第44話、崩壊した前パーティー


 イラは、金髪碧眼の美少女であり、教会のシスターの格好をしているが、冒険者であり、クラスは僧侶〈クレリック〉だ。


 ふんわりした雰囲気で、そのお胸の発育具合もかなりふんわりしている。僧侶の服装って本来、清楚なはずなのに、何故かイラからはこう、性的な雰囲気を感じてしまって、俺はパーティーにいた頃から体の一部が苛立ってくることがしばしあった。


「ここがー、新しいヴィゴさんのお家なんですねぇ」


 イラを居間に通して、お話し合い。アウラが木を生成して机と椅子を作ってくれたので、それを使って対面する形になる。何か面接みたい。


「調子は? 大丈夫か?」


 昨日の今日なので確認する。


「えぇ、お陰様で」


 イラはニコリと笑った。微笑みシスターは健在だ。


「今日は、ヴィゴさんに色々ご報告があって参りました」


 シスターは、昨日別れてからの顛末を語り出した。


「――エルザは完全に戦意を失ってしまいました。むしろ精神的トラウマになってしまったようで、家に帰ることになりました」


 あの小生意気な口の達者な魔術師が脱落したか。


「アルマは意識を取り戻したのですが、どうも記憶を喪失してしまったそうで。……彼女も家の人が来て実家に連れ帰ることになるようです」

「魔法騎士の家庭だっけか……」


 騎士になる夢を捨てきれず飛び出した彼女も、記憶がないのでは、その夢も水泡に帰したわけだ。


 騎士だったナウラはもう脱退しているんだっけ。となるとシャインに残っているのは、イラと、リーダーのルースだけになるが。


「ルース・ホルバは仲間を見捨てて逃げたので、おそらく降格は免れないでしょう。まあ、わたし、シャインから脱退手続きしましたので、あの人がどうなろうと知りませんが」

「脱退したんだ」

「実質、パーティー壊滅ですから」


 何かさっきから彼女から違和感。しゃべり方が、あの甘ったるい、とろけた感じじゃないせいか。普通に話せるんだな、イラも。


 というか、最初の邪甲獣を討伐した後の報酬をだまし取ったお色気シスターに雰囲気が、かなり似ているのだが……。


「これからどうするつもり?」

「どうしましょうか……と普通なら、途方に暮れるところなのですが……」


 イラはうつむき気味に頭を傾けた上で、上目遣いを寄越してきた。そうされると、胸のほうに視線が行ってしまいそうで困る。


「……まだ、気づきませんか?」


 何に、というのは、間抜けなんだろうか。いや、正直言うと、詐欺シスターがチラついてるのよ。だってあの時、孤児院がどうこう言って金を持っていた女、イラの姉妹では、と思ってしまうくらいには似ていたから。


「……今度はいくら?」


 試しにふってみれば、イラは顔を上げてニコリとした。


「やっぱり、気づいていらしたじゃないですか」


 自白しやがった。この間のお色気シスターだ。


「確信はなかった。似ているなぁ、とは思っていたけど、表情はもちろん、しゃべり方が全然違うし」

「あのふわっとした口調のおかげで、だいぶ印象変わりますからね」


 わたしぃ、などと言いながら、イラは首を傾けて、あざとい笑顔を浮かべる。


「どちらが素なん?」

「普通にしゃべっている方で。あのふわふわっとしたのは演技です」


 怖っ。


「女って怖いわー。演技か、まんまと騙されたぜ」


 孤児院うんぬん言いながら同情を誘い、その豊かなお胸を押しつけて誘うお色気シスター。顔が仲間だったイラに似ていたのも、さらに同情を誘いやすかったかもしれん。


「……それはお主がチョロいだけだろう」

「ダイ様」


 居間にダイ様が現れて、俺の隣の席に座った。どうやら聞いていたらしい。


「それで、わざわざ正体明かして、お主は何をするつもりだ? お色気シスター?」

「まず、その件について、ヴィゴさんにはお詫びいたします。申し訳ありませんでした」


 イラは頭を下げた。


「貴方から頂いたお金については、わたしが全額返済します」


 戻ってくるのか。まあ、それならそれでいいか。今は邪甲獣討伐で、結構潤っているから、今すぐ返せってことはないからいいんだけど。余裕があると、心も広くなるんだな。


「ちなみに、俺から取ったお金、何に使ったの?」

「パーティーの活動資金です」


 イラは答えた。


「パーティーホームも邪甲獣が吹き飛ばして何もかもなくなってしまいましたので」


 ルースたちの活動資金か。……ちょっとムカっときた。俺を追放した連中を生かすために使われたわけだ。


「それで、お金なのですが……」


 机の上にイラは革袋を置いた。置いた時の感じから中身はお金のようだが……。はて、俺から分捕った時に比べて小さいような。


「わたしの手持ちを処分しましたが、全額お返しするには足りません。そこでヴィゴさんにお願いがあります」

「あー、返済期限をくれとかっていうなら、いいよ」


 何なら、ある分だけで手打ちにしてもいいくらいだ。だって彼女、ソロでしょ。生活だけでも大変だろうに、それで不足分返済なんてさらに大変だし――


「いえ、わたしを奴隷商に連れていってほしいのです」

「は? 奴隷?」


 俺は思いがけない単語が出て驚いた。ダイ様は腕を組んで、イラを見た。


「説明せぃ」

「わたしをヴィゴさんを対象にした借金奴隷としていただきたい、と思いまして」

「借金奴隷って言うとあれか、対象者への借金を完済するまでその人間の奴隷になるってやつ」


 俺が確認すると、イラは一切の躊躇いもなく頷いた。


「はい。ヴィゴさんに与えた損害は、わたしがこの身をもって全てお返しさせていただきます!」


 借金奴隷は、必ず返済する契約魔法が施されるため、逃げることができない。確実に取り立てる場合は有効な手段だと聞いているが……。そこまでする?


「でも、イラはパーティーの生活のためにやったんだろう?」


 自分だけ、楽をしようとしたのではなく、仲間のためにやったんだ。全部ひとりで背負う必要はないだろうに。


「いえ、理由はどうあれ、わたしは、ヴィゴさんを欺し、そして傷つけたのです。当然の罪であり罰が必要なのです」


 イラは自身の胸もとに手を当てた。


「奴隷となった暁には、すべてヴィゴさんの好きなように扱ってください。文字通り何でも……『何でも』致します」


 何でもって言った? 本当に? それはあのけしからん体を――いかんいかん、そういうのではなくて。


「もちろん、借金奴隷としてでなく、普通に奴隷として売っていただいても結構です。わたしの体にどれだけの値がつくかわかりませんが――」

「結構、いい値がつくと思うぞー」

「ダイ様」


 なんてこと言うの。まあ、確かにイラは魅力的ではあるけど。……覚悟はわかった。わかったけど、どうしよ?

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