第345話、ボーデン、気づく
スヴェニーツ帝国特務団のボーデンらは、カパルビヨ城を離れて、汚染精霊樹へ避難しようとしていた。
あそこには、ウルラやルースらがいて、さらに汚染精霊が守りを固めているので、カパルビヨ城よりも強固な守りとなるだろう。
だが、その退避途中、ボーデンは異常に気づいた。
「あれは……何だ?」
黄金領域を生み出す水晶柱が、不思議な光を点滅させていた。普段ならあのように光ることはない。
さらに見れば、領主町に生えている大水晶柱がすべて白色に変わっている。あの点滅している水晶柱が最後のようだが。
「何が起きているのだ……?」
「ボーデン様!」
特務団の魔術師――シーフルが呼びかけてきた。
「強力な魔力の反応があります!」
点滅する水晶柱の近くに。
「あの不可思議な光の原因か……?」
どうする? 確かめるか?――ボーデンは考える。
討伐軍も入り込んでいるが、まだ敵味方でいえば味方のほうが多い。
「よし、様子を見に行くぞ」
ボーデンは指示を出す。アルバタラスとそれに乗る特務団の面々は、点滅する水晶柱のもとへ向かう。
そこには討伐軍の先鋒隊がいた。いや、討伐軍というには、少し変わった感じ。
「傭兵か――?」
しかし王国の騎士もいるようで――ボーデンの視線は、魔術師が掲げている光る宝珠へと向けられる。
あれが強い魔力反応か?
素人目にも、得体の知れない力のようなものを感じる。
シールフが叫んだ。
「ボーデン様! あの珠! 強力な魔力触媒です! 手に入れられれば、大魔法の供給源になるやもしれません!」
それは、いざという時の切り札が増えるということか。ボーデンは表情を引き締めた。
敵の数は少数だ。邪甲獣の支援と、精鋭である特務団員の能力があれば、制圧可能と見た!
「よし、あの珠を手に入れる! 突撃!」
・ ・ ・
「上方、敵!」
マルモはそれに気づいた。
飛行型邪甲獣アルバタラスが複数、向かってくる。こちらの水晶柱の書き換えを妨害しようというのか。
マルモはガガンを上に向けて対空砲火を撃ち上げる。
「この忙しい時に! ベスティア!」
黒き竜騎士は跳んだ。突っ込んでくるアルバタラスより上にまでジャンプし、そこに人が乗っているのを確認した。
竜神の洞窟で戦った敵と同じ服装と瞬時に見て取ったベスティアは、ガガンを向け乗っている人――白ローブに銃弾を浴びせた。
乗っていた二名は、逃げることもできず蜂の巣にされ、アルバタラスからズリ落ちる――その間に、ベスティアはその邪甲獣の背中に飛び乗るとブレードを展開、一刀両断にした。
墜落するアルバタラスの背を蹴って、再びジャンプ。近くのアルバタラスとその乗っている者に銃撃する。
その間、三羽ほどのアルバタラスが、水晶柱を囲むような形で降下する。うち一羽に、マルモはガガンを叩き込むが、素の防御力の高さから、怯ませるくらいしかできない。
逆に翼を羽ばたかれて、風が巻き起こり、飛散した砂に怯まされる。
盾を構えて警護していたカメリアが、背後を一瞥する。
「ラウネ殿!」
「こっちは終わった!」
水晶柱の浄化上書きが完了した。だが周囲を見れば、邪甲獣とスヴェニーツ帝国特務団に囲まれている。
「あらまぁ、まずいわね」
「ラウネ殿?」
ドラゴンオーブをカメリアの背負う箱に片付けるラウネである。正直、これ以上持ち続けて魔力が吸われるのは、ドリアードであってもキツかったのだ。
「こんなところで、王国を混乱に導いた連中に会うなんてね」
ラウネが言えば、カメリアは敵に剣を向けた。
「我らの国を危機に追いやった敵。万死に値します!」
「頼むわよ……ワタシはもうちょっと休まないと、戦うのは厳しいわ」
ドリアードは魔力が命。それを消耗している状態で、戦闘は難しい。特にラウネは魔術師タイプだから。
「――光の雨、我が敵を撃て!」
ニニヤが神聖属性魔法を使って、反対側の敵と戦っている。
――頼もしい娘だこと。
しかし、こちらにはまだ二羽のアルバタラスと、敵魔術師と黒装束戦士。
「まあ、ワタシも頑張らないとね」
「大丈夫ですか?」
「魔法は無理だけど、それ以外ならね」
腰に下げているバックから、それを取り出す。
「これでもワタシ、錬金術と薬師専攻なので!」
ていっ、と掴んだ小石くらいの物体を邪甲獣に放り投げる。
魔術師と戦士は警戒したが、飛んでいったのがアルバタラスの方だったので、それ以上は気にしなかった。
だが、その物体は、邪甲獣にくっつくと次の瞬間、無数の蔦を出して全身に駆け巡った。
「魔術師殺しっていう、魔力を喰らう食獣植物の種ちゃんよっ!」
ラウネは、次の種を握った。
「お次は――」
「危ない!」
カメリアが盾をラウネの前に出して、飛んできたナイフを弾いた。
次は投げさせないと、黒装束の戦士らが前に出たのだ。
「気をつけて」
カメリアは盾をかざし、前に出て戦士を迎え撃つ。白ローブの魔術師たちが呪文を唱える。
「そうはさせないっての!」
ラウネが種を投げると、魔術師らは詠唱を中断して避けた。さすがに、蔦に絡まれて弱っているアルバタラスを見れば、当たればただでは済まないことは容易に察せられる。
――時間を稼がないと!
ラウネは、バッグから袋ごと種を取る。自身の魔力がある程度回復するか、ベスティアが戻ってくるまで。
それかニニヤとマルモが戦っている正面の敵を退けて援護してくれるまで。
「――っ!?」
種を投げようと右手を挙げた瞬間、強い衝撃を受けた。痛みが走ったのも一瞬、見れば、肘から先が吹っ飛んでいた。地面に落ちた腕には、ナイフが刺さっている。
「それ以上は面倒なのでな――」
特務団の白ローブや黒装束の中でも、上位者と分かる装いの男――団長、ボーデンは、ナイフを投げた姿勢で固まる。
「その血の色……貴様、人間ではないな?」
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