気まぐれ短編集

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

雪の日って、傘さすかどうか悩むよね

 二学期の終業式を終えて学校を出ると、大雪が降っていた。

 軽く吹雪いている。


 まいったな、傘を持ってきていない。


 天気では寒いとだけ書かれていた。それにしても雪が降るなんて。

 

「わあ、雪だねぇ」


 あたたかそうなモコモコブーツに履き替えた二条 コユキさんが、灰色の空を見上げながら微笑む。

 雪ではしゃぐなんて、ショートカットでちょっと少年っぽいところがある。


 ボクみたいな陰キャに話しかけてくるのは、クラスでも彼女くらいだ。

 単に、同じ部活だったからってだけかも知れないが。

 

「積もるかなぁ、隆一りゅういちくん」

「と、思うよ?」

 

 身体を動かして寒さに耐えながら、ボクも返す。


「どうしたの? 帰らないの?」

「いや、傘がなくて」

「わかる。雪の日って、傘をさすかどうか迷うときってあるよね」

 

 たしかに、言えるかも。


 雪って雨が凍ったものと言っていい。


 しかし、当たっても対して濡れない。溶ける前に風で流される時がある。

 頭に当たると、すぐに溶けて冷たくなっちゃうけど。


「これだけ吹雪いてると、傘がないと辛いね」

「だねえ。そう思ってさ、じゃーん」


 コユキさんが、カバンから折りたたみ傘を出す。

 ピンク色の水玉だ。


「用意いいね」

「でしょー。でもいいんだ」


 なんと、コユキさんは折りたたみをボクに差し出す。


「貸してあげる」

「いいの?」

「だって寒いんだよね?」


 そういうコユキさんの吐く息も、白くなっている。

 唇も、わずかに震えていた。


「コユキさん、カゼ引いちゃうよ。もうすぐ大学の試験でしょ?」

「いいよ。雪の日くらいハシャイでいたい。ウチも近いからさ、バッと帰ってさっとお風呂に入ったらバッチリだよ。ていうかそういうのがやりたい」


 

 どこまでも男の子だなぁ、この人の中身は。

 スカートはすっごい短いんだけど。

 どうして演劇部だと、あんなにヒロイン役が務まるんだろう?

 


「ありがとう。でも、ホントにいいの? 返すの来年になるよ」

「なんで? 別に今年会ってもいいじゃん」


 ボクは、心臓が止まりそうになった。


「ど、どうし、て?」


 部活だと、ボクはただの裏方である。

 演技もしない。

 ただ、ちょっと脚本が書けるだけ。


 それでも、彼女はボクが描いたヒロインを演じてみせた。


 しかし、今の彼女は演技中の顔をしていない。

 


「いや、部活引退したじゃん。なんか、戦友として、接点欲しくてさ」


「そっか。わかった」


 ボクは、傘をさす。

 コユキさんの隣で。


「わあ、相合傘だねぇ」

「送るよ。それと、受験が終わったらさ、一緒にどっか行こう」

「うん。ありがとう」


 コユキさんの手が、傘をさすボクの手と重なった。

   

 彼女の顔がかすかに朱に染まっている。


 それは、演技でも雪のせいでもないと、思いたかった。

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