が、全面に展開した霊壁で鬼力を無効化する。

 「ならば皇居ごと消し飛ぶがいい!」

 両手を上げ、自身より遥かに巨大な鬼力の玉を作って、皇居へ向かって投げる。

 長巫女は、突き出す両手から霊力の巨大な矢を放ち、弾を砕いただけでなく、鬼姫へ向かっていく。

 鬼姫は、鬼力の壁を張って防ぐが、完全に無効化できず吹っ飛ばされる。

 「くそっ。このまま戦えば妾の鬼力が尽きてしまう。こうなれば最小の目的だけでも果たしてくれる」

 鬼姫は、その場から鬼影妨害装置の前まで飛び、着地すると右手を払う仕草から出す鬼力の波で土台を破壊し、右手から糸状の鬼力放って引く動作をすると、中から踞った状態の干物が出てきた。

 「ようやく会えましたな。我が祖先よ」

 嬉しそうに微笑みながら干物に話しかる。

 「そこまでだ!」

 鬼姫の前に、両拳に雷を込めた状態の梓が姿を現す。

 「霊力をたっぷり吸われた後なのにもう起きたのか。さすがは星巫女じゃな」

 「お前を今すぐ倒す霊力くらい残ってるんだよ!」

 両拳を突き出して稲妻を放つが、鬼姫の鬼力の壁に阻まれてしまう。

 「その程度の雷で妾は倒せぬぞ。さらばだ。次は酒呑童子と共に都を滅ぼしてやろうぞ」

 鬼姫は、背後に鬼道を出し、干物を抱えたままその場から去っていく。

 「酒呑童子だと?」

 梓が、疑問を口していた。

 

 「朔さん!」

 「朔!」

 巨神体の側に駆け付けた奏達の呼び掛けに対し、中に居る朔は倒れたまま反応しなかった。

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