第42話、邪甲獣キラー


 冒険者ギルドの解体場に、仕留めた大蛇型邪甲獣を出すのは一苦労だった。


 魔剣の収納庫から出すのは簡単なのだが、邪甲獣が大きすぎた。とくに長さがあったので、三等分に分けたが、それでもスペースを圧迫した。


「いやはや、参ったな」


 これにはさすがのロンキドさんも驚いている。さらに甲虫型邪甲獣も出して、ギルドで処理してもらう。


「これでまた、邪甲獣の討伐数を増やしたな。邪甲獣キラー」

「邪甲獣キラー?」

「おそらく、確認されている邪甲獣をひと通り倒しているのは、お前だけだろうな」


 ああ、言われてみればそうかもしれない。


 確認されているのは、最初に倒した獅子型。王都を襲った超大型亀型――トルタル――、大蛇型、そして今回の超大蛇型と甲虫型。


 5種類。


 トルタルと超大蛇型は、今のところ一体しか確認されていないから、たぶん種類ごとの撃破数で俺の5種を上回るのは現状ないだろう。……うん、ちょっと自慢してもいいかも。


 報酬については後日となったが、俺たちは酒場で祝勝会。今日も無事に帰ってこられたことを祝った。


 しかし、このパーティー、マジで強くね? ルカが魔法剣持ったら、大型以外の邪甲獣を倒すのも難しくなさそうだし、アウラは前世がSランク魔術師だけあって、こちらも激強。……魔術師? 少々疑問符がつくが、そこはドリアードならではと思っておこう。


 大変よい気分……のはずだったんだけどな。頭の中で、シャインのことが引っ掛かって、素直に喜べないっていうか。


 ルースよ……。お前、どこ行っちまったんだ?



  ・  ・  ・



 ちくしょう……。


 ルース・ホルガは、さまよっていた。


 左目が見えない。おそらく邪甲獣が吐いたのは毒液だったのだろう。顔の左側の肌の感触が今までと違う。


 応急手当をしてくれたのだろうが、その礼を言うべき相手がいない。


 パーティーの回復担当であるイラ。ルースを助けてくれた彼女を、見捨ててしまったのだから。


 無我夢中だった。恐怖に駆られて、邪甲獣から逃げた。


 あの状況だ。誰がそれを責められるというのか?


 ――僕は片目の視力を失ったんだぞ!? 僕は負傷者なんだ!


 それで現場に留まっても、足手纏いになるだけだ。そうだ、僕は悪くない!


 夜の闇が迫る中、疲れた体をひきずり、ルースは王都へと足を向けた。



  ・  ・  ・



 ルカは冒険者宿に帰り……帰らなかった。


「すみません。実にお恥ずかしい話なのですが、お風呂、お借りしてもよろしいでしょうか?」


 聞けば、女性冒険者宿にも風呂はあるものの、どうにもランク制度があって、なかなか自由には使えないのだという。今日は派手に戦ったからな。俺も風呂でさっぱりしたいし、ルカの気持ちはよくわかる。


「いいよ。どうせ俺しか使わないし」

「えー、ワタシも使いたいわー」


 少々酔っているのか、アウラのテンションが高い。ドリアードも酔っ払うんだな。


「アウラ、あんたドリアードだろ?」

「ドリアードがお風呂入ったらダメなの?」

「いや、駄目かは知らんけど、大丈夫なのか?」


 元は木だろう? お湯に浸かって問題ないのか?


「知らない? 木の大半は水分なのよ」


 アウラは胸を張った。


「適温の水風呂なら問題ないわ」

「お前、一番最後な」


 談笑しながら帰る。女性冒険者宿の話が出たので、それに対する容赦ない質問をアウラがルカに浴びせた後、こんなことを言った。


「ルカちゃんも、こっちに住みなさいよ。部屋は空いているんだし。ね? 決まり!」

「いいんですか……?」


 ルカは救いを求めるように俺を見た。


「俺は構わないけど、なんでこう、アウラがポンポン決めちゃうわけ?」

「だってー、アレ、ワタシの家だし」

「いまは俺のだし!」

「じゃあ、ワタシたちの家?」


 冗談めかして笑うアウラに、俺も毒気を抜かれる。


 何かいいなあこういうの。こういうの、仲間なんだなー。あったけぇ。


 久しく忘れていた感覚にポカポカした気分になりながら、俺たちは家に帰った。


 装備を外して、さっそくお風呂の準備をする。


 浴室に行って、バスタブにロンキドさん家からもらったお湯出し魔道具を使う。こんな手軽にお湯が使えるって、やっぱ魔道具って凄ぇよな。


 湯を張り終わり、ルカを呼ぶ。


「私が一番でいいんですか?」

「どうぞどうぞ」

「すみません」


 俺は浴室を後にして、一階の居間へと移動する。ダイ様が出したのだろう、アウラの本体であるドリアードの木が立っていて、そのアウラは近くの長椅子に寝そべっていた。


「実際に目にすると、ヴィゴって凄いのね」

「なに、いきなり」

「ダイ様からも聞いていたんだどさ。アナタ、これまで邪甲獣をダーク・インフェルノで倒してきたじゃない? でも今回のでかい蛇は、魔剣を使わずに倒したでしょ」

「……そっか。そういえば」


 俺、今回は甲虫型に魔剣は使ったけど巨大蛇型には使わなかったな。これまでは魔剣があったから邪甲獣に勝てたって思っていたし、たぶん周りもそう思っていただろうけど……持てるスキルのほうでやっつけたじゃねえか!?


「おおっ!!」

「うわ、何いきなり?」


 アウラをびっくりさせてしまった。いや、すまん。俺もちょっと驚いた。


「我が言うのもなんだけど」


 ふらっと、ダイ様が姿を現した。


「我の重量あればこその威力だが、それを振り回す力があって初めて効果があるのだからな。ヴィゴは凄いのだぞ!」

「え、ダイ様、褒めてくれるの?」

「当たり前だ。お主がおらぬと、我は何もできぬからな! 我が認めておるのだ、感謝しろい」


 ふんす、と鼻息も荒いダイ様。……鼻息?


「何かお返しに希望があるか?」

「魔力だ。お主ももう少し魔力量を増やせ!」

「それができれば苦労は――」

「できるわよ。簡単に」


 アウラが言った。え……できるって言った? 簡単に?

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