1-2 コミュ障大パニック




「ん?え?えと、え?」


 拳悟は半ばパニクっていた、目の前の少女は会って間もないはずの自分を家に入れようとしている。


「私達の家に来てください!」

「いや、えーと、流石にまずいんじゃ、」

 もう一度そう言った彼女に対し拳悟は苦笑いを浮かべながらそう言った。

「何もまずくはありません!ケンゴ様は私達の命の恩人なのですよ!」

「いや〜、それでも、」


 全く引く気配のないイリスに拳悟はますます困る。


「あの、レ、レナさんはどう思いますか?流石にまずいですよねぇ?」

「いえ、私はお嬢様と同意見です。」

 レナに助けを求めたつもりだったが意味はなかったようだ。



 ****



「さあ拳悟様!ここが私達の家でございます!」



 結局イリスは折れることはなく、それでいて悩む拳悟の腕を掴んで強引に歩かせてきた、そして歩くこと15分ほどで拳悟はイリスとレナの家に到着した。



「ここが、イリスさんとレナさんのお家ですか、すごく立派ですねぇ、」


 目の前の家はお屋敷という言葉が似合う、とても立派な家であった。


「ありがとうございます!今門を開けるので待ってくださいね!」


 イリスはそういうと大きな門の真ん中にある紋章に手を添えた、すると門から金属音が鳴り門は一人でに開いた。


 拳悟はもちろん驚いた、この古そうな文明の中になぜそんなハイテクな設備があるのか、彼の中で消えかけていたある疑問が再び浮かび上がってきた。






 玄関を開け、目に飛び込んだのはこれまた立派なホールだった、中央に階段がありその階段がまた左右に伸びておりそこからそれぞれの部屋があるようだ。


 また豪華ながらどこか落ち着く、派手すぎない装飾品がその立派さに拍車をかけていた。


 ただ一つ気になったことがある、使用人がいないのだ、これだけ立派な屋敷なら最低でも5人ほどはいるはずである。


「さあ、ケンゴ様!こちらへどうぞ。」

「イリス様、ちょうど良い時間ですので私は夕食を作ってまいります。」

 そう言ってイリスはケンゴの手を引き、レナはキッチンへと向かった。




 イリスに案内されたのはそこまで広すぎない真ん中に丸いテーブルのある部屋だった。

 イリスは丸テーブルの椅子を引いてケンゴを招いた。


「どうぞお掛けになってください!イリスのごはんは絶品ですので楽しみにしてくださいね!」


「はあ、ほ、本当に何から何まで、ありがとうございます。」


「そんなに固くならないでください!何度も言いますがケンゴ様は私達の命の恩人なんですから!」


「い、いや、それでも、」


 そんな話を続けているとレナが台車を引いて部屋に入ってきた。


「お待たせいたしました。」


 そう言うと、丸テーブルの上にテキパキと料理を並べ始める。

 内容は真ん中の大きめの皿にサラダと、それぞれの場所にパンとスープ、そしてメインの鶏肉のようなもののステーキだ。


(どれもこれも素晴らしい出来だ、香りもとてもいい。ここにきてからまだ10分経ったかもわからないのにこれだけの料理を作るなんて。)


 目の前に並べられた料理の数々に拳悟はそう思った。

 そう拳悟が思っている時、レナがみんなに声をかけた。

「さあ!冷めないうちに頂きましょう!」


「そうですね」

 イリスの言葉にそう返すと拳悟は手を合わせた

「いただきます」


 ケンゴはまずメインのチキンのソテーのようなものを一口食べた。

 肉質は中までしっかりと火が通っているのに、硬くなく、パサつきもない、それでいて表面はパリッとしていて絶妙な焼き加減だ。そしてちょうどいい塩梅の塩加減が最高だ。

 しっかりと堪能した後、ケンゴは上にかかっているソースに絡めてもう一口食べる。

 数種類の野菜を煮込んで作っているのか、甘みのある深い味わいのソースだ、それが口の中でチキンと絡み合いなんとも言えない幸福感を与えてくれる。


「いかがでしょうか、ケンゴ様?」


 ゆっくりと堪能しているケンゴにレナが問いかけた。


「おいしい、本当に美味しい、それしか言葉が出ないほどに美味しいです。」


 ケンゴは心からの言葉をレナに伝えた。


「ありがとうございます。」


 そう言ったレナの顔は先程よりも柔らかくなっており、心なしか赤らんでいた。


 そこからは主食のパンや付け合わせのスープなども食べながら、淡々と食事が進んでいった。


 そして全員が全てを食べ終えたところでイリスがケンゴに問いかけた。


「ケンゴ様、よろしければで構いません、お答えいただけないでしょうか?」


「なんですか、イリスさん?」


 不安げに言うイリスに少し動揺しながらケンゴは返した。

 そして意を決したイリスが言った。


「ケンゴさん、あなたの力はどのようなものなのでしょうか?身体強化魔法の1つでしょうか?もしくはまた別の魔法なのですか?すみません、とても気になってしまって、でもお願いします!教えていただきたいのです!」


 イリスが必死になって聞いている時、ケンゴはとにかく動揺していた、嘘だ、そんなはずはない、絶対にありえない、そんな訳がないだろうと。


「大丈夫ですかケンゴ様?落ち着いてください、言いたくないのであれば、よろしいですので、」


 どうやら表情に出ていたらしく、クールな態度をしていたレナが本気で心配してケンゴに言った。


「だ、大丈夫です、すみません、」


 心を落ち着かせながら、ケンゴはレナに返した。

 そしてこう言い放った。


「その、質問で返してしまうようで申し訳無いのですが、イリスさんが言う魔法とは一体どういうものなのでしょうか?自分には全く分からなくて、」



 ******


「えっと、ケンゴさんは、魔法を知らないのでしょうか?」

「はい、さっぱり、」


 驚いたイリスがケンゴに問い、ケンゴが答えた。

 これに関してはレナも驚いてケンゴに問いかけた。


「失礼ですが、ケンゴ様、ケンゴ様が住んでいるところでは魔法がなかったのですか?」

「ええ、確かそういう話は聞いたことはあるんですが、空想の産物でした。」

「く、空想の産物」


 レナの問いに対するケンゴの答えにイリスが絶句した。


 なぜ絶句したか、それはあのケンゴの圧倒的な力である。


「ケンゴさん、それでしたらケンゴさんのあの力は一体どういうものなのですか?差し支えなければ教えて頂きたいのですが、」


 恐る恐る問いかけたイリスに対し、ケンゴはこう答えた。


「じ、自分は昔から武術を学んでいまして、あれはその武術の技の1つです。」


「な、なるほど、武術ですか、」


 レナは心底驚いていた。なぜあの圧倒的な力を魔法なしで行使できるのかと。


「自分からも1つ聞きたいのですが、魔法というのはどのようなものなのですか?全く考えが及ばなくて。」


 そう聞いたケンゴに対してイリスが答えた。


「は、はい!魔法というのは、人間の中にある魔力というものでさまざまな事象を起こすことです。例えば火や水を発生させたり風を起こしたりします。」

「なるほど、」

「それらは単純に生活に役立てるのみならず、威力を強くして攻撃に使うこともできます。さらに魔力は人それぞれ形質が違いましてそれを登録しておいて鍵に応用することもできます!この家の門もそうです!」

「なるほど、だから先ほど手をかざすだけで鍵が開いたんですね、」





 それからひとしきり魔法の話を二人から聞いたり逆に質問したりで時間が過ぎていった。





「説明して頂き、ありがとうございます、魔法ってとってもすごいんですね!」


「いえ!なんだか説明していてとっても楽しかったです!ですよねレナ!」


「はい、普段こういう機会がないのでとても新鮮でした。」


「へぇ、それほどまでに身近なものなんですね、」


「そうですね、ごく稀に使えない人もいるようですが、その人たちはまた違うものを使えるようですので、」


 レナはそう答えたあと立ち上がりこう言った。


「それでは、かなり長く話したので、今日はもうお休みになりましょう。ケンゴ様、お部屋にご案内します。」


「えーー、もっと話しましょうよ、レナ〜」


「お嬢様、もういい時間ですよ、夜更かしは美容の敵でございます。」


「ぶー、わかりました。」


 イリスを説得したレナは再びケンゴに向き直った。


「ではケンゴ様付いてきてください。」

「あ、はい、すみません」














「こ、この部屋を使っていいんですか?」

「ええ、ご不満でしたらまた別の部屋を」

「いやいや!そういうことじゃないんです!むしろ十分すぎます!」

「そうですか、こちらとしてはむしろなぜこんな部屋なのかと文句を言われるとおもってました。ケンゴ様は命の恩人ですから」

「い、いや、あの、本当に気にしないでください、むしろこちらの方こそご飯から寝床まで用意してくださって、頭が上がりませんので、」

「お言葉を返すようですが、お気になさらないでください、これくらい当然のことです。」


 そう言ったあとレナはケンゴに手をかざす。


「失礼します『クリーン』」


 レナがそう唱えた瞬間ケンゴの体は心なしか綺麗になっていた、まるで風呂に入った後のように、さらに体だけでなく服もきれいになっていた。


「え!これって!」

「いえ、なにぶん色々ありまして、シャワーを準備することができませんでした。簡易的ですがせめてお体を清める魔法を少々、」

「す、すいません、本当にありがとうございます。」


 魔法とはとても便利な物だと、ケンゴは心の底から思っていた。

「ではお休みなさいませ、ケンゴ様」

「はい、お休みなさい、」


 そう言いレナはケンゴの寝室のドアを閉めた。










 その後ベッドに横になりながらケンゴは考えていた。


(この、世界観、あの竜のような生き物、そして魔法、ありえないと思ってたけど、ここはやっぱり異世界、なのか、)


 そう結論づけたあとケンゴはこう考える。


(なぜ僕はここにきたんだろうか、元の世界には帰れるんだろうか、)


 考えれば考えるほど混乱していく、しかしその時間は長くは続かなかった。


(ね、眠い、色々あって疲れたのか、今日は睡魔に任せた方が良さそうだ。)


 そう思ったケンゴは目を閉じ、程なくして眠りに落ちた。









 ケンゴが眠りに落ちてしばらくした後、ケンゴの寝室に入るものがいた。

 








「ん、、、んあー、よく寝たなぁ、」


 比較的朝早い時間に、ケンゴは目を覚ました。

 この柔らかいベッドのおかげで彼は全ての疲れを飛ばすことができた。


「さて、今日も一日頑張るか」


 そう言って身体をおこした時だった。

 不意に手のひらにとても柔らかい感触が感じられた。

「んぁ」

 それと同時にどこか艶めかしい声も聞こえた。


「????」


 ケンゴは気づいた。

 なぜか自分のすぐ隣に毛布越しに不自然な膨らみがあることに。

 恐る恐る毛布をめくるケンゴ。



 そこにいたのはイリスだった。


「!?!?!?!?」


 ケンゴは声にならない悲鳴を上げた。

 超絶コミュ症の彼にとって同じベッドに女性が寝ているというのは発狂ものだ。

 まともに物事が考えられない。


「ふわぁ〜〜、あ、あ、おはようございます、ケンゴ様。そ、その、感謝の念をもう一度伝えようと思ったらとても気持ちよさそうに寝ていたためつい、一緒に寝てしまいました。て、てへ」

 

 イリスが何か言っているようだがまともに入ってこない状態のケンゴ。

 ケンゴがパニックになっている時、彼の部屋のドアが開けられた。


「おはようございます、ケンゴ様、朝食にし、しま、、、、」


 ドアを開けたのはレナだった。そしてその光景もしっかりと見た。


「・・・・お嬢様、一体ナニをなさっていたのですか?」


 静かにイリスに問うレナ、心なしか怒りが滲んでいる。


「れ、レナ、これはその、ケンゴ様に感謝をしようと思いまして。」

「・・・・一緒のベッドで寝る必要があったのですか?」

「い、いいじゃないですか!あなたには関係ないでしょう」

「・・・・お嬢様、私もひとりの女です。好意を寄せる殿方くらいいます。」

「・・・・レナ、悪いけど、私は負けられない。」


 2人の間に火花が散らされた時、レナは気づいた。


 先程からケンゴが微動だにしないことに。


「ケンゴ様、いかがなされましたか?ケンゴ様?ケンゴ様?おーい、あれ、ケンゴ様?え?」


 レナがなおも問いかけ顔を覗いた時彼女は気づいた。


「イ、イリス様たいへんでございます。!ケンゴ様が気を失っております!」

「な、なんと!ケンゴ様お気を確かに!ケンゴ様?ケンゴ様ーーーーーーーーー!!!!」


 その後、ケンゴが目を覚ますまでには1時間ほどかかった。






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