第48話、困った時は人に相談


 俺とルカ、そしてイラは、冒険者ギルドへ行った。


 先の巨大蛇型邪甲獣の討伐の報酬の準備ができているだろうと、顔を出したら案の定だった。


 まーた大金を稼がせてもらった。ドッシリ硬貨の詰まった袋。


「あ、私が鞄に入れます」

「ありがとう、ルカ」


 ルカが背負っていた鞄に入れてくれた。今日も魔剣はアウラと家に置いてきた。だから収納は使えない。腰には一応、そろそろ買い替え時期が近い愛用のショートソードを下げている。


 今日はギルマスに呼ばれなかった。毎回、ギルドに来るたびに呼び出されるのもあれなので、いいんだけどね。


 周りの冒険者たちが、チラチラと俺たちの方を見ているような。ルカも視線を感じて、ちょっと気まずそうにしているが、背の高い彼女よりも、今はイラの方に向いているような。


 奴隷首輪付きのシスターはやはり目立つか。イラは、あのルックス重視のパーティー『シャイン』に属していただけあって美人だ。


 それに加えて、胸の大きさは、単純な野郎どもの視線を集めるに充分な力があった。お色気シスターとはよく言ったものである。


 実はルカの胸部も大きいのだが、彼女は長身であり、巨ではあるが比較的バランスがよく見える。一方で、イラは女性平均としてやや高めとはいえ、ルカと比べたらぜんぜん低く、それでいて胸部の厚さが同等なので、より巨の印象を与えるのだ。


 そんな冒険者たちの視線を集めつつも、いつも通りにこにことした表情に変わりはないイラである。人から見られることには慣れているのだろうかね。


 野郎たちの俺を見る目が少々怖い。その目には俺も覚えがある。かつてのシャインリーダー、ルースが美少女たちを側に置いて余裕ぶっこいていたのを、嫉妬で見ていたあの目だ。


 俺たちの関係を見れば、そうモテモテの関係ではないが、周りからはそうは見えないのだろう。擬似モテ気分で愉悦を感じよう。フハハ……。……虚しい。


 掲示板を眺める。先日の巨大蛇型邪甲獣が出没した丘陵地帯の穴がダンジョン化しているようだった。


 こう頻繁にダンジョンになると、そこら中がダンジョンになってしまうのではないか。そもそも何故、邪甲獣の出た後はダンジョン化するんだろうね。


 なお丘陵ダンジョンには、あの甲虫型邪甲獣が出るらしい。ちょっと様子を見に行こうかなと思った。


「そういえば、イラさん」


 ルカが尋ねた。


「初めてお会いした時に比べて、装備が軽装ですけど――」

「ああ、ヴィゴ様にお借りした分のお金を返そうと、いくつか処分したのですよ」


 確かに、今の彼女は糸杉で出来た杖を護身用に持っているものの、それ以外の武器や防具の類いがなかった。


 俺の記憶でも、イラは擲弾筒という魔道具武器と、その弾を携帯していたし、防具も左腕に小型盾を、胴も胸当てをつけていたが……ひょっとしてその僧侶服、鎖帷子もなく無防備?


 どうりで、胸の迫力がイメージ以上だと思った。押さえつけている防具なしだもんな。


「となると、言っちゃ悪いけど、イラの戦闘力ってかなり落ちてる?」

「お恥ずかしながら、そうなります。クエストに連れて行ってもらえるなら、後方での回復が主になります」


 シャインの頃から、魔道具での援護役もやっていた。実は、彼女はクレリックではあるものの、治癒魔法に卓越した能力を持っているわけではない。……まあ、そこで能力があれば、冒険者なんてやってないだろうけど。


「でも、さすがに防具なしの丸裸で、クエストは難しいだろうな」

「丸裸!」

「えっ、なに?」


 突然声を上げたイラに、俺もルカもビックリする。イラはすぐに「いえ……」と自身の胸元を庇うような仕草を取る。裸と聞いて、変なこと考えたとかか、おい!


「コホン、ぼ、防具は必要ですよね! ね、ヴィゴさん!」


 ルカも、何となく察したのか赤面しながら言った。意外と想像力豊かなのかもしれん。


「そ、そうだな。イラが俺に金を返そうって誠意は見せてくれたわけだし。同じクエストを受ける仲間に、さすがに装備が杖一本じゃ心許ない。装備を買おう」

「だ、ダメです、ヴィゴ様! それでは本末転倒です」


 お金を返そうと装備を売り払ったのに、新たに購入しては、意味がない。しかも今イラはお金を持っていないので、当然ながらヴィゴのお金を使って、ということになる。元も子もない。


「買うのは駄目?」

「ダメです」


 そこでイラは俯いた。


「よく考えたら、わたし全然ダメですね。むしろヴィゴ様の足を引っ張ってる……」


 八方ふさがり。何かをしようとすると、別の何かが枷になっている状況。


「よしわかった。お金を極力使わず、装備を整えよう」

「え?」


 ルカとイラは、同時に俺を見た。


「そんなこと、可能なんですか?」

「まあ、確約はできないけど、困った時は人に相談するのがいいと思うんだ」


 俺たちは冒険者ギルドを離れて、とある場所を訪ねた。


「――いらっしゃい、ヴィゴ君」


 ロンキドさん宅。第三夫人のモニヤさんが笑顔で出迎えてくれた。


「こんにちは、ウィル君、います?」



  ・  ・  ・



「使っていない魔道具、ですか?」


 第二夫人ヴァレさんの息子であるウィルは顎に手を当て、考える仕草を取る。


「そう。倉庫に眠っているものでもいいし、それか作ったけど、実戦で試してほしい試作品でもいい。こっちでテスターやるから」


「なるほどなるほど、そういうことでしたら」


 ウィルは物置き小屋へと俺たちを案内してくれた。


「両親が昔使っていたものもあるんですが、さすがにそちらは手が出せないですからね。昔作ったものとか、廃棄されたものを素材に作ってみたとか、そういうのがありますよ」

「じゃあ、ひょっとして魔道具だけじゃなくて、武器や防具もあったりしたり?」

「ありますよ」


 ウィルのガイドのもと、俺たちは魔道具を眺めていると、第一夫人のマリーさんがやってきた。これこれこういう事情がありまして――と説明すると。


「うん、いいよ。持っていきな。道具にとっちゃ、使われないほうがもったいないさね」


 マリーさんのご許可が下りた。


 そんなわけで、イラ用の防具や魔道具を調達。そして――


「なあ、ウィル君。このブーツ、ロンキドさんが履いているのに似てない?」

「あぁ、ダッシュブーツですね。加速したりジャンプしたりする靴型魔道具なんですよ」


 聞けば、ロンキドさんは冒険者時代にマリーさんの魔道具に随分と助けられたそうで、今もダッシュブーツを使用しているという。このあいだ、一緒に遠征した時の、ロンキドさんの機動力の秘密はこれか。


「これって売ってるの?」

「欲しいんなら作るよ」


 マリーさんが後ろから言った。


「本当ですか?」

「君ならタダでも、と言いたいけど、素材にお金掛かるから、定価で売る形になるけど」

「ぜんぜん構いません。むしろ、お金はあるんでお願いします!」


 イラの防具探しで寄ったが、意外な掘り出し物と巡り会えた。こいつはラッキー!

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