第14話、ギルマスからの依頼
命の借りを持ち出されたら、断る理由など俺にはなかった。
ルカは美人さんだからね。身長が俺より頭ひとつ上なんだけど。金ないよって言った俺にも構わず声を掛けてくれたのだから、少なくとも最近寄り付くハイエナどもとは違うだろう。
「ルカさんって――」
「ルカでいいですよ」
見た目大きいのに、物腰が丁寧な彼女である。
「私、まだ成人したばかりなので。ヴィゴさんのほうが年上だと思いますし」
「え、そうなの!?」
てっきり、俺より年上かも、と思っていた。ザ・身長差マジック!
「そういうことなら、ルカって呼ばせてもらうわ」
「はい!」
ここでニッコリ笑顔を向けられた。年下って聞いて、なるほど顔立ちは案外幼いかも。見上げてばかりいて、よく彼女の顔を見ていなかったのかもしれん。
「ルカって、パーティー組んでいたりする?」
「いえ、ソロです」
「へぇ……」
意外だな。長身ではあるが美人だし、見た目は腕っ節の強そうな女戦士だから、どこかのパーティーに所属してそうだけど。
「お声掛けはしたのですが、どうも怖がられているようで……」
「そうなのか?」
まあ、黙っていても強そうオーラを感じてしまうところはある。でも、美人で腕がよさそうってのは、俺みたいな凡庸な奴より採用されやすそうだと思うんだけどなあ。
「まあいいや。じゃあ、とりあえず俺とルカでコンビを組むってことでいいか?」
「よろしくお願いします」
ほんと、礼儀正しいよな。武装していなければ、どこかのお嬢様みたいな雰囲気があるな。
さてさて、パーティーは二人から組めるから、ギルドに届け出を出しておくか。受付に言って、パーティー申請。受付嬢が、じっと俺と申請用紙の名前を見比べていた。……何か文句あるか?
「パーティー名はどうします?」
受付嬢に問われ、俺はルカを見上げる。
「どうしようか?」
「そうですね……ヴィゴさんにお任せします」
うーん、困ったな。どこかのパーティーに入れてもらうことばかり考えていて、新規ネームなんて考えていなかったぞ。
腕のいい冒険者だと格好いいパーティー名とか名乗っていたりするが、いざ自分たちの番となると……。
「――では、今は保留ということで。決まりましたら、改めて申請してください」
受付嬢が、さっさと切り上げた。どうやら長くなると踏んだのだ。あまりに躊躇なかったので、パーティー名を考えてなかった冒険者というのは珍しくないのかもしれない。
「はい、これで申請登録しておきます。それでなんですが、ヴィゴさん。いまお時間はよろしいですか?」
「ん? 何?」
デートのお誘い……なわけはないよな。さっきからこの子、俺のこと見てたけど。
「ギルドマスターから、ヴィゴさんが来たら声を掛けておけと言われてまして。よろしければ、お話を聞いていってもらえますか?」
ロンキドさんが俺を? やべっ、なんであの人から名指しされてるんだ。光栄だけど心当たりがない。……俺なにかやっちまったか?
首を傾げつつ、受付嬢の案内に従って、俺とルカはギルドマスターの事務室に通された。
「ああ、ようやく来たか」
カルム冒険者ギルドのギルマスである、グフ・ロンキドが応接机のほうに俺たちを導いた。
「ルカ嬢は何故、一緒なんだ?」
「パーティーを組むことになりました。たった今、申請しました」
俺が答えると、ルカが遠慮するように頭を低くした。
「お邪魔でしたら、出てますが……」
「いや、同じパーティーなら問題ない。君にも関係があるからな」
ロンキドさんは向かいの席についた。
「ヴィゴ、このまま来なかったらどうしようかと思っていた。さぞ忙しかったんだろうね」
「ええ、まあ……」
ちょっと人間不審こじらせていた、とは言えなかった。
「王都を救った英雄殿だからな。まあ、変な奴らが寄ってきただろう?」
呆れるでも同情するでもなく、淡々とロンキドさんは言った。経験がある、と態度で見え隠れする。かつてのSランク冒険者も通ってきた道のようだ。
「君らにはギルドから依頼したいことがあって呼んだ」
指名依頼だ。俺は驚いた。つい最近Cランクになったような冒険者には、なかなか縁のないことだ。……というか俺は初めてだった。
「内容は簡単だ。私がちょっと遺跡調査に赴くので、そのエスコートをする。それだけだ」
「エスコート!」
護衛する? 俺が、ギルマスを? 伝説のSランク冒険者を護衛って――
「マジですか?」
「冗談を言うためにわざわざ部屋に呼んだと思うか?」
「いいえ……」
「結構」
ギルドマスターは語る。
「2週間前の邪甲獣の出現。伝説によれば邪甲獣は千年前に現れた魔王の下僕だと言われている」
「魔王……」
伝説上の存在。魔族を率いて、世界を滅ぼし、魔族の世界を作ろうとした人類の敵。
「その伝説の存在が現れた。それはもしかしたら魔王の復活かもしれない、と危惧する声が上がっている」
「なるほど」
下僕が現れたなら、それを支配している主人である魔王が現れたかもしれない、というのはわからないでもない。
「それで、魔王と関係のある祠の様子を見てこようということになった。私が行くことになったが、万が一の事態に備えて同伴者を連れていくことにしたのだ。それが君たちだ」
「それは光栄です……。でも、何故俺たちを?」
邪甲獣を倒したから?
「有力な冒険者が軒並み、新しいダンジョンに出ているからだ」
「新しいダンジョン……?」
「知らんのか? あれだけ騒ぎになっているのに」
眼鏡の奥で、ギルマスは呆れの色を浮かべた。
「先日の邪甲獣が出現した地面の大穴。あれが大空洞になっていて、ダンジョン化している。王都近くのダンジョンということで、いま冒険者たちの人気探索スポットになっているんだ」
知らなかった。いかに自分が冒険者としての仕事をしていなかったのか思い知った。勧誘と誘惑に翻弄され続けて、新たなスポットの存在を知らなかったなんて。……どんだけ人と話してなかったんだよ!
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