第28話、家がもらえることになったけど……


「へえ、家ね……。よかったじゃない」


 そう言ってのは、ロンキドさんの第二夫人であるヴァレさん。


 ギルマスであるロンキドさんの豪邸に俺はいた。魔法を教わったお礼と、さらなる魔法の練習について相談しようと訪れたのだ。


 そこで大臣に褒美の件を聞かれて『家』になったことを教えたのだが。


「そういえばヴァレさんは、宮廷魔術師でしたね?」

「元ね、それが何?」

「シンセロ大臣ってああいう人なんですか?」

「どうかしら。でも、あのネズミオヤジが乗り気になっているってことは、たぶんあなたを王都に引き留められるって考えたんじゃない?」


 魔剣持ちの英雄は、何かあった時の保険は手元に置いておきたい。王都に家があれば、よそに取られる心配も減る、ということらしい。なるほどね。……それにしても。


「ネズミオヤジですか」

「見えない?」

「いえ、俺も思いました」


 本人の前じゃ言えないけどね。それはそれとして――


「何? さっきから」

「……」


 じーっ、と少女――ロンキドさんの娘であるニニヤちゃんから睨まれていた。


「俺の顔に何かついてる?」

「……」

「ごめんなさい。私があんまりにもあなたのことを褒めたから、ニニヤは拗ねてしまったのよ」


 ヴァレさんが詫びると、当のニニヤがムッとした顔になった。


「拗ねてない」

「その顔が拗ねているっていうのよ」

「……」


 微妙なお年頃らしい。初対面で魔法が使えないって言ったのに、二回目で魔法が使えるようになっていたことが気に入らないということのようだ。


「言っても、俺、使えるだけで威力とかショボいですし」

「邪甲獣には生半可な魔法が効かないって聞いたわ」


 ヴァレさんはニヤリとした。


「聞いたわよ。あなた、邪甲獣のブレスを跳ね返したってね。どんな魔法を使ったのかしら?」

「……」

「魔法じゃないです。俺の持てるスキルのほうですよ」


 そもそも防御の魔法とか、あるか知らんが反射の魔法とか全然知らないし。


「そうだぞ、こやつは魔法などとんとダメダメだ」


 ひょいと、ダイ様が姿を現した。ニニヤが反応する。


「ダイちゃん!」

「ダイちゃん言うな! 我の名は、ダーク・インフェルノ! 魔剣の中の魔剣だっ!」


 キリッ、とポーズを決める魔剣。しかし姿は幼子だからなダイ様は。ニニヤが年下のように見るのも仕方ない。


「聞け、ニニヤよ。本当にこやつと来たら、魔力に乏しくてのぅ。こやつに我の力を引き出すほどの魔力があれば、こんなちんちくりんではなく、ボンキュッボンの超絶グラマーな姿になれたものを」


 自慢なのか愚痴なのかよくわからないが、例によって俺の魔力がカスなことを貶しやがった。まあ、それについては仕方ない。ないものはないのだ。


「邪甲獣はともかくとして、魔法の威力を上げるとか、魔力量を増やすトレーニングとかありますか?」

「熱心ね。私としては構わないけれど、あなた一応、魔剣士よね? 魔剣があるのに本格的に魔術師を目指すの?」

「魔剣しかない、という状況はあまりよくないな、と思って」


 先日のダンジョンでの邪甲獣の群れと戦った時。魔剣を投げてしまった後が、どうにもグダった。スキルのおかげで命拾いしたけど、あれがなければ俺はあそこで死んでいたかもしれない。


「冒険者ですから、どんな状況でも対処できるようにしたおきたいんです。そうでないと、死にますから」

「……昨日は大勢死んだそうね」


 ヴァレさんが顔を上げて、目を伏せた。


「魔剣ばかり頼りにしないというのは、いい考えだと思うわ。実戦では、何が必要になるかわからないから、ひとつだけしかないのは封じられた時、途端に足手まといになるから」


 ちら、とヴァレさんの視線がニニヤに向いた。何故か気まずそうな顔になるニニヤ。一方、ダイ様は。


「殊勝な心掛けだ。ただでさえお主は魔力が少ないのだからな。我を使いこなせるほどの魔力を増やすがよい」

「へいへい」


 俺は苦笑する。容姿のせいか、ダイ様のそれが娘の父親へのツンデレムーブに見えなくもない。いや、単に悪ガキムーブか?


 まあ、俺に娘はいないんですけどね。そもそも相手がいないんだーっ!


「我も、浮いているだけではつまらん。お主がもう少しまともになれば、戦闘でも手伝ってやることもできるやもしれんぞ?」

「いや、ダイ様はもう充分な役に立ってるよ」


 ぶん殴るだけで邪甲獣もイチコロだし。収納のほうも、めっちゃ助かっている。


「我も、もっと活躍したいんだーっ!」


 バタバタと手足をばたつかせるダイ様。完全にガキじゃないですか。


 ヴァレさんは微笑する。


「月並みだけど、魔法の威力やら魔力量を上げたいなら、練習するのが確実よね。剣だってそうでしょ? 筋肉つけるのだって日頃の鍛錬あればこそなんだから」


 やっぱそれしかないのかな。千里の道も一歩から、ってやつか。


「あ、ヴィゴさん、いらっしゃい」


 奥から、ロンキドさんの息子であるウィル君がやってきた。


「ちょうどよかった。ヴィゴさんに相談したいことがあったんですけど」

「何だい?」

「父から聞いたんですけど、邪甲獣って体に金属の鎧みたいな部位があるそうですね」

「……あったね」


 あれのおかげで、昨日の大蛇型も邪甲獣だと判断されたんだけどね。


「それでですね。参考のために、邪甲獣の金属部位を持っていたら、分けていただけないかなと思いまして」


 冒険者ギルドに出した分は、買い取りやらギルドでの研究に使われるということで、個人で研究したくてもできないのだそうだ。


「ヴィゴさんなら、まだ邪甲獣を確保しているんじゃないかって」

「あったと思う」


 最初に倒した獅子型は、ダイ様の収納庫にしまわれたままだ。


「でも解体していないから、ここじゃ出せないか」

「いや出せるぞ」


 ダイ様が言った。


「肉の部分は我が食ったからな」

「はっ? 食べた?」


 なにそれ保存していたんじゃないの?


「魔力補充だ。お主が魔力が乏しいのでな。使わんようだし、肉は解体して魔力にしてしもうたわ」


 そう言いながら、ダイ様は居間にテーブル大の金属プレートを出した。これでも充分でかいわ。

 ヴァレさんも、それをしげしげと見つめる。


「金属? 石? 見たことないわね、これ」


 近くで見ると、文字のような溝がある。体にこれが埋まっているのかついているのかわからんけど、ちょっと異様だよなこれ。

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