第78話、ギルドで飲んでいたら


 ゴムの体の一部を分離させ、それでディーの右腕を覆う。


 パッと見、インナーで肌を覆い、上腕と手の甲を守る手甲が被さる格好だ。


 なお、手はインナー生地のような薄手の手袋で覆われているが、ゴムの形態変化によって手を晒すことができた。


 発案者のアウラ曰く。


『ディーの破壊の手は、触ったりつかんだら腐らせて壊せるから、これをいざという時、武器になるわ』


 普段は手袋で覆い、攻撃に転用する時に剥き出しにする。面白いギミックだと思う。


 アウラはゴムの能力が武器や防具として使えないか研究するという。


 さて、俺は冒険者ギルドに行った。


 魔人討伐の査定が結果と、巣を破壊した後の邪甲獣ダンジョンのその後で何か進展がないかの確認である。


 アウラが研究中なので、ダイ様こと魔剣は置いていく。……そういえば、予備武器がないままだった。


 何か新しいものを手に入れないとな。お金はあるから、新品を買うか。


「新品」


 武器というのは基本高い。だから駆け出しや下級冒険者は、だいたい中古品を手に入れて使う。


 俺も魔剣を手に入れる前は、新しい武器を調達するとなったら、中古武器を探したもんだ。武器ってのは割と消耗品だからな。魔剣や聖剣、魔法武器だと、そんなこともないんだけど。


 付き添いは、イラが一緒にきた。ルカは、アウラとダイ様によるゴム研究が心配らしいし、ディーは、あまり外出したくないようだった。


 そんなこんなで、冒険者ギルドに到着。……やたらと冒険者たちの視線を浴びているような。


「ヴィゴ様は、王都ギルドきっての英雄様ですから」


 ニコニコとイラは言うのである。微笑みシスター――余所行き笑顔で見た先は、少年少女の冒険者たち。俺の視線に気づくと慌てて視線を逸らした。


「おやおや、昼間からお熱いね、ヴィゴさんや」


 顔見知りの冒険者とすれ違う。


「そのおっぱいシスターとやりまくりかー!」

「やめなよ」


 男同士の冗談ならともかく、本人聞いている前でそれは――


「まあ、そんなところですぅ」


 イラが俺の腕に手を絡ませて身を寄せた。お、お胸さまが柔らか……。


「チクショーめっ!」


 その冒険者はわざとらしく泣きマネをしながら出ていった。こういう態度は、悪友の付き合いじみて悪くはない。


 ギルドフロアを進むと、目があった冒険者と自然と会釈しあっていた。声をかける者もいれば、ただ頷くだけということもあるが、少し前までは眼中になかった下級冒険者だったことを思えば出世した感はある。


 一目置かれているわけだから。


「よぉ、ヴィゴ」

「クレイ」


 人相よろしくない中年冒険者のクレイが声をかけてきた。手を挙げたので、軽くハイタッチする。


「最近、ご活躍じゃねぇの」

「まあまあ」

「そう謙遜するなってぇ。話せるか?」

「ああ」


 俺がイラを見れば「掲示板を見てきます」と席を外した。俺とクレイは、フロアに併設された休憩所のカウンター席につく。


 顔馴染みの冒険者が「ヴィゴ、奢ってくれよ」と言うので、金貨一枚を店員に渡した。


「俺の奢りで」


 周りの冒険者たちが歓声をあげた。俺とクレイも飲み物を注文する。


「乾杯」

「――で、話というのは?」

「いや、大したことじゃないさ。たまには雑談でも、ってぇな」

「借金か?」

「おいおい、おれはお前に用立ててもらわないといけないほど落ちぶれちゃあいないぜぇ」


 クレイは笑った。


「まあ、安心したってのもある。お前さんが、きちんと独り立ちして、いまじゃAランクの冒険者様だ」


 親戚のおじさんみたいなことを言うクレイである。


「立派になってよぅ。お前の親父さんも、きっと喜んでいるだろうよ」

「クレイは……オヤジのこと知っているんだっけ?」


 俺が、新米冒険者だった頃、細かなころでアドバイスをもらったことがある。


「あぁ、親友で戦友でもないが、おれも新米の頃に、世話になったことがある」


 オヤジは冒険者だった。ただ大きな怪我をして足を失い、俺が物心ついた頃には冒険者業は引退していたが。俺が15の頃、流行病で亡くなった。


「あんたの新米の頃なんて、想像できないな」

「酷いぜ、ヴィゴ。おれにだって青春時代はあったさ」


 クレイは注文した酒を呷った。


「そういや、お前手ぶらじゃねえか。魔剣は持ってないのか?」

「置いてきた。王都じゃ、この間みたいな騒ぎが起きなきゃ、魔剣の出番はないだろうし」

「気をつけろよ。魔剣を欲しがる奴は、そこら中にいる」

「あの魔剣は無理さ。あんたも知ってるだろ? 普通の人間じゃ持てないって」

「そりゃそうだけどさ」


 中年冒険者は肩をすくめた。


「だが魔剣さえ手に入れられれば、お前みたく英雄になれるって考える若造も多い。お前も魔剣があったからここまで来れたからな。おれもおれも、ってことさ」

「何だか俺の価値が魔剣しかないみたいな言い方だな」

「だが、間違ってもないんじゃないか?」

「そうかなぁ」


 トルタルは魔剣の力だけど、ナハルは持てるスキルで倒したし。


「お前さんがどう思おうと、周りはそう思っている――」

『たのもーっ!』


 ギルドフロアに響く女の大声。誰もが思わず振り向いた。


 女が入り口に立っていた。


 巨女だった。背中に槍を担いでいて、背は高く、胸は大きいが全体的にバランスのよい体格だ。肌は褐色だが、体格や背の高さはルカに匹敵する。


「ここに、ヴィゴとかいう魔剣使いはいるかっ!?」


 よく通る声だった。冒険者たちがキョロキョロし、俺がいるのを知っている者たちは揃って、俺を見た。


 その視線を女戦士も気づいた。そしてツカツカと近づいてくる。


「お前がヴィゴか?」

「そうだが、あんたは?」

「あたしの名前はシィラ」


 その長身女は、ネコ科を思わせる目で俺を見た。


「あんたに決闘を申し込む!」

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