第8話 サマダvsアイ
サマダの襲来は、突然だった。彼は、ニンジン城に向かう貨物馬車に隠れていた。しかし、テンジン川近くの検問にあっさりとバレてしまった。それを聞いたアイとキュウリは、兵士を集め、城の前に陣営を形成した。
しかし、それは彼の罠だった。検問官は、抵抗が少ないサマダを地下牢に閉じ込めた。キュウリは、数人の兵士を連れて、そこに向かうことにした。
キュウリが、城を去った数十分後に、陣形の前にマントを被った人が現れた。アイは、それがサマダだと警戒し、1番隊に攻撃を命じた。
アイの号令で、剣を持った男達がマント人間に襲いかかと、彼はマントを外し、慌てた様子で、無関係で何も知らない男であると言い張った。
彼の見た目は明らかおじさんで、戦闘経験が少なそうな太っちょな体付きをしている。アイは、失態を恥じて、申し訳なさそうに謝罪した。「すみません。人違いでした。」「いえいえ、最近、世の中物騒ですもんな〜。兵隊さん達は、お気の毒です。」男は、ニコニコしながら、彼女を宥めるとさっさと城の方へ歩いて行った。
男を通すと、アイは1番隊と2番隊に休息を、3番隊に城の警備を命じ、彼女自身は、王へ報告しに行った。
マントを脱いだ男は、城壁に入るやいなや、全身にまとっていた脂肪が溶け、中からサマダが姿を現した。
サマダは、クククとアイらを一人で嘲笑い、王がいる元城上の拠点へ歩いて行った。
アイは、王の元へ向かう道中でとんでもないものを遠目で見た。
手に帆を張り、天空で暴れ回るドラゴン、最強魔物バハムートが、火を吐き、王族の拠点を襲っていたのだ。アイは、あのマント男がサマダだったのではないかと頭をよぎり、自分を責めた。
しかし、今は落ち込んでいる場合じゃない。彼女は、連れを外にいる軍への連絡係に任命すると、一人で行路を急いだ。
キュウリが、看守に連れられ、サマダに会いに行くと、そこには彼の知らない男がいた。
キュウリは、「おい、こいつは誰だ。サマダではないぞ。」と怒鳴った。看守は、「へい、さっきまでは国の英雄サマダ様にそっくりだったのですが、今見ると全くの別人になっておりますね。ハハハ」と答えた。キュウリは、英雄、様付とその不始末さに怒りつつも、城へ戻る準備をそそくさとはじめた。(これは罠か。サマダめ、よくもぬけぬけと。)
王族達は、逃げ回っていた。しかし、バハムートは、誰一人として逃げきることを許さなかった。瓦礫に隠れればそれをどかし、城下町に逃げ込もうとすれば「円形火炎放射」で拠点に閉じ込めた。
王は、ピーマン姫を城の地下に避難させ、残りわずかな命を白爆弾と共にサマダを道連れにしてやろうと考えていた。彼は、上手く瓦礫に隠れ、バハムートが下に降りてくるタイミングを見計らった。
彼は、隠れていた親族が、バハムートに火だるまにされている中、なんとか背後を取ることができた。バハムートは、周囲を見渡し、生き残りを探しているようで、王には気付いていない。彼は、しめたと思い、自身も避けられない程の極大白爆弾魔法をその場で唱えた。
瓦礫は、爆風と共に粉々になりながら周囲に飛び散り、バハムートは、苦しみの声を上げた。
アイが、着く頃にはそこは焼けの原になっていた。人っ子一人いず、目の前には千手観音が、彼女を見下ろしていた。
アイは、さっきの極大白爆弾でも無傷に戻ったサマダに怯つつ、杖を取り出し、彼との一対一に挑んだ。
彼女は、毒魔法を、素早く動けない魔物状態のうちに、彼の周囲に展開した。上にも地下にも張り巡らした毒は、彼の動きを完全に封じ込めた。
次に、彼女が繰り出したのは「ラッピングライト」、効果は彼の視界を白光だけにするものだ。サマダは、千手観音を解くも目を奪われた恐怖に、不安を感じた。また、アイの準備周到さに感心した。
しかし、予行練習がうまくいけばいくほど油断するのが人間というものである。それを知っていた彼は、彼女の隙を窺い、反撃の機会を待った。
アイの攻撃は続き、次に巨大な槍を天空から突き刺す「ライトニングスピアレクイエム」を発動した。これは、サマダも耳で、なんの技でどのタイミングで飛んでくるか分かるが、避ける手立てがない。いくら強くなった彼とて、これ程の魔法、まともに食らえば確実に死ぬだろう。彼女は、勝利を確信した。
しかし、槍が地に刺さった後、空には悠々とバハムートが飛んでいた。アイは、唖然とした。それと同時に、魔王の能力を思い出していた。(魔王の隻眼。もしかして、あれを使ったの???)
魔王の隻眼は、彼女もよく覚えている。それは、ラスボスである魔王が最強と言わしめた所以でもある。その能力とは、幻術、隠し事、能力、更には少し先の未来をも見通すことができる。特に小回りの効かない魔法使いの彼女は、ボス戦で苦労した。
クロと戦った時はまだその眼は、まだ使えなかったと聞いた。
アイは頭が真っ白になり、この瞬間全ての作戦が無となった。恐らく、槍が飛んできた瞬間、乱れた毒球の穴から抜け出してきたのだろう。アイは、絶望した。
「魔王の隻眼、サマダ、、あんたの勝ちだよ。」「フハハ、もう少し前の俺様と戦えていれば、お前は勝てていたかもしれない。しかし、この眼を手に入れた俺様の前では、ゴミも同然。大人しく、俺のために死ね。」
サマダは、バハムート最大の攻撃「大紅蓮丸火炎放射」の火玉を作り出した。
アイは、覚悟を決めた。「でも、貴方死ぬわ。わたし、まだあなた達に見せてない大技があるの。」そういうと、「ライジングサンシャイン」を唱えた。杖からミニチュア太陽が出現し、そして、その太陽は徐々に大きくなっていった。
周囲の気温は徐々に上昇し、これは城下町にも伝わるようになった。住民達は、皆声を掛け合い遠くへ遠くへ逃げていった。
灼熱の状況下、二人は睨み合い技を溜めて続けた。
サマダは、苦しいのかアイから少し離れ、彼女の腕は既に溶け出し、足はガクガクとしていて、まともに立てていなかった。
先にため終わったのは、アイだった。
彼女は、太陽を爆発させ、ブーンと音を立てながら、大爆発を起こした。それは、崩れた城はチリも残さない勢いほどで、この衝撃は、城下町にも届き、そこらじゅうに火が上がった。
これにはサマダもひとたまりのないように思えた。しかし、彼は、溜めていた火玉を地に放ち、その勢いで自身を遠くへ吹っ飛ばした。
無事着地し、生き残った彼は、人間の姿に戻り更なる計画を進めるのだった。
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