第4話 必勝祈願の水垢離と禊
射手の統領
Zu-Y
№4 必勝祈願の水垢離と禊
黄金龍の居場所を突き止める霊峰登山は、たったの2日半だった。
流邏矢の乙矢で樹海を越え、初日はフジの霊峰の5合目まで。乙矢を登録し直し、流邏矢の甲矢でテンバの町のユノベ館に戻る。
翌日は5合目から8合目。
3日目には、操龍弓の神龍気配探知で、昼前には黄金龍の巣を見付けた。
黄金龍は案の定、巣で爆睡してたので、一気に狩ってやろうかと一瞬だけ思ったが、抜け駆けに激怒するサヤ姉とサジ姉の般若の表情が脳裏を掠め、思いとどまった。
館に帰還し、館の北の歴代統領霊廟に、亡き親父を詣でる。
俺の成人の試練を介添してくれるサヤ姉とサジ姉を伴い、3人で加護を願って、必勝を誓った。
親父を詣でた後、館の垢離場に向かい、冷泉で水垢離をしてから、冷泉に浸かって禊をした。これも必勝祈願の一環である。
なお、誤解のないように、3人とも浴衣を着ていたことを申し添えておく!
浴衣が純白の薄い生地だったとか、透けて見えたふたりの小ぶりな双丘の頂はポチリとしてたとか、そのポチリはサヤ姉が桃色でサジ姉が桜色だったとか、そのせいでマイサンがイキり立ってマイドラゴンに変身したとか、それをゴマ化すために「うぉぉぉ、漲って来たー!」と叫んで、トランスしたように装ったとか、そんなのは些細なことだ。
トランスに入ったふりがバレない様に、虚空を見つめ、
「サヤ、サジ、先に出よ。俺は明日の戦略をここで練る。」
と呟いた。
ふたりは素直に、「「はい」」と言って出て行った。
敢えて呼び捨てにし、呟くように言ったのが肝だ。完璧だ。
マイドラゴンが変身を解いて、ノーマルなマイサンとして落ち着くまで30分も冷泉に浸かる羽目になった。
ちなみにユノベの館の冷泉は、ユノベ本拠の敷地内に湧き出ていて、それを館に引いている。
冷泉と言っても冷たくはない。心地よい涼感の無色透明炭酸泉である。鉱泉のカテゴリーで言えば、冷泉ではなく低温泉なのだが、他のふたつの温泉と比較して、便宜上、冷泉と呼んでいる。
浸かってしばらくすると、細かい気泡が体を包み、リラックス効果が高まって来る。当然、30分浸かってても風邪をひく心配はない。
その他にも、館には温泉がふたつある。濃白濁の硫化水素泉と、赤濁の含鉄高張食塩泉である。
どちらも霊峰の麓の別の場所に湧いていて、そこから館まで引いて来ている。
濃白濁硫化水素泉、いわゆる白濁硫黄泉は、卵の腐ったような匂いがきつい。敢えて「匂い」と表現したように、俺はまさに温泉のこの匂いが大好きである。
含鉄高張食塩泉は、高張食塩水のため、湯上りの保温効果が抜群で、出た後しばらくは汗が止まらない。
どちらも心地よい熱さだ。
ユノベ本拠には、館の他に大湯殿があり、そちらは家来どもも自由に利用できる。ケガの治療にはもって来いだ。
余談だが、その気になれば、ユノベ本拠で温泉宿も開けるだろう。3種の特徴ある源泉だから、温泉好きにはたまらないはずだ。
~~サヤ・サジ目線~~
「呼び捨て…だった…。」
「そうね。多分、トランスしたふりを強調したかったんじゃないかしら。」
「何か…ゴマ化して…たかな…。きっと…。」
「禊で冷泉に入ったとき、チラ見してたわよね。」
こくり。
「浴衣…透ける…から…。」
「まぁ、ガン見して来るよりましよね。」
「ふふ…アタルも…お年頃…。仕方…ない…。」
「納まるまで出て来られないわね。」
「んー…かわいい…。」
「明日の戦略、立てて来るかしら?」
「無心で…行く…。とか…?」
「そんな程度でしょうね。」
~~アタル目線~~
どうせ、黄金龍の奴は爆睡中だろうからな。戦略もへったくれもないよな。でも、出たら戦略は?って聞かれるよな。どうすっかなぁ。
雑念を捨てて無心で当たる。臨機応変に出たとこ勝負。策の通じる相手ではないから敢えて無策の策で行く。
どれも説得力ねぇぇぇ。
射手の俺と医薬士のサジ姉は後衛、剣士のサヤ姉は前衛だ。サヤ姉は軽装備の剣士だから、このパーティの欠点は防御力だ。
それに俺の成人の試練だから、介添のふたりに働かせる訳には行かない。黄金龍が爆睡前提の奇襲だが、万が一起きていたら…。
垢離場を出て奥の居間に行くと、サヤ姉とサジ姉が待っていた。
「作戦はまとまったかしら?気になるわよね?サジ。」
こくり。
「無心で…行く…。とか…?」ギクッ!
「それとも出たとこ勝負とか?」ギクッ、ギクッ!
「敢て…無策の…策…とか…?」ギクッ、ギクッ、ギクッ!
いや、確かにそんなことも考えたが、こいつら、心が読めるのか?
「サヤ…。図星…みたい…。」
「そうね。なんか今は、心が読めるのか?とか思ってそうね。」
「え?マジで読めるのか?」
「そんな訳ないでしょう。でもアタルの考えなんか、手に取るように分かるわよ。単純なんだから。ね?サジ。」
こくり。
「私たちと…一緒に…出られ…なかった…。なぜ…?」ニヤニヤ
「あらぁ、ようやく納まったのかしらね。」ニヤニヤ
「チラ見…してた…。」ニヤニヤ
「禊の最中に不謹慎よねぇ。」ニヤニヤ
パク、パク、パク…俺、酸欠金魚。
あー、もう取り繕ってもしょうがないな。
「はは…あはははは。」
「何がおかしいのよ。」
「いや、もう笑うしかないだろ。」
「開き…直り…かな…?」
「いや、立ち直ったの。今更ふたりに取り繕ってもしょうがないでしょ。バレバレなんだから。」
「立ち直り…早い…。」
「まぁ、立ち直りって言うよりも、吹っ切れたって方がしっくり来るかなぁ。あれこれ言い訳してもドツボにはまるだけだし。」
「あら、潔いわねぇ。もうちょっとあたふた言い訳して欲しかったかな。」
随分と上からな言い草だな。よし、そろそろ反撃に出るか。見てろよ。
「いやいや、そもそも浴衣が悪いんだよ。白で薄手じゃあ、濡れたら透けるに決まってるじゃん。そりゃ、チラ見もするって。」
「堂々と…白状…した…。」
「チラ見したのは俺の意思ではなく、本能がなせる業だ。ガン見しなかったのは俺の意志、すなわち理性が頑張ったからだ。そこは褒めて欲しいくらいだ。」
「言うわねぇ。この変態が。」
「何を言う。変態なもんか。男の性だ。まっとうだよ。そもそもふたりに女としての魅力がなければチラ見はしないぞ。」
「「えっ?」」ほのかに赤くなるふたり。…よし、ジャブが効いた。たたみかけてやる。
「チラ見でもな、サヤ姉の桃色とサジ姉の桜色は、しっかりこの目に焼き付けたぜ。」メガトン級の爆弾投下だ。カーっと真っ赤になるふたり。
両腕で自分の胸を隠すしぐさをして横を向き、ジト目を向けて来る。ふたりの仕草がものの見事にシンクロしている。かわいいぞ、コラ。一気に形勢は逆転したな。よっしゃあ、トドメだ。
「俺のことを変態とか言ってたけどな、桃色も桜色も、はっきりとポッチリしてたぞ。ふたりとも、固くなってたんじゃねぇの?どっちがエロいん…。」
次の瞬間、左右から同時にぶん殴られて吹っ飛んだ俺。ふたりともグーだよ、グー!トドメを刺されたのは俺の方だった。
その後、土下座して謝り続け、ようやく許してもらうまで数時間を要した。
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この後の更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461931262
小説家になろう様にも投稿します。
https://ncode.syosetu.com/n2002hk/
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