第六話 皇帝と朝のルーティン
第六話 皇帝と朝のルーティン
皇帝の一日の予定は明確には決められていないがルーティーンが存在する。
今日もまた午前八時に皇帝に朝が来た。
「僕ちゃん。僕ちゃん。おはようございます。」
皇帝のモーニングルーティン其の一。午前八時。起床。
「む…おはよう、ママ。」
「はい!おはようございます。朝食の用意は終わってますけど、まずはお顔を洗ってお口を濯ぎましょうね。」
「うん。」
皇帝のモーニングルーティン其の二。義母ユリアナから顔を蒸しタオルで優しく拭いてもらい、口移しで冷水を貰い、口内を洗浄する。目脂や抜けた睫毛を水気を含んだ最高級シルクの布巾でユリアナに清めてもらう。耳の掃除までしてから朝食へ向かう。
「今日の朝食はママが用意させてもらいました。」
「うわーい!やったー!」
「喜んでくれたら嬉しいです。ささ、あーんしてください。」
「あーん!」
皇帝のモーニングルーティン其の三。ユリアナに朝食を食べさせてもらう。本日のメニューはサラダと牛肉の入ったポテトポタージュと柔らかく焼いた肉厚の白小麦パン三切れである。デザートには南方マケドナ領で生産されたメガカカオ豆から作られたチョコレートを使ったホットチョコレートである。前菜からデザートまで、全てをユリアナがテトラに手ずから食べさせる。ホットチョコレートは火傷の危険があるからと当然の如く口移しされる。ユリアナはたまに舌を入れてくるので要注意である。食材は皇帝専用の牧場や農場で作られており、食器そのものは勿論のこと食器の洗浄に使う水一滴まで皇帝御用達から選りすぐったものが使われている。
「ごちそうさまー!」
「はい。お粗末さまでした。それじゃあ僕ちゃん。ママと歯磨きしましょうか。」
「はーい!」
「うんうん。いいお返事です!さぁ!お口を開けてください。」
「あ〜。」
皇帝のモーニングルーティン其の四。ユリアナに歯を磨いてもらう。歯磨き粉は数百種類の薬草から抽出した薬効エキスと、粘りを持たせるために薬効のある多肉植物から取り出した水分を混ぜ合わせたものである。ちなみにこれは市販でもグレードを落としたものが売られている。歯ブラシに使われている毛足は全て最高級の馬の尻尾の毛である。歯ブラシを作るためだけに馬を育てる牧場があり、ここから選りすぐりの名馬の尻尾の毛が使われる。口腔内を傷つけないように専用のカウチの上でユリアナの膝の上に頭を乗せて仰向けになって歯を磨いてもらう。歯を磨いた後は歯磨き粉を純銀のボウルに吐き出して、口移しされた冷水で口を清めて純金のボウルに吐き出す。
「はい。綺麗になりましたよ〜。僕ちゃんは常に最高に綺麗ですけど、体の中身まで綺麗なんですから無敵ですね!」
「ママ、お仕事行かなくていいの?」
「ハッ!そうでした!僕ちゃん、ありがとうございます!名残惜しいけどそろそろいってきます!」
ユリアナは午前九時からの会議に出席するために出勤。ユリアナと入れ替わるように護衛と侍女を兼ねる今日の担当者が入室する。午後の三時までは今日の「姉」と過ごす時間だ。
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