第4話、魔剣を求めて


 魔剣があるという遺跡は、王都を出て東に行ったところにあるスウィーの森の中にある。


 ギルドで話を聞くまで忘れていたけど、そういえば何度か噂は聞いた覚えがあった。


 何でも大地を砕く力を持った魔剣であり、その力は一国の軍勢を一蹴したと伝えられている。


 時の勇者がその持ち主を倒し、魔剣はカラコルム遺跡――当時は神殿に封印された。


 まあ、千年も前の話らしい。本当のところはよくわからない。そんなおっかない力が本当にあるのか。遺跡は語っちゃくれない。


 今では台座に刺さったまま抜けない魔剣ってんで、ひとつ魔剣を手に入れてやろうってアホが挑戦にくるっていう観光地みたいな扱いになっている。


 そもそも本当に魔剣なのか? 暗獄剣だかって言われているけど、銘柄も怪しいしな。

 でもまあ、そんな抜けない魔剣とやらが抜けたら、凄くね?


 もちろん、抜ける保証は何一つない。だが魔剣とか聖剣ってのは適性ありきだ。ただの凡人と思えた奴が、実は素質があって使いこなしたって伝説は珍しくもない。そしてそれは、実際に剣に触れてみないとわからない。


 予め素質とか適性とか調べる方法はないと聞いている。だからさ、もしかしたら自分にそういうのが備わっているのでは?って考える奴が出てくるわけだ。


 ……今の俺のようにな。


 ま、抜けなくて当然。そう思えば、失敗してもともとってやつだ。これで抜けたらラッキーである。


 森を徘徊していたハウンドウルフを、得物であるショートソードで一撃。ハン! 単独の狼にやられる俺じゃねえよ!


 うっすら靄が立ち込める森だった。遺跡までは古びた一本の道が整備されているから、そこから外れなければ迷うことはないって聞いた。千年前から存在している石畳の道。過去、何千、何万の人間がここを通ったんだろうなぁ。ノスタルジック!


 しばらく歩く。道の左右は森の木々が生い茂っているが、やはり靄のせいで薄気味悪い。


「――っと、これが遺跡か?」


 大きな岩とか、柱の一部が見えるが、神殿って形ではなかった。建物自体、過去に破壊されたみたいだ。苔とか生えて、遺跡風味は否が応でも感じるがな。


「……」


 俺は人の気配を感じて、とっさに近くの岩陰に隠れる。魔剣目当てのチャレンジャーか?それともこういう遺跡を訪れるヤツを鴨にしている盗賊か? 最悪、ゴブリンとかリザードマンとかの亜人系襲撃者かもしれない。


 そっと、忍びながら先へ進む。逃げるかどうか、正体を確認しないことには判断がつかない。学者が遺跡探索してます、とかだったら、逃げるのも馬鹿らしいしな。


 ……いたいた。


 白いローブ、フードを被っていて顔は見えない。魔術師――白ってことは、教会とか宗教関係かな? ひとり、二人……数人いるな。皆、お揃いってところが何か組織っぽくて嫌だな。


 怪しい宗教集団だろうか? 俺の勝手な想像だけど。


 うちひとりが、台座に刺さっている剣を抜こうとしている。えらくガタイがよさそうな男だが……抜こうとしているあれが魔剣か?


「――駄目です」


 男は諦めたようだ。周りにいた白ローブの連中は顔を見合わせた。


「ふむ、魔法によるブーストしても駄目か」

「力業では無理、ということでしょうな」

「どうします?」

「……魔剣としては、魔力もほとんど枯渇しているように思えるが」

「それで抜けないというのは、相当重いのでは?」

「本当に、大地を真っ二つに引き裂いたという魔剣なのでしょうか?」


 男たちは話し込んでいる。どうやら俺と同じく目当てはこの魔剣らしいが、何だろうな、この集団。


「少なくとも、力を感じさせない。魔剣としては使えんかもしれんな」


 リーダーと思しき男が手を振った。


「魔力があれば、まだ使い道もあっただろうが、これはハズレだな。撤収しよう」

「はっ」


 白ローブの一団が、魔剣の台座の周りから離れる。


「この剣はこのままで?」

「放っておけ」


 リーダーらしい男の一言を最後に一団は遺跡跡から出て行った。隠れていた俺は、それを見送った後、静かに岩壁の陰を出た。


「なんか不気味な奴らだったな……」


 台座に歩み寄る。伝説だと封印されてたって話だが、建物は崩れていて、野ざらしに近い形になっている。


「へぇ……」


 これが魔剣か。台座に刺さっている状態だが、そこまで大きいというわけでもない。俺のショートソードよりは太くて長くて重そう。


 魔剣というだけあってしっかりした作りで、汚れや埃は目立つが錆びついている様子はない。古代の技術、それとも魔法金属ってやつか。ガードの部分が炎を象っているのか、ちょっと凝っているかもしれない。


 さっき白ローブの男が抜こうとしたからか、持ち手の部分は綺麗だった。


「本当に抜けないもんなんだな。それで千年もこのままだってのか」


 俺は台座を覗き込む。字が彫ってあるっぽいが読めなかった。俺はグリップを握ってみる。


「さっきの男も力ありそうだったけど――っと!」


 するん、と剣が抜けた。……は?


「はあっ!?」


 思わず声に出た。俺の右手に、魔剣と思われる剣があった。おいおいおい……! さっきまでビクともしていなかったのに、こんな簡単に抜けるなんて。


「あの男、実は物凄く非力だったのでは……?」


 いや、さすがにそれなら、当に持ち出されていたのではないか? じゃあ、あの男が頑張ったおかげで、あと一歩で抜けるところまでになっていたとか……。


 でも俺、特に力も入れてないんだけど? こんな簡単に抜けるはずがない。


「もしかして俺、魔剣に選ばれし者だったとか?」


 聖剣や魔剣は、適性のある者にしか使えないって話だ。簡単に俺の手に収まったのは、俺に素質があったからではないか。


 試しに振ってみる。ブン、と風を切る音が唸る。お、割といい感じじゃないか! ひと通り振ってみるが悪くない。


 ショートソードに比べると大きくて重いはずなのだが、さほど気にならない。むしろしっくりくる。やっぱ俺、魔剣の素質があるかもしれんな……。


「しかし……伝説に聞こえる凄いパワーとかは別に感じないな」


 よくできたロングソードといった感じだ。庶民には目ん玉飛び出るくらいの大金だが、金さえ払えば買えそうな魔法金属製の剣のようにも思える。


「でもまあ、こいつを抜こうとした連中も結構いるみたいだし、見せればあいつらの鼻を明かしてやるくらいはできるかもしれんな」


 それでどこぞのパーティーに加われば、当面何とかなるだろう。


『……ぬるい』


 ん? 


『こやつ……ぜんぜん、力を感じない』


 女の、声……? 何か声がした! どこだ? 気配を感じないが周囲を見回す。誰かに見張られていたか?


『おう、声くらいは聞こえるか』


 もしかして、この『魔剣』か……?

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