第82話、パワー勝負!


「ルカ、久しぶりだ。腕倒しをやらないか?」

「いいですね。久しぶりにやりましょうか!」


 腕倒し――お互いにテーブルに肘をついて相手の手を握り、腕の力を競う遊びである。酒場で力自慢が時々やって筋肉自慢するあれだ。


 さすが戦闘民族のドゥエーリ族だ。いきなり力勝負とか。


 いまのやりとりだけだと、仲のいい兄弟、もとい姉妹なのだが――テーブルを挟んで右腕を握り合うふたりの姿は、高身長同士ということも相まって迫力があった。


 というか、目がお互いにマジなんだが。めっちゃバチバチってるような。


「負けたら、婿候補のことを話す、でいいな?」


 シィラがさらりと言いやがった。ルカが反論する。


「それって、シィラはずるいじゃないですか?」


 シィラの婿候補って俺だもんな。皆知っている。一方のルカはどうなんだろう。こちらは興味津々だ。


 そういう風に見るなら罰ゲーム内容が、明らかにルカに不利である。


「勝てばよかろうなのだ。さあ、来い、ルカ!」

「負けませんよ、シィラ!」


 アウラが審判役を買って出た。


 ルカもシィラも、左手はテーブルの端をガシリと掴んでいる。……こいつらプロだ。


「……どちらが勝つと思いますか?」


 イラが聞いてきた。さあ、どっちかな。


「互角じゃろ」


 ダイ様は、あまり興味なさそうな口ぶりだが、しっかり見ている。


「始め!」


 アウラの合図と共に、一瞬衝撃波めいた気がリビングを駆け抜けた。ガンっと音がしそうな錯覚。メキメキって音がしたような気もしたが……。


 ルカとシィラがテーブルを挟んで、めっちゃ力を出している。腕は……微妙に左右している。ダイ様の見立て通り、ほぼ互角か!


「あれ? どうしたんです、シィラ?」

「お前こそ。手を抜いているのか?」


 お互い挑発めいた言葉を吐く。これがマウント取りか。


「本気を見せろ!」

「あなたこそ!」


 またも空気が変わった。お互いに顔が真っ赤になっていく。力を入れまくっているのはわかる。男みたいにムキムキではないが、腕とか凄い。シィラはともかく、ふだん穏やかそうに見えるルカも、やっぱパワー系だったんだなと実感。……何か嫌な音がしてきた。


 バキッ、とテーブルが真ん中から割れた。ルカとシィラ、双方とも倒れる。


「おいおい、大丈夫か?」


 あーあ、やっちまった。四つ足テーブルが……。勝負は引き分けか。


「やりますね、シィラ」

「フヌケてなくて安心したぞ、ルカ」


 勝負がつかなくて、名残惜しそうな二人である。シィラが俺を見た。


「どうだった、ヴィゴ。あたしもやるものだろう?」

「ああ、大したものだと思う」


 パワー系のルカと互角っていうんだから、相当だ。体格もほぼ同じで、おそらく育った環境も同じだろうから、あまり差はないかもしれない。


「どうだ、ヴィゴ? 腕倒し、ひと勝負」

「え、俺……」


 いやあ、それはまずいよ。まともにやったら、シィラにもルカにも勝てる気がしないが――


「やってあげなさいな、ヴィゴ」


 アウラが木魔法で、腕倒し用と思われる台を作った。


「どうせ、アナタが勝つから」

「……」

「ほう、それは楽しみだ」


 楽しそうな顔をしながら、さあ、と台に肘をつくシィラ。……やりましょう。


 俺は諦めて、台の反対側につき、シィラの、武器を振り回す力強い手のひらを感じた。


「お手柔らかに頼む」

「本気でこい。でないと腕がへし折れるぞ?」


 いいのかな、そんなこと言ってさ……。



  ・  ・  ・



 はい、結果的にねじ伏せました。


 というより、もう持てるスキル化しちゃった俺の手で、腕倒しなんてできない。どれだけシィラが力を入れようと、俺は普通に構えているだけでビクともしない。


 ふんっ、と力を入れると、抵抗なんてなかったようにシィラの手の甲が台に当たるのだった。


「こうも簡単に負けるとは……。ヴィゴは強いな」

「神様からの贈り物のおかげだよ。俺、たぶん一生、まともな腕倒しできないわ」


 純粋な力比べじゃないんだよな、これ。持てるスキルがなければ、まず勝てなかったと思う。


 アウラがクスクスと笑う。


「賭け腕倒しで、一生食べていけるんじゃない、ヴィゴ」

「やめてくれ。それ要するにインチキじゃん」


 苦笑いしか出ない。インチキしている奴にインチキ返しするというのなら、アリかもしれん。そんな機会あるとは思えないけど。


 ルカがキッチンから顔を覗かせた。


「皆いるので、夕食にしましょうか」


 はーい。今日は割と動いたから腹減ったぞ。……だいたいシィラに付き合ったせいだけど。


 ラムステーキに、野菜たっぷりのシチュー。相変わらず、ルカは料理作るの上手だ。


「お、ルカの作った食事か。久しぶりだな!」


 シィラが相好を崩した。その様子では、お姉ちゃんの料理は普通に好きなご様子。そのルカはお母さんみたいな顔になる。


「シィラ。あなたが来ると知らなかったから、今日のところは遠慮して食べてね。皆の分がなくなるから」


 その口ぶりからすると、シィラもルカ同様、食べる子のようだな。背も高いし、いい体格しているから、モリモリ食べるんだろうな。


 というわけで、全員揃ってお食事。ロンキドさん一家がいた時に慣れたつもりだけど、この人数だと食卓が賑やかだ。ドリアードであるアウラと、魔剣であるダイ様が普通に人間の食事を取っているのは不思議ではあるけど……。


 ペット枠なのか、ゴムにもルカは料理を用意している。こいつはどんなものでも、体に取り込んで消化しまうから、ペロリなんだけどな。

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