第196話、大海獣の最期


『着弾、外れだ。レヴィアタンが動いたせいで、攻撃が逸れた』


 ダイ様の発言に、俺はとうとう我慢の限界を超えた。


 コーシャ湖に浮かぶ遠方の敵に命中させるために、どれだけ集中力を使わされたことか。1ミリのズレでも大きく逸れてしまう中、レヴィアタンが動いたせいで、一からやり直しだ!


「これ以上はさすがに無理だ! 計画変更!」


 俺は立ち上がった。


「ダイ様、使える限りのダークバードを出してくれ。空から接近して、46シー・フルブラストを叩き込む!」


 レヴィアタンの背中の突起が、空のものにも攻撃してくる可能性はある。単なる予想で実際大したことはないかもしれないが、仮にあったとして、複数のダークバードを飛ばして囮にして強引に飛び込む!


「師匠!」

『うむ、ここはわしとゴムで引き受ける! ゆけぃ!』


 向かってくるスケルトン・ウォリアーを斬り伏せながら、カイジン師匠が答えた。ゴムもレヴィアタンからの攻撃があった時のガードで連れてきたが、ここまで撃ってこなかったな。


 魔剣からダークバードが召喚され、俺もそのうちの一羽の背中に飛び乗った。あっという間に空へと飛び上がる。


 レヴィアタンはやはり、あの町を抉る攻撃をしてこない。まあ、いい。撃ってこないなら、その隙に距離を詰める。


「ダイ様悪いが、ダークバードは囮にする。他の個体を前面に出して、奴の注意を引かせるんだ!」

『わかっておる!』


 俺の乗るダークバードの前を、他のダークバードたちが飛んでいく。どこで気づく? 素直に最初狙うなら前を飛んでいる奴を狙ってほしい……!



  ・  ・  ・



「何だ? 怪鳥か?」


 レヴィアタン・ミウィニュアの頭の上に乗る魔騎士フームーは、眉をひそめる。


 セッテの町の方向から大型の鳥が複数飛んでくる。


「マトス、今度は大型鳥類だ。そちらの預かりか?」

『……知らん。ここしばらく町の上を飛んでいるヤツがいたか、それか?』


 町に潜むネクロマンサーのマトスが魔力念話で返した。


「ふむ、味方でないなら、敵ということでいいのだな」


 何かされたわけではないが、あれほどの怪鳥が複数、こちらに飛んでくるのは無視できない。おそらくダーク・インフェルノと思われる攻撃が飛んでくるかもしれない時に、戦場に飛び込む鳥獣が悪いのだ。


「ミウィニュア」


 レヴィアタンの背中に無数に並ぶ突起から、高速の火の玉が次々に空に向かって放たれる。向かってくる怪鳥は、火の玉を躱す機動を取るが、逃げることなくなおレヴィアタン・ミウィニュアへと突っ込んでくる。


 野生生物がここまでの度胸を見せるとは思えない。ドラゴンの亜種に向かっていく鳥類などいないのだ。


 つまり、この怪鳥は、魔剣の持ち主側の仲間!


「落ちろ!」


 火の玉の弾幕。ミウィニュアの背中の大突起は一撃の威力に勝るが連射速度に劣る。しかし、小・中突起は立て続けに攻撃が可能だ。


 ヒラヒラと飛びながら肉薄する怪鳥。そのうちの1羽が翼から燃えながら墜落する。



  ・  ・  ・



 くそっ、1羽やられた!


 俺は前を行く闇鳥と、目標のレヴィアタンを見やる。奴の背中が火山の如く、火を噴き、火山弾よろしく無数の火の玉を吐き出した。


 ダークバードたちも、よく避けているのだが……。


『ヴィゴ、しっかり掴まっておれ!』


 ダイ様の注意が飛ぶ。言われなくてもしがみついているよ。前を行くダークバードほどじゃないけど、流れてきた火の玉もこっち飛んできているからな!


 風を切り、矢になった気分で空を飛ぶ。すでにコーシャ湖の上だ。落ちたら水面である。


『くっ!』


 また1羽ダークバードが燃えながら落ちて、湖に飛沫を上げた。こっちにもどんどん火の玉が飛んでくる!


「行け!」


 先頭の闇鳥たちが、レヴィアタンに肉薄し、弾幕を越えて、巨大海獣の背中や頭の上を通過した。


 頭の上に乗る騎士らしき男も、飛び抜けるダークバードに視線を引き寄せられている。……俺に、気づいていない!


「ダイ様!」

『おうよ!』


 ダークバードが水面近くから上昇し、レヴィアタンの頭の高さを超えた。俺が魔剣を構えた時、黒マントの騎士もこちらに気づき、瞬間俺と目があった。


 王国に破壊と混乱をもたらす黒装束の仲間め! これで終わりだ!


「46シー・フルブラストッ!」


 いつもの距離からのダーク・インフェルノの最大パワーが、レヴィアタンに炸裂した。

 頭から首、そして胴体の半分を飲み込むほどの大火球が広がり、湖面を揺さぶった。紅蓮の炎が、敵魔剣使いを塵に変え、レヴィアタンの頭部とその首が横倒しになるようにコーシャ湖に叩きつけられた。


 水飛沫が跳ね上がり、沈むかに見えたレヴィアタンだが、やがてプカリとその巨体を浮かべた。


 その上を俺を乗せたダークバードがグルリと旋回する。


「やった、んだよな?」

『ああ、やったな』


 ダイ様が言った。


『まったく肝が冷えたわ。突起からバカスカ撃ちおって……!』

『冷える肝などあるのかのぅ?』


 鞘の中のオラクルセイバーが、茶化した。


『姉君は剣であろう?』

『うるさい。お主は今回何もしておらん癖にぃ』

『そうじゃぞ。主様よ。あそこまで迫ったなら、わらわにやらせてくれれば、大蛇竜を刺身にしてやれたものを!』


 まさかの文句がきた。……ところでサシミって何だ?


 俺たちを乗せたダークバードが湖面近くへ、フラリと下りる。……それにしても、やっぱデカいな、レヴィアタンは。


『回収するぞー』


 何だか楽しそうなダイ様である。あれだけ巨大なレヴィアタンの死骸を収納庫にしまったので、コーシャ湖は元の静けさを取り戻した。

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