第4話 村長の来訪

精霊の加護

Zu-Y


№4 村長の来訪


~~現在・ゲオルク19歳~~


 10歳の思い出を振り切って現実に戻る。


 いい思い出のない東府魔法学院だが、よくよく考えると魔法が使えない生徒を魔法学院が除籍するのは当然のことだ。それよりも、桁外れの魔力量で、入試もなしに特別入学させてくれたのだから、それこそ優遇されていたのだろう。俺は魔法学院に対する認識を改めた。


 あのときは東府教会の大司教様が大層慰めてくれたっけ。帰りの路銀もくれたんだよな。

 夢破れて打ちひしがれて帰って来た俺に、冷たかったのはこの村の連中だった。あのときは詐欺師とまで言われたが、それを庇ってくれたのが神父さんだった。


 切ない思い出でひと括りにしてたけど、魔法学院と村の対応を一緒にしたらまずいな。そう言えば魔法学院の先生~多分ルードビッヒ教授~も、研究対象として残れるように交渉してみるって言って庇ってくれたよな。


 村を歩いてると行き交う村人は、こちらから挨拶しても「ああ。」とひと言か、無視して素通りだ。お世辞にも友好的な態度とは言えない。

 3年半前に帰ったときは、村長さんにも挨拶に行ったが、こんな感じの素っ気ない対応だったから、今回は挨拶に行かなくてもいいだろう。行ったら却って仕事の邪魔することになるかもしれないしな。


 まだ昼前だし、家に帰ってアルと遊ぶか、それとも狩りに行くか。そう言えば母さんが家の裏の畑がどうとか言ってたな。それを手伝ってもいいな。ま、取り敢えず帰ろ。


 家に着くと母さんが畑を耕してた。アルも手伝ってる。感心な弟だ。笑

「母さん、代ろうか?」

「いいわよ。たまに帰って来たんだからゆっくり休んでなさい。」

「耕してんの?」

「そうよ。前の作物の収穫が終わったから植え替えるのに固くなったところをちょこっとね。」母さんは汗びっしょりだ。

「ほれ、鍬、貸してみ。」俺は鍬を受け取って耕し始めた。


『ゲオルク。』右肩に乗ってるクレがちょんちょん突ついて来た。

「ん?何?」

『クレが、やる。イメージ、ちょうだい。』

「あ、そっか。

 母さん、クレが手伝ってくれるから見てて。アルもな。」


 畑全体を耕すイメージをクレに送ると、畑の土がもごもご動いてあっと言う間に全面が耕されてしまった。呆然としてる母さん。アルは「しゅげーしゅげー。」と大はしゃぎだ。

 すぐにクレに魔力を補給すると、クレが橙色に光って、これにもアルが反応した。

「うわぁー、ちゅーしたら光ったー!」


 それから3人で畑にいろいろな種をまいた。水をまき終わると、左肩に乗ってるツリがつんつん突いて来た。

『ゲオルク、ツリに、任せて。』

「あ、そっか。

 母さん、ツリが手伝ってくれるから見てて。アルもな。」


 作物が育つイメージをツリに送ると、今まいた種が芽を出してぐんぐん伸びた。

「母さん、全部収穫する?それとも収穫期に少しずつ差を付けとく?」

「…。」母さんが声にならない。その横でアルがぴょんぴょん跳ね回って、狂喜している。笑

 ここでツリに魔力を補給すると、ツリが緑色に光って、またアルが反応した。

「しゅげー、ちゅーしたらまた光ったー!」


 落ち着きを取り戻した母さんが、ダイズだけ若いまま収穫すると言う。塩茹でにして枝豆にするんだな。父さんの大好物だ。


 収穫後、家に戻ると母さんが大鍋に収穫した枝豆を入れて、塩茹でを始めた。その間、俺はアルの面倒を見たのだが、アルは完全に精霊魔法にはまってしまい、「伸びろー。」とか「耕せー。」とか、あちこちに向かって叫んでいた。


「ゲオ兄。アルにもちゅーして。アルも光る。」これには参った。笑

「ちゅーしてもいいけど、アルは光んないぞ。」

「なんでー?」

「アルは精霊じゃないからな。」

「えー、つまんなーい。じゃぁ、ちゅーは要らなーい。」


 アルが大騒ぎしてるところに父さんが帰って来た。今日も獲物をたくさん獲って来た。流石に父さんは腕がいい。明日は、また教会だから、明後日は父さんと一緒に狩りに行くかな。


「おい、枝豆の塩茹でじゃないか!どうした?」父さんは眼を瞠っている。

「それがねぇ、…。」母さんが事情を説明すると、父さんは大喜びで、クレとツリにお礼を言った。

 まぁ、ふたりは反応しないけどね。


 何と言うか人見知りの子供のような感じだ。精霊を見る力があるアルとは遊ぶが、精霊を見る力がない父さんや母さんの呼び掛けには反応せず、俺の所に寄って来て隠れる。

「うーん、俺は嫌われてるのかな?」

「嫌われてはないけど、もともと父さんは精霊を見ることができないだろ?だから、関りを持ちにくいんだよ。」

「じゃぁ、ゲオルク。俺の感謝の気持ちを伝えてくれ。」

「ツリ、クレ、父さんがありがとうってさ。」

『それは、知ってる。』『分かってると、言って。』

「父さん、感謝の気持ちは伝わってるってさ。」

「そうか。伝わったか。」父さんは嬉しそうだ。


 それから、夕餉は父さんと俺が枝豆をつまみにヴァイツェンで乾杯した。ヴァイツェンは別名白ビール。酵母で濁っていてフルーティな甘みが特徴だ。

 父さんが非常に優秀な狩人だから、うちの食卓は豪勢だ。肉はいつもたっぷりある。

 アルがお眠になって、コテっと寝てしまってからは、母さんも宴会に加わった。しかし、幼児はスイッチが切れたように急に眠るよな。

 それから親子3人での楽しい宴が夜遅くまで続いた。


 翌日はあいにくの雨だったので、父さんは狩りに行かずに、弓の手入れを入念に行なっている。俺も一緒に弓の手入れを行なった。

「ゲオルク、見せてみろ。」

 父さんに弓を渡すと入念にチェックされたが、にやっと笑って返してくれた。

「まずまずだ。この調子で手入れを怠るなよ。」

「はい。」


 その横でアルは相変わらず、「伸びろー。」とか「耕せー。」とか、飽きずにやっている。余程、精霊魔法がツボに入ったらしい。笑


 今日は、教会に行って、神父さんから東府教会の大司教様への紹介状を頂くのだが、この雨なので様子見だ。まだ本降りなので、小降りになってから行くつもりだ。


 ドンドン。扉を叩く音がする。来客か?母さんが対応に出た。

「あら、村長さんとこの小僧さん。どうしたの?」

「村長の使いで来たんですがゲオルクさんはいますか?すぐ来て欲しいそうです。」

 父さんが乱入した。

「小僧、村長に言っとけ。いいか、『ふざけるな。この大雨の中を呼びつけるたぁどう言う了見だ!用があったらそっちから出向いて来い!』ってな。分かったか。」

「はい。」小僧さんが父さんの剣幕に一歩後退る。

「おめぇも大雨の中、大変だったな。これは駄賃だ。気を付けて帰れよ。じゃあな。」

「ありがとうございます。」小僧さんは嬉しそうに駄賃を受け取った。


 小一時間程経ったろうか。ドンドン!再び扉を叩く音がする。また来客か?母さんが対応に出た。

「あら村長、珍しい。どうしたの?」

「ヒルダ、すまんな。ゲオルクが帰って来てると聞いたんでな。」

「ええ、帰って来てるけど、うちのゲオルクに何の用です?」

「いや、久しぶりなんで、顔を見に来たんだが。」

「おい、村長。てめぇは顔を見るために、この大雨の中、ゲオルクを呼びつけやがったのか?」

「いや、そう言う訳ではないんだが。」


「じゃぁ、ゲオルクに何の用だ?お前らガキの頃のゲオルクを詐欺師扱いしやがったよな?また何か因縁付けに来たのか?」

「おいカール、わしはゲオルクを詐欺師扱いになどしておらんぞ。」

「ふん、どうだかな。あのとき、ゲオルクを庇ってくれたのは神父さんだけだったぞ。」

「わしも庇ったつもりだがな。」

「つもりだと?嘘つけ、村長!あんたは詐欺師扱いしなかったかもしれんが、庇いもしなかった。詐欺師扱いした奴らを野放しにしたじゃないか。そんなの、詐欺師扱いした奴らの片棒を担いだのと一緒だ。」

「そんな。カール、それはあんまりだ。」

「ふざけるな!それはゲオルクの台詞だぞ。」


「まぁまぁ、父さん。

 村長さん、お久しぶりです。3年前半に帰って来たときは、挨拶に行ったらご迷惑そうだったんで、今回は挨拶に行くのを遠慮したんですよ。お邪魔しちゃまたご迷惑をお掛けすると思ったもので。前回も挨拶に行ったらとても喜んでくれた神父さんには、今回も真っ先に挨拶に行きましたけどね。

 村長さん、顔も見せましたし、これでいいですか?俺、今忙しいんですよ。」

「ゲオルク、それは誤解だ。」

「もういいですよ。どうせ俺はこの村の邪魔者ですし。次の行商が来たらまた発ちますから。それまで見逃して下さい。」


「いや。ちょっと話が。」

「今、忙しいって言ってるだろ。じゃあな、村長。」

「まぁまぁ、父さん。

 村長さん、お話があるなら午後に教会に行くので、教会にいらして下さい。今、弓の手入れをしてて本当に手が離せないんですよ。」

「午後は来客があるんだ。」

「村長さん、俺は別に村長さんと話をしなくてもいいんですよ。俺から村長さんに用はありませんので。そちらに出向くつもりもありませんしね。」

「分かった。何とか都合付ける。」


「ああ、それと教会での用事が終わったとき、いらしてなかったら待ちませんからそのおつもりで。」

「分かった。午後のいつ頃行けばいい?」

「さぁ、弓の手入れが終わってて、雨が小降りになったらですかね?」

「分かった。邪魔してすまなかったな。じゃあ午後に教会で。」

 村長さんは大雨の中、帰って行った。


「ゲオルクよぅ、おめぇも大概だな。」

「なにがさ。」

「村長のあしらいだよ。下手に出てるくせになかなかえげつなかったぜ。」

「関わりたくないのを、しっかり伝えるためだよ。」

「まぁな。しかし今更何の用なんだろな。」

「ほんとよねぇ。気持ち悪いったらないわ。」

「まぁ、なんか頼みでもあるのかねぇ。村の子の誰かが、冒険者になりたがってるから面倒見ろとか?お断りだけどね。」


 俺は、父さんと一緒に弓矢の手入れを続けた。


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この後の更新は火木土の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664


小説家になろう様にも投稿します。

https://ncode.syosetu.com/n2050hk/


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