第Ⅱ章 第25話 ~ミネアッ……ダメだッ、止めるんだッ~


――僕の霊力れいりょくなんてたかが知れているけど、でも、それでも……ッ

 不意にノイシュは胸のおくが強くふるえるのを感じた。ほおつたなみだが熱を帯びる――


「ずっと一緒だよ。最期さいごまで……」

 にじんでいく視界しかいの先で、彼女のほおからも一滴ひとしずくの涙があふれていく。


「ノイシュ……」

 震える義妹いもうとの声を聞き、ノイシュは強く眼をじて意識を集中させた――


「ヒャェビギィッッ」

 大神官の意思いしなき声を聞きながら、研ぎました意識の中でふとノイシュは優しく清らかな何かに気づいた。そのまま感覚をそちらへと向けていくと次第に大神官の声や術の衝突しょうとつおんさえも消失していく。直後にまぶたの奥でまたたきが発せられ、そして深紅しんくに染まっていく。おそらく義妹とともに、大神官のちょう高位こういじゅつをこの身に受けたのだろう――


――ミネア、ごめんね……

 ノイシュはゆっくりと両瞼りょうまぶたに力をめ、自らのアニマ消滅しょうめつしていくのをった――



――――――――――



 視界が暗転あんてんしていくものの未だ意識は明瞭めいりょうである事に気づき、ノイシュはゆっくりと両眼を開き、そして大きく広げた――


「こ、これは……っ」 

眼前ではなおも褐色かっしょくかみの少女が大神官と対峙たいじしている。そして彼女がまとった暗紅あんこう光芒こうぼうが大きく膨張ぼうちょうし、自分達を包み込んでいるのが分かった。エスガルの放つ【アニマ吸収きゅうしゅうじゅつ】は未だに激しくこちらへとめ立ててくるが、義妹の発する圧倒的あっとうてきな超高位秘術の燐光りんこうを前に次々と霧散むさんしている――


「エガゥゲディッ」

 エスガルの驚愕きょうがく錯乱さくらんに満ちた声がノイシュの耳に届いた――


「ノイシュ……」

 かたわらで義妹の声が聞こえ、静かに顔を上げると彼女がこちらへとまなざしを向けていた。

「ありがとう……っ」

 ミネアの頬から次々と涙が伝っていく――


「そう、今なら……っ」

ミネアが大神官エスガルへと視線を向けた。

「……この瞬間しゅんかんなら、彼をたおすことができる。きっと……ッ」

 背を向けて立つミネアの声音こわねは、強い決意をふくんでいた――



「ミネアッ……ダメだッ、止めるんだッ」


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