久遠
高岩 沙由
第1話 村八分
暁が始まる頃、村から外れたところにある木に囲まれたあばら家の中で一人の幼い女の子が目を覚まそうとしている。
女の子は体にかかっている着物をよけると薄い布団の上で上半身を起こす。
そのまま隣に寝ている女性を見ていると視線に気づいた女性は目を開ける。
「おはよう、
と女の子の名前をか細い声で呼ぶ。
「みず、くみにいく」
その言葉に女性はこくん、と頷く。
女性は
家から外に足を踏み出した
そしていつからか“白蛇様を殺した呪いで白くなった”と言われ、暴力を受けるようになり、村人と顔を合わせないよう、息をひそめて生活するようになった。
まだ暗いうちに水汲み場に到着し手に持っている桶に水を汲んでいると、運悪く村人に会ってしまった。
急いでどこかに隠れたくてあたりを見回したが、村人達に見つかってしまう。
「おい、あそこに白蛇様を殺した女の子供がいるぞ!」
村人の1人が声を張り上げると村人達がこちらに向かってくる。
あまりの恐怖に足がすくみ動けなくなった
近くにある枝で
さんざん暴力をふるった村人達は気がすむと村へと歩いて行く。
ただ持ってきた桶は水汲み場の近くに置いてきてしまったので、村人が来ないうちに取りに行くことになる。
木の根元に座り少し息を整えると、木に捕まりながら立ち上がり痛む足を引きずりながら水汲み場に再び向かう。
桶を回収すると、村人がこないか近くにある木に隠れながら水汲み場を見張るとすぐに数人の村人がやってくる。
汲み終わると
やっと家にたどり着き、女性に戻ってきたことを伝えると
このあとはかまどに火を起こして食料を焼いたりするのだが、今は食料が底を尽き、何も食べるものがない。
空腹を感じたら汲んできた水を飲むだけになる。
その気配を感じて
2人とも息を殺してじっとしていると、障子を開ける音が聞こえ男性が数人、それぞれの手に食料を持ってこの家に押し入ってくる。
男性達がこの家に押し入ってくることは日常的にあるのだが、それは吾子と一緒にいる女性が目当てだった。
男性達は笑いながら、かまどの近くに持ってきた食料を置くと土間に上がり、女性の着物を脱がし、女性の足を大きく開くと上に乗り体を動かしている。
女性は泣き、わめいているが、男性達はやめる気配はなく、だんだんと動きが激しくなり、やがて止まる。が、男性達は代わる代わるその行為を満足するまで繰り返す。
一刻(2時間)経った頃、男性達が満足し、家を出て行くと、
今日はお米、大根、干した肉、みかんが置いてあった。
こうして、長い1日が終わる。
翌日、いつもより早く目が覚めたので、隣に寝ている女性に気づかれないように体に掛けている着物をよけると静かに家を出て水汲み場に向かう。
陽がのぼる前、村人が起き出す前になんとしても水汲み場に行きたいと
そこには周りの雪景色に溶け込むような白い何かがいて、水を飲んでいた。
白虎が水を飲んでいると微かに人の気配を感じて振り向く。
「ふむ、子供だな」
白虎は呟くと、立ちすくんでいる胸に桶を抱えている幼女に向かって雪道をのそりのそりと歩き始める。
幼女はじっと動かずに視線で白虎を追っている。
「子供、わたしが見えるのか?」
その言葉に幼女は無表情のまま、こくん、と頷く。
「ほう、そうか、そうか」
白虎は嬉しくなり目を細めて幼女を見る。
「我は白虎なり」
幼女は理解できないのか首を傾げる。
「お主の名前は?」
「?」
「うん? そうだな、いつもなんと呼ばれているのだ?」
幼女は首を傾げながら小さく呟く。
「あこ?」
「あこ?」
こくん、と幼女は頷く。
「ふむ……わかった。あこや、こんなに早くに何をしているのだ?」
「みずくみ」
白虎はその答えに驚く。
「こんなに早くからか?」
と尋ねると、こくん、と
「なぜ、こんなに朝早くからくるのだ?」
「むらびとにあわないために」
「村人に会うとどうなるのだ?」
「……ぼうりょくをうける」
白虎は目を見開き、
着物から出ているひざ下には青あざが多くあり、骨が折れているのか腫れているところもある。
あまりの痛々しさに白虎は思わず目を細める。
「なぜ、暴力を受けるのだ?」
「しろへびさまをころした、おんなのこどもだから」
白虎は目の前に立っている
白い髪に白い肌、瞳は赤く。その姿をみれば白蛇の化身として敬われてもおかしくないのに、なぜだ?
「女はあこのかか様なのか?」
「いつもそばにいるのか?」
その問いに
「ふむ、難儀なことだ」
白虎はぶつというと、空を見上げると少し明るくなってきている。
「では、あこや。我の背中に乗って水を汲みに行こう」
その言葉にまたもや首を傾げる。
白虎は体をべたっと地面に伏せると首を後ろに向けると説明を始める。
「ここにまたがれ」
言われた意味がわからないのか、
「まず、我の近くにこい」
こくん、と頷き
「そうしたら、片足を大きく上げて前に置くのだ」
白虎は状況を確認しながら説明を続ける。
「そのまま座れ」
「よし、そのまま桶をあこの前に置き、その近くの毛をつかめ」
白虎の毛を弱々しくつかむ気配を感じる。
「立ち上がるから、しっかりとつかまれ」
そう言うと、ゆっくりと立ち上がり、水汲み場に向かう。
水汲み場に到着すると、白虎は先ほどと同じようにべたっと地面に伏せる。
「降りろ。先ほどと反対にすれば降りられるから」
背中が軽くなった気配を感じた白虎は伏せたままで
水汲み場で桶に水を入れると
「ではまた、背に乗るんだ。最初は水の入った桶を我の体に乗せてからだ」
白虎は首を後ろに向けて桶と
「よし、動くからな。このままあこの家まで送っていってやろう」
そう言うとゆっくりと立ち上がり、水をこぼさないように慎重に雪道を歩き始めた。
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