第57話 蝉

 ひぐらしが鳴いていたある夕暮れ。


「ひぐらしってなんでこんなにモノ悲しいのかねぇ」

「『お前の声陰気臭いんだよ』って言われるひぐらしの気持ちになったら?」

「ごめんなさい」


「でも、土の中で何年も過ごしてやっと地上に出て成虫になったら七日の命っていうのも、なんだか悲しいねぇ」

「そう? 人生のほとんど学生生活でしんどい社会人生活一週間で終わると思ったら蝉最高じゃない?」

「蝉の一生ってそういうカウントなの?」

「老後や余生も考えたら一週間も働かなくていい」


そうかなぁ。そういうもんかなぁ。そういうもんかもなぁ。


でもやっぱり、君と出会ってから一週間しか一緒に過ごせないならそれは悲しいよ、おくさん。

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