第9話 社長ってマジかよ。

今日は土曜日だ。ということは学校は休みってことだ。そんな日は一日中寝てられるっていうと、そんな訳無かった。


俺は昨日の配信で2000万を稼いでしまった。そんな大金を稼いで『はい、そうですか。』と事務所側も黙ってはいられないという事だろう。てことで今日はまたもや事務所に呼ばれた訳だが、どうやら今回は訳が違うらしい。何やら重要な人と会ってもらうのだとか、何とか、蓮夜さんが言ってた気がする。


てことで、俺は今めずらしく自分から事務所へ向かっている。え?何でかって?勿論電車だ。


そんなこんな話してるうちに、どうやら目的の駅に着いたようだ。


それから事務所まで辿り着き、蓮夜さんに会う事が出来た。


蓮夜『いやぁ〜、今回は珍しく自分から事務所へ赴いてくれたようで、何よりだよ。てことでこれから社長に会ってもらうから宜しく〜。』


ん?今さらりとこの人とんでもない事言わなかったか?社長?VLIVEの?何故、俺が.......


和人『何で俺が社長と会わなきゃいけないんですか?』


蓮夜『嫌〜、どうやら2000万を一回の配信で稼いだ君を自分の眼で見てみたいらしいんだよ。』


なるほど。重要な人と会ってもらいたいっていうのは社長だった訳か。まぁ2000万も稼いだ訳だし、納得......なのか?


和人『まぁ、とりあえず会わなきゃいけないみたいですしね。てことで、案内してください。』


蓮夜『はいはい、てことでレッツラゴー!』


事務所内で大声で叫ぶイケメン。イケメンはどんな姿でも絵になるってのはホントだったんだな。てか、周りの目が冷たい。早く案内して欲しいんだが。


と、そのまま蓮夜さんに案内され社長室とやらの前まで来た。


蓮夜『ここだよ。ここから先は僕は一緒に行けないから、一人で頑張ってね!終わった後で何か奢ったあげるからさ!』


そう言って、どこかへ行ってしまった。とりあえずノックしてみるか。


(コンコン)『あの、白井和人ですが。』


??『入りたまえ』


和人『分かりました。失礼します。』


そう言って入ると、広い室内の中央奥に社長とやらは座っていた。随分若そうな人だ。まだ20代前半といったところだろうか。


??『やぁ、君が和人君か...... ふむふむ、やっぱり蓮夜の見込みは正しかったようだ。』


見込み?何の事だろう。


和人『どういう事でしょうか?』


悟『あぁ、気にしないでくれ、こっちの話だ。と、話をする前に自己紹介が先だな。私は〇〇株式会社代表取締役の神崎悟(かんざきさとる)だ。まぁ簡単にVLIVEプロダクションの偉い人だとでも思っといてくれ。』


和人『なるほど。では神崎社長と呼ばせて貰います。』


悟『堅いなぁ。もっと気軽に呼んでくれても良いんだけどなぁ。例えば悟ちゃん❤️とか。』


何なんだ。この人は。少しテンションがおかしい気がする。まぁこれでも社長な訳だし、ちゃんとしないとな。


和人『そんな呼び方は出来ませんよ。とりあえず今回、俺を呼び出した理由を教えて貰えませんか?』


悟『まぁ、いいか。今回君を呼び出した理由は。ただ一目見たいだけだったから呼び出した....とか言ったら怒るかい?』


和人『怒りはしませんが、一発殴らせて欲しいとは思います。』


悟『冗談冗談(笑) で、今回君を呼び出した理由だったね。それはね、近々とある1期生の子の誕生日ライブがあってね。それに出演して欲しいから、こうして呼ばせて貰ったのさ。』


誕生日ライブ?なんだそれは。


和人『あの?誕生日ライブって何ですか?』


悟『まぁ君が知らないのは....... 仕方ないか。誕生日ライブってのは、ライバーの誕生日の配信にてアイドルが行う特別なライブの事だよ。』


和人『なるほど。てか、それ神崎社長がわざわざ直接俺を呼び出して言うまでの事ですかね?普通に蓮夜さんを通して伝えればすぐ済むような気がしますが。』


悟『確かにそうかもしれない.....ね。わざわざ呼び出すなんて事をしなくても良かったかもしれない。けど、やっぱり直接対面しなきゃ分からない事なんかいくらでもあると思うんだ。だから今はその事については目を瞑っておいてくれ。』


和人『分かりました。それで、話はもう終わりですか?』


悟『あぁ、これでもう話は終わった。帰ってくれてもいいよ。』


和人『分かりました。それでは。』


そう言って俺は部屋を出た。


その後は無駄に高いビルの頂上階にある無駄に高いレストランを蓮夜さんに奢って貰った。こんな高いところ良いのだろうかと不安になったが、蓮夜さんが金なら沢山あるから大丈夫だよ(笑)と言ってくれたので、言葉に甘えさせて貰った。そこのレストランのステーキは今まで食べた肉の中で一番美味かった。


レストランから出た俺は、蓮夜さんが車で家まで送ってくれるというので、本日二回目のお言葉に甘えさせて貰った。


蓮夜『どうだった?あのレストランのステーキのお味は?』


和人『とても美味しかったです。』


蓮夜『それだけか笑 もっと長く感想を語ってくれても良かったのに。あぁ、そういえば今思い出したけど、近々5期生コラボがあるから、頭の片隅にでも入れて覚えといて。』


5期生コラボ、そういえばそんなのあったな。

と、そういえば今日は配信が無かったな。明日はあるのかな?聞いてみよう。


和人『あの、すいません。蓮夜さん、今日は配信が無かったですが、明日は配信あるんでか?』


蓮夜『基本的にそういうのはライバー自身が決めるものなんだけどね笑 まぁ君に一任されてるしね。しょうがないか笑 で、質問の答えだけど、明日配信はあるよ。』


やっぱりあるのか。『けど』


ん?


蓮夜『明日はゲーム配信だ。』


ここにきてゲーム配信か..... 正直に言えば嬉しいところだ。雑談は苦手だし、歌となったらもっと苦手だ。まぁやろうと思えば出来ないことはないが。まぁそんな事はいいか。ところで、、


和人『何のゲームをやれば良いんですか?』


蓮夜『バイ〇ハザード』


バイ〇ハザード...... 聞いた事があるタイトルだ。確かゾンビに襲われるパニックホラーモノだった気がする。しかしホラーか.....


和人『確かそのゲーム、パニックホラーでしたよね?俺驚きませんよ。』


正直な所俺はホラーゲームで驚いた事が無い。やった本数が少ないからだという原因も考えられなくは無いが、俺がやったゲームは全部怖いと話題になったものだ。


蓮夜『あぁ、確かにそこは問題だ。そこで提案があるんだが..... 和人君にはこれからの配信の時だけ感情を表に出して欲しい。和人君の顔はいつも無表情で、とてもつまらなそうだ。君笑った事無いよね?』


なるほど。にしても、つまらなそうか...... 確かに俺は笑わないし、泣かないし、怒らない。それでも別に俺には感情がない訳じゃない。俺にだって面白いと思う事だってあるし、悲しい事だってある、それに腹立つ事だっていっぱいある。ただそう言う感情を表に出すのが苦手なのだ。決して出せない訳じゃない..... 筈だ。


和人『確かに笑った事もないですし、泣いた事もないですね。ただそれは感情を表に出すのが苦手なだけで、別に出せない訳じゃないと....... 思います。』


蓮夜『ふーん。でさ、話の続きだけど、配信上だけでも感情を出す事は出来ないかな?例えそれが、嘘の..... 偽りの感情だとしてもだ。どうかな?』


偽りの感情か...... あの時を思い出すな。嫌あの事は余り思い出したくないし、思い出す必要もないか。


和人『良いですよ。その提案受けます。』


そう言った瞬間、蓮夜さんは今まで見た中で一番の笑顔をした。


蓮夜『そうか!ありがとう!とりあえず今のところはそれでいい、今は.....ね。』


何か気になる言い方だな。まぁいいか。


蓮夜『てことで和人君からYESな返事を貰った事だし!和人君の家までレッツラゴー!』


またそれか......『はは、』


蓮夜『今笑ったよね!?』


和人『笑ってませんよ。』


蓮夜『いーや!笑った!ぜぇぇったい!笑ったもん!』


俺の....... 白井和人の心のどこかで何かが変わり始めてきてるのかもしれない。この人はどこか違う。そんな事を心のどこかで密かに思ってしまっている。


その日、俺は心の底から初めて本当に少し笑えた様な気がした。


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