第30話、モテる男には一戸建て


 外から見たら、少し大きい家という印象だったが、よくよく見ると結構大きかった。


 3階建て。オレンジ色の屋根。石と木が組み合わさって民家感を出しつつ、土台周りは堅牢そうで、城塞のようにも感じた。ちょっとやそっとじゃ壊れることはなさそうだ。


 南に面した左端が玄関、右端は庭に面したテラスになっている。へえ……。何かお洒落じゃん。


 建物の北側に、一本青々とした木が立っていた。


 ダイ様が出てきた。


「ふうむ、割と大きい家だのぅ」

「だな」


 先に見せてもらった2軒が大きかったから麻痺しているけど、近くで見るとやっぱでかいわ、これ。


 カメリアさんが預かっていた鍵で玄関を開けた。中へ入ると家具がないせいか、とても広く感じた。


「寂しい……」

「家財道具が入れば、そこまで大きくは感じなくなりますよ」


 カメリアさんは言った。確かに。何もないからってのはあるな。


 入ってすぐリビングがあって、おや、これは吹き抜けになっている。上の階が見える!


 雰囲気は適当にくたびれた感じだが、大きく傷んでいるわけでもなく、掃除をすれば普通に住めそうだ。


 この建物は、四角に部屋があり、その角を通路が繋いでいる。中央の半分が吹き抜け、残り半分がリビングなどの大部屋となっていた。


 変わっていたのは2階。四角の部屋に当たる部分は北側は部屋だったが南側はバルコニーになっていた。


「王都が見える……ってわけでもないな」


 周囲の建物も2階建てや3階建てがあって、特に景色が見えるわけではない。しいて言えば、この建物周りの庭が見下ろせるくらいか。


「何だか、砦とかの見張り台みたいだな」


 普通に部屋のように作ればよかった気もするが、俺が建てたわけじゃないし、今さら言っても仕方がない。


 3階は、1階同様、四角が部屋になっている。個人の部屋はこっちだな。北西側の部屋は1階もそうだったが、石壁が倉庫っぽさを感じさせるので、私室として使うなら南西、南東、北東の部屋のどれかだろうなあ。


「ちなみに、地下もあります」

「地下室ですか」


 一番上から下へ。吹き抜けフロアの北側に、地下へ下る階段があった。こっちは石壁でがっちりした作りになっている。


 カメリアさんが、魔道具だろう照明をつけた。地下は真っ暗だったからだ。そりゃそうだ。窓がないから、光が届かない。


 俺は手のひらに、ホーリーボール、光の球を具現化させて、それを放つことなく持った。即席の照明魔法だ。


「明るいですね……」


 カメリアさんが僅かにまぶしそうにして、魔道具を切った。ちょっと俺の魔法、光度が強すぎたみたい。


 石造りの地下は、中央が大部屋になっていて、飾り立てれば居間のようにも使えそうだった。目下、無骨過ぎてそう見えないだけで、広さは充分だ。


 そして四角はやはり部屋になっているが、上より若干広かった。この建物の周囲は庭になっているから、よその土地に張り出しているわけではない。


「上級冒険者ってのは魔術師だったのかな?」


 部屋はどことなく研究室っぽく感じた。他は収納庫や倉庫っぽくもあった。


「如何ですか?」


 カメリアさんが俺に確認をとってきた。


「そうですね……。悪くないと思います」


 ぶっちゃけると、俺がいま住んでいる冒険者宿の部屋より断然広い。部屋数は多いが1階はテラスやらリビング、キッチンなどでほぼ埋まるだろう。ひとりだとそれでも持て余しそうだが、将来家族が増えるなら、これくらい余裕があるほうがいいと思う。


 ……まあ、まずは相手を探すのが先なんですけどね。


「ちなみに、紹介していただける物件はあと何軒あります?」

「とりあえず、ここが最後です」


 きっぱりとカメリアさんは答えた。


「どうしてもヴィゴ殿がお気に召さないようでしたら、新たに候補を選び直し、後日、ご案内ということになります」

「あー、そうですか……」


 先に紹介された屋敷や豪邸と比較するなら、ここだな。向こうはどう考えてもスペースを持て余す。掃除も大変そうだ……。いや、大変さで言ったら、ここもそうなんだけどさ。 とはいえ、ここで決めないと、カメリアさんや、お城の方々の仕事が増えるんだろうな。褒美なんだから気にしなくてもいいかもしれないが、あまり心証を悪くすると今後の関係に影響するかもしれん。それにあまりにこじんまりした物を選んだら、王国の褒美とはこんなものかとご威光に傷をつけてしれない。


 そう悪いものでもない。ここらで妥協しておこう。普通に考えたら、家を持てるなんてご褒美なんだからさ。


 ……持てる。最近、そのワードが浮かぶと手に持ってみたくなる。


 この家も持てるんじゃないかな? 重量はどう考えてもダイ様本体のほうが重いし。この家を持つとしたら、どうなるだろう。どこか適当なところで千切れるか、土台ごと引っこ抜けたりできるだろうか? 何か地面に埋まっている大きなもので試したいね。


「……お主、いま変なことを考えておらなんだか?」


 ダイ様が突っ込んだ。


「そうなのですか?」


 カメリアさんも、どこか奇妙なものを見る目を向けてきた。


「いやいや別に考えてないよ!」

「どうだかのぅ。大方、この建物もスキルで持ち上げられるんじゃないかと……考えておったのだろう!」


 ビシリと断言されてしまった。図星だから、ぐうの音も出ねえ……。


 それはともかくとして、俺はカメリアさんに向き直った。


「ここにします」

「わかりました。では、そのように手配いたします」


 こうして、俺はマイホームを手に入れた! そう考えると、やっぱ凄えことだわ。俺、国から豪邸もらっちまったよ!


 これでまた一歩、モテる男に近づいたかもしれんな……。



  ・  ・  ・



 家を手に入れたので、冒険者宿を引き払い、お引っ越しである。


 ギルドにその旨を伝え、退所手続きをしたら、ギルマスのロンキドさんの下へ行くよう言われた。


 先の大蛇型邪甲獣退治の報酬がもらえるらしい。ついでに王族から家を貰ったことを報告するために、ロンキドさんと会った。


「――またまた金貨だがな。邪甲獣退治の報酬と素材を処分した金だ」

「ありがとうございます……」


 へへー、と平伏するように金貨の詰まった袋を頂戴する。――それで、家を貰ったんですよ俺。


「新しい家か。よかったじゃないか」


 冒険者が一戸建てを手に入れるのは簡単じゃない、とロンキドさんは言った。


「家具はあるか? お前、冒険者宿暮らしだっただろう?」

「報酬もあるので、揃えていきます」


 家はあるが、家具は手に入れないといけないだろう。そもそも俺個人の所有物って、あんまりなかったな。


「それなら、マリーかウィルにでも声を掛けておけ。いくつか買わなくて済むかもしれん」

「あ、はい。ありがとうございます」


 色々買わないとと思っていたが、そのあたりあまり詳しくないし、相談できる人がいるのはありがたかった。

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