第十六話 絶白記 後編

第十六話 絶白記 後編




絶白記


著 アドルフ・ディートリッヒ三世



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足首と両手の跡や指を荒縄で固く拘束された我が戦友達は、その顔を恐怖に染めていた。麗しくも恐ろしい耳長の青年が戦友達の心を恐怖に震えさせたのだ。青年は当時の私と同じくらいの、二十歳かそこらに見えた。純白の髪、肌、ともすれば睫毛まで絹の如き絶対の白に祝福されたその青年は瞳だけが世界の光を全て呑み干してしまうような漆黒に覆われていた。


かの青年はその均整の取れた、いやいっそ背徳的な華奢さを纏いながらもどこか色気を気配させる肢体をこれまた見事な白金の甲冑で覆っていた。その様は鎧に着られているのではなく、鎧で強引にあの恐ろしい内腑を押しとどめて見せているようだった。東鎧によく見る竜の鱗のような緻密な甲と使用者の動きを抑制しない様に何節かに分かれた頭から被る形の胴巻、胴鎧の弱点となる脇からは下に精緻な鎖帷子が見えた。鎧には実用性のみを追求した美しさがあり技術力は極めて高かった。敵を見誤ったと後悔したことを覚えている。


傍に兜を置くための台があり、そこには紫金の毛飾りが垂れる豪奢なこれまた白金の輝きを放つ装飾少なく縦長の小札が首を守るように連なり垂れるのが特徴的な兜が鎮座していた。その隣には目の前の青年の得物であろう、その痩身には不釣り合いな、凶悪な五つの刃が円柱に沿って柄本から先へと細長く扇状に広がるような長柄のメイスが立てかけられていた。


私の耳には慣れない声が響いた。


「最も若いものを一人生きて返して差し上げます。」


私は息を飲んだ。最年少は私だったからだ。そして数秒の後に私は目の前の耳長の美青年が放った言葉の意味を理解し喉から迫り上がった悲鳴を、その絶白の将と目が合う事で押しとどめた。


奴は私に言外に伝えたのだ。発言は許していない。発言は死を意味すると。


青年はその美しい、しかし受け入れ難い冷気を振りまく声を再び響かせた。覚悟を決めた勇壮な戦友たちは私に向かって強く視線で訴えていた。生きて帰れと。この恨みを晴らせと。…しかし、もう既に私の耳には違う音が聞こえていた。


ざっくざっくと土を掘り返す音が私の脳内に絶望と筆舌に尽くし難い未来のえぐみを舌に想起させた。それは泥土の味であった。


「上大将軍閣下、支度が整いました。」


先程の指揮官らしき、黒い毛飾りを兜に垂らした耳長の男の声が辺りに響いた。彼の後ろからは土に塗れた5メートル程の軍用円匙を担いだ、先程の巨人よりもなお大きい12メートルに届きそうな巨人が十人ほど現れた。彼らも白い鎧兜で全身を包んでいた。いっそ壁の様にそこに存在感を放つ彼らは顔を保護する鉄面で表情は伺えない。忠実に直立する彼らから吐き出される呼気は熱く蒸気のようだった。


「ご苦労でした司馬忠。さて、貴方達には複数の大罪が御座います。」


握った右手を左手で包む独特の…東の錦で見られるような拝手の礼で固めた司馬忠と呼ばれた耳長の青年の横で、先程まで不動にして泰然としていた純白の非人が立ち上がった。彼の背後には恐ろしい、漆黒の炎が立ち上がるように見えた。私は恐怖ですくみ上がり搾り出そうな声すらも飲み込んだ。彼の声は朗々と紡がれた。この死地にあって彼だけが悠々と微笑んでいた。勝利の美酒に酔う者が浮かべる笑みではない。事務連絡の傍に、聖銀教徒の過激派の連中が浮かべる危ない笑みに似た、神の誉に浴する或いは忠誠を奉献する快感に打ち震える者が浮かべる薄寒い微笑だった。


「まず第一に貴方達全員には領域侵犯の罪あります。」


彼は指を三つ折り曲げた。


「僕たちが暮らすこの国は貴方達にとっての聖域に等しいものであると同時に、貴方達が有する個人所有の権利に服する財産としての地位も有しているのです。そして、その権利者は他ならぬ神聖皇帝陛下のみ。僕達の爪先たりとも何人にもそれを恣にして良しとするものではありません。貴方達は他人の家から他人の財産を勝手に持ち出すのですか?或いは持ち出しても許されるのですか?いえ、そんな筈はありません。ご理解いただけると思います。えぇ、私たちの命や、私たちの故郷であり陛下の御座す社である古の大森林の草木もまた同じなのです。先程射かけさせていただいた弓矢とて同じです。僕達が生きることが出来るのは、こうして侵略者に対して武をもって応ずることができるのは、全て陛下の御加護のお陰であり、陛下が万事満たされ給うためにこそ許されるのです。しかし、残念ながら貴方達は僕が今説明した凡ゆる常道に叛き、その罪を重ねてしまいました。悲しいかな、僕の陛下への忠誠は結果として大いに逆されてしまいました。僕はまた自ら毒を呷らねばなりません。病苦に自ら浴して赦しを請わねばなりません。僕はこれまでそうしてきました。致死に至る古毒を自ら精製し、それを呷り、生死の境を彷徨い、その度に陛下に運命を掬い上げていただきました。そしてその死を越えるたびに僕の愚脳は冴え渡り、より身命というものを効果的に用いることができるように成長してきました。敵のものも味方のものも。謹慎の為に執政総監からの三度の出頭命令にすら叛いた結果剣を与えられた時も、陛下はその受肉さえ成されていない稚い御身で無意識に加護を用いて僕をお救い下さりました。僕は決して、自分の力を過信しません。故に、此度の失態もまた僕の重篤な忠誠の欠如にあると判断しました。よって、僕にもまた然るべき罰則あるべしと判断し、次に陛下よりお声がけがあるまで決して陽の目を浴びること罷りならぬと決め、その通りに自裁いたします。あぁ…我が聖陽たる陛下の御加護の下に賜る期限なき謹慎こそ僕のせめてもの忠悔…。さて、僕の自罰はここに仮決定したことと致しまして、改めて問われるべきは貴方たちが陛下より賜るべき万邦に有り難き款罰です。貴方達の罪状は大きく分けて三つ。一つはバルカン=テトラ神聖帝国への領域侵犯、二つは神聖皇帝陛下の私有財産権侵害、侵害され欠損が生じた財産は貴方達が触れた大地と駄馬を以って物理的に撹乱した土壌の表面、野営を行った際に発した陛下の御加護の外にありながら発した有害な煙、貴方達の排泄物、呼吸により抹殺された一部大気、自生する動植物の陛下の私有物としての権利の侵害と破壊、帝国に流れる河川から奪取した水利、帝国の中央政府たる宮廷府外務省及び国防省への許認可を受けないままでの違法な武器の持ち込みと使用、我が国で陛下の御加護を受けていない身でありながら加護非ざるの土地の土壌と接した土足で我が国の土壌に接地した不敬、陛下が座す国都へ向けて加護に浴していない兵剣を向けた大不敬、食物を咀嚼したことによる大気の攪拌とそれに伴う植生の軽微な変化、不法な長距離移動により発生した振動、貴方達の飲酒による酒精が発した臭気、貴方達が不道徳な兵剣を所持したままで神秘宿る我が陛下が治め給う国土に滞在したことにより非平和的かつ攻撃的に景観を損ねたこと、見慣れぬその人間の外見により陛下に富を奉献する民心に不要な不安を与える可能性があったこと、結果的にそれらが陛下の富に瑕疵をつけかねなかったこと又は結果的に陛下に本来正常であるならば捧げられるべきだった一定量の富が漸減した可能性が存在したこと、それら諸々の可能性を考慮しなかったこと、浅はかにも陛下の武威に兵剣を向けたこと、挑戦的な態度または狡猾な企み又は傲慢な偏見を携えて国境を超えたこと…剰え陛下の玉体に大事有る可ざる行為に及んだこと、それらを僕に想起させたこと…などが挙げられます。」


「そして最後に三つは貴方達がこれまでに及んだ全ての行為に対して陛下の御裁可が降ることは罷りならず、それは恩赦も同じであるということです。即ち、貴方達は陛下の御加護に服することは勿論ですが、それらから派生する如何なる幸福をも受け取ることが許されないのです。これは即ち、貴方達が不幸にも哀れな存在であることが陛下の慈悲の光を曇らせうるという可能性をはらんでいるという加護を持たざるの身に在りながら被慈悲の立場に陥ったという罪があるのです。僕は決して強い言葉はつかいません。陛下がその黒く美しい玉石玉体の霊光のもとに存在する有様を、志を共にするもの達は皆、より美しい言葉で彩る必要があり、その為にはたとえ出来心だとしても罵倒や悪口などの醜悪な言葉を用いてはなりません。僕はその通りに従い、憤怒と激情を押し殺して貴方達に最後の罪状を宣告いたします。貴方達は今日、今この瞬間に此処に在ったが為にその身命を陛下への贖罪の功とすることを、畏れ多くも崇高なる神聖皇帝陛下の代勅として上大将軍"白羈"が許します。勇敢なるそれらの諸野蛮行為と、我が帝国の如何なる財の過失をもこれ以上許容しない為に、貴方達にはその身を用いて陛下の大地を涵養奉る権利と、それにより陛下へと畏れ多くも示した大罪の減免による名誉回復、そして我が軍が陛下より賜ったやんごとなき物資の節約を扶け、また加護厚き兵糧を加護無き矮小の身にあって虜囚として口にする許し難い行為を免除し、それをもって陛下の御心を安んじる事に心身を賭したことをこの場の者達が証人となって差し上げることで、ここに一応の終いと致します。」


長い長い…とても狂気に満ちた言説で在った。私たちの脳内に響く鈴の音の様な心地良い声は、決して同じ命を持つ生物に対して発せられる礼儀に則っていなかったにも関わらず、心胆を寒からしめる程に良質の思いやりを心から込めて発せられた。


いやダァぁぁぁぁぁぁ!!!!助けてくれ!!助けてくれ!!国に返してくれ!!かぁちゃん!!助けてー!!


悲鳴が上がる。だが、周囲の非人の兵はピクリとも表情を動かさない。感情が無いのではない。彼らには自らの感情よりも大事な信仰の快楽があるのだ。同情する代わりに無言で少しずつ巨人の兵士達がその身で作っていた円を狭めていく。ここは恐怖が支配していた。


腰が抜けた私はいつの間にか両脇を耳長の兵士に固められ、樽に入れられようとしていた。向こうから私たちが乗ってきた馬に荷車を引かせたものが近づいてきた。私は今度こそ反抗の声をあげようと思った。何か残るものが欲しかった。


「穴が浅いです。もう少し深くしなさい。夏場はこの辺りもかなり日が照りますから、膨張した生肥が土の上に出てきてしまいます。過不足なく有効に活用すべきです。無駄に虫や野良の獣に食わせるべきではありません。腐臭が広がれば陛下の御尊顔が僅かでも曇られる恐れもあります。なにより沃土を齎しうる大任を仰せつかった者達に失礼です。徹底しなさい。」


ザクザクザク。


私の思いとは関係なく。いや、あの青年はただ、本気で私たちを憐れんで、肥料として憐れんでいるのだ。彼は肥料としての私たちへの思いやりを強く込めて、それこそ熱意すら感じる声で部下に命じた。目を瞑ろうと思った。決して見ては、聞いてはならない。気が狂うかも知れなかった。私の心は折れていた。先程円匙を担いでいた巨兵はハクキと名乗った将軍に命じられると巨躯に違わぬ大膂力ですぐさまより深い穴を大地に掘り起こした。深いそこに目を向けることなどできない。折れた心は地に埋もれてしまいそうだった。


だが、私が尊敬していた我が部隊の隊長はそうではなかったらしい。


「先ほどから聞いていればッ!!貴様はそれでも将帥か!!!魔の民であるとはわかっていたがまさかこれほど名誉も誇りもない獣を相手に敗れたとは!!恥を偲んで武器を置いた無抵抗の戦士達に!勝者たる貴様らは払うべき礼儀というものがあるだろう!!」


両手の親指と両足首を背を合わせた副官と共にしている彼は尋常でない覚悟と底力で立ちあがり、そして声を上げたのだ。


「いいえ。貴方は勘違いをしていますよ。僕達は貴方達にこの上のない配慮をしています。陛下の御前に御覧遊ばすことこそ許されませんが、貴方達の献身はよく僕達が記憶しておきますとも。ですから安心なさってください。」


だが、隊長の憤怒もどこ吹く風。青年はしれとそう言い切った。隊長は怒りと呆然から顔を赤くしたり肩を上下させたりと憤悶し、我慢できずに驁呀(ごうが)した。


「〜〜〜!!!!話の通じぬ魔物め!!貴様らも貴様らの主たる魔王も!!!神のご加護厚き勇者の手によって死に絶えるがいい!!!ケダモノめ!!!フン!」


パキャ!!!


鼻を鳴らした隊長の顔が強がりの笑みに歪むより早く、巨大な鉄塊で横凪にされ、物理的に歪められてしまった。


木剣を振るかの様に軽々しくニメートルは下らない金棒を御したハクキは至って無表情でしばし沈黙し、僅かの空白を後にして至極残念そうな人のよい微笑を浮かべた。


「なら仕方がありません。貴方は特別と言うことで。貴方の望んだままにして差し上げます。鼻と口唇を斬り飛ばしただけですからまだ息はありますよね?ん。よろしい。それではそちらへ、元々使う気はありませんでしたが餌はやるなと指示を出したままでしたからちょうどよかったかも知れません。それでは司馬忠、彼以外を御案内して下さい。あぁ、すみません。鼻の骨ごととばしてしまいましたか…それは失礼致しました。少し力を入れすぎました。面目次第も無い。」


血沼に顔を埋める隊長は痙攣する体を四メートルほどの巨兵に担がれて木柵の奥へと連れて行かれた。程なくして悲鳴が聞こえ、悲鳴に入り混じって野太いブタのような鳴き声が複数猛り響いた。私は何とか樽に入れられまいと、目の前の惨劇をせめて最後まで見届けようとした。





「司馬忠。始めなさい。」


血を払った金棒を手にしたまま、ハクキは耳長の指揮官に下命じ、命じられた男は手を振り上げた。目の前には深く狭い溝が人二人分ほどの幅で横に長く続いていた。其々の穴を倒れ伏して覗く様に身動きの取れない兵士たちが寝転がされていた。彼らはあの後シバチュウという指揮官が指示して兵士たちの身包みを下着から何まで剥いでから全身に白い粉を塗した。石灰だった。真っ白塗れで恐怖に震える彼らをぼんやりと見る。ハクキは私のほうに目を向けることはなかったが、手で追い払う様な仕草をした。間も無く私は樽に詰められた。


「順次開始!」


どず!どず!どず!どず!どず!


樽の中で耳を澄ませていた。聞こえてきた音はあまりにも生々しく私に悲劇の光景を幻視させた。今でも鮮明に想起できる。


巨兵達が一人一組、耳長の兵士が二人で一組の、身動きの取れない兵士たちを掘った穴に投げ込んでいく。


敢えて乱暴に投げ込んでいる訳ではなく、単に肥料を投げるのならこの程度なのだろう。勢いよく泥土に投げ込まれた兵士の中には衝撃で気絶する者、首の骨を折って死んだ者、さまざまいただろう。とはいえそれも一部だろう。深く狭く掘られた溝は背中合わせの二人が辛うじて立って入れられるくらいの、無理矢理立たせたままに身動きを取れないようにしておける残酷な工夫が施されていた。


全部の組み、約百四十九組が投げ込み終わると巨兵達が軍用円匙で土を被せる前に硬い音がした。ゴロゴロとした音やじゃらりと立て続けに流れる音がしばらく続き、音が続いている間は狭い溝に縦に体を立たされる様に敷き詰められた兵士が悲鳴を上げていた。あぁ、何と言うことか。ハクキという男はきっと魔の物の中でも決してその存在を許されざるべき者に違いない。そうで在って欲しかった。あの音は、軽快に鳴らされたそれは、大きな岩とその隙間を埋める砂利が流れ込む音だったのだ。


合点がいった私は身震いした。現実を忘れようと樽の暗がりで目を凝らした。樽の中は銀の喇叭以外は何もなかった。天運に任せよと言うことか、私は孤独と先のわからぬ恐怖を誤魔化そうと、要領悪くも目の前に転がっていた非情な現実に自分以上の不幸を求めていた。愚かなことだ。


悲鳴は聞こえず、かと言って弱くうめく声が聞こえる。


どべどべ…どさどさ…どじゃどじゃ…と泥、土、砂の順番で、律儀に地層にまで配慮して埋め立てていたのが見えずとも私の過敏になっていた本能が察し、死を前にして嫌に冴えていた思考の結果が教えていた。


埋め立てに並行して周囲では既に撤収が始まっていた。単なる作業。何も見えずとも私に、ただ一人生き残った私に冷たく現実を突き刺してきたのだ。


一時間もかからずに撤収を終えた魔の軍勢は淡々と私が入った樽を運搬した。私はそれから三日三晩寝ることができなかった。気が気ではなかった。そのうち、今にも樽の蓋が開けられて私も奴らが飼い慣らした魔物のブタの餌にされるか、地層に同化させられるかのどちらかだと思えたのだ。そして、私の場合は今度こそ孤独に、死さえ許されぬ死を与えられるのだ。忘却の彼方に消えてしまう。私は怖かった。




三日三晩寝れずに過ごし、四日めの夜に微睡んだ。そして五日めの朝、陽の光の眩しさに目を覚まし自分の番がきたと悟り樽の外へと頭を出した私は悲鳴とも歓声とも取れぬ声波に迎えられた。


故郷ログリージュ王国のノルマンディア辺境領で東端の村に流れる川に樽ごと流された私は無事拾われ、そして生き残った。


私は一人生き残った。全てを一度だけ王と時の護国卿へと語り、そしてもう二度と語らなかった。


もしも、もし私の子孫がかの帝国に復讐を誓ったならば、私は一つの忠告を残しておこうと思う。何もできなかった先祖が、単なる愚者として死ぬのではなく、目撃し味わった者としてせめて遺せるものだ。


絶白を断じて相手にするべからず。


もうすぐ私は死ぬ。この時になって、あの時の森林での戦働きに後悔を見る。そして憎々しくも、あれほど合理的で華麗な翻弄劇を戦場に描ける者もいない。敵が騎馬であることも、その動きも、指揮系統の混乱も、全てを把握演出して敵自身に馬を駆らせて自然の絶壁へと追い詰める。袋小路に追い詰められた時に私達を完全に包囲した木柵による簡易陣地の中で、巨人の大弓部隊の足元には初めから二の矢三の矢が突き立っていた。初めからそこで斉射の用意を完了させていたのだ…初めから上手くいくことを理解した様な完璧な布陣だった。いっそ一人の軍人としては得難い経験であったのやも知れない。数十年越しに、トラウマと共にその念が残ったのはせめてもの幸いだ。敵への憎しみはひとしおだが、同時に人間にもいないその恐ろしい軍略は学ぶに値する。未来に繋ぐべき、そして報復するべき時がきたならば、絶白の恐怖の威を借り受け、敵に思い知らせるのだ。


アドルフ・ディートリッヒ三世



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