第2話、神の声


 冒険者って言えば、魔物を退治したりダンジョンを探索してお宝を探したりする、ちょっとカッコいいお仕事――ってイメージなんだが、そんなのは上級のエリート冒険者に限る。


 駆け出しや下級の冒険者ってのは、金次第で仕事をやる何でも屋だ。魔物退治もあるが、商人の護衛だったり、魔物の目撃報告が本当かの確認だったり、はては町の警備スケットやネズミ退治や落とし物探しなんかもやったりする。


 英雄に憧れた俺みたいな馬鹿を除けば、大体は実家の仕事が継げない次男以降とか、親がいない貧困層のガキとか、口減らしで追放された奴が冒険者になる。……ガキとか追放連中ってのは大抵、消耗品のように消えていくんだけどな。


 俺も冒険者をやっている口だが、所属していたパーティーを追放されてソロになっちまった。別にソロでやっていけないことはないんだが、全てをひとりでやっていかなきゃならないってところで、中々面倒ではある。


 仲間が入れば、疲れた時は交代できるし、役割分担もできる。……でもないか。


 ここ最近、あのガワだけいい女たちから仕事押しつけられることも多かったかんなぁ。まったく、俺ほど気前よく手伝う男なんて、そうはいないんだぞ、チクショーめ!


 これからどうしようか。


 そんな不安を抱えつつ、パーティーのホームを追い出された俺だが、いつもの習慣に従い、教会に立ち寄った。


 ここでのお祈りは、俺にとってはルーティーンになっている。


 年季が入っている教会には、老いたシスターがいて、まあ会釈するくらいは親しい。……それは親しいと言えるのか? 俺みたいなその他大勢に会釈してくれる人間なんて希少なんだぜ?


 寂れた教会……というのは、単に俺が人の少ない時間帯に行くからで、週末にある休養日だと、そこそこの人手がお祈りに訪れる。まあ、今日は就労日っつーて多くの職種はお仕事する日なんだがな。


 この世界を作りし太陽神。それを象った神像の前に膝をついて、お祈りを捧げる。


 おお、偉大なる太陽神様。今日も私はモテない人生を送っています。イケメンのルーズの野郎はモテるのに、私はどうしてモテないのでしょうか……! どうか私めに、モテる力をお与えくださいませっ!


 俺は、モテたい! 毎日欠かさず、神に祈り続けている。世界には、魔法があって神の与えたスキル、ギフトなどが存在している。敬虔に神を崇め続ければ、授けられることもあるって、都市伝説もある。


 都市伝説っていうのは、宗教家がいかにもそれっぽく神の奇跡とでっち上げているからだ、と言われていたりするからだ。


 いや、絶対に、神は信じる者に答えてくれる! 授けられないのは信仰心が足りないからだ!


『はあ? あんた、馬鹿? そんなこと言ってると、いつか全財産騙し取られるわよ?』


 何故か、エルザの言葉が脳裏をよぎった。あの魔法使いは、一応、太陽神を信じてはいるが、礼拝とか行事が好きではなかった。


 忘れちまえ! あんなイケメン食いの女なぞ! 


 俺は呼吸を整えると、深々と神像に頭を下げた。その時、目を閉じていたんだが、一瞬視界が開けたような感覚に陥った。


 ――もてる……スキル……を……与え……よう……。


「はっ――!?」


 聞き違いだろうか? 俺の耳は、そんな言葉を受け取ったような……。もしや、神が応えてくれたとか!? 信仰深い俺を見てくださった神様がスキルを与えて下さったのかもしれない! やったぜ、俺!


 と、言ったものの、単なる幻聴。勘違いかもしれない。とりあえず、本当にモテるスキルを授けられたなら、周囲の俺への反応にも変化があるだろう。それを見て判断しよう。


 俺は教会を後にする。老シスターが、帰り際の俺に会釈をしてくれた。俺も会釈したが……特にいつもと同じだよな?



  ・  ・  ・



 教会から冒険者ギルドまで歩いてみた。


 ウルラート王国の王都カルムの街並みは、人が多くて昼間も盛んだ。すれ違う人々の反応を注意深く観察したものの、特に変化はない。


 特別注目を集めることもなければ、知らない女の子に声を掛けられるなんてハプニングもなかった。


 そして到着したカルム冒険者ギルド。王都にいる冒険者の大半が所属していて、ここで仕事を斡旋してもらう。


 わざわざ冒険者が営業しなくても、ここに来れば仕事を探せるってわけだ。まあ、ランクによって仕事が割り振られるので、下級冒険者だといい仕事の早い者勝ち争奪戦がよく見られたりする。


 ざっと1階のギルドフロアを見渡す。……やはりいつもと変わらない。


 そうだ、受付嬢に声を掛けよう! いつも依頼の手続きや報酬でやりとりするから、変化があればわかるかもしれない。


「こんちは」

「……こんにちは」


 何か普通に返されてしまった。えーと、この受付嬢、何て名前だっけ? 何度か仕事のやりとりしたけど、そこまで親しくない。


「俺が誰だかわかる?」

「冒険者票をお願いします」

「……」


 残念、向こうも俺の名前を知らなかった。


 冒険者はランクに応じてそれぞれの冒険者票という小さなプレートを持っている。これが冒険者の証であり、身分証明に使われる。


「あー、ヴィゴ・コンタ・ティーノさん」

「コンタ・ディーノ。ティじゃない、ディ」

「そうですか、失礼しました」


 謝罪してくれたが、お気持ち程度だった。くそぅ、何も変わってないじゃないか! 教会で聞こえた声みたいなのは、俺の勘違いかー?


「今日からソロになったそうですね。ひとりは大変ですけど、頑張ってください」

「お、おう……」


 一瞬、優しい言葉を掛けられたので期待したら、生暖かい業務用スマイルを向けられた。


「……」

「何か?」

「別に」


 仕方なく、掲示板のほうへ向かう。依頼探し――ではなく、パーティーメンバー募集の紙が貼られた方だ。


 さすがに冒険者を続けるなら、ソロよりパーティーを組んでいた方がいい。もちろん、一言パーティーと言っても色々あるから、必ずしも募集に合うかどうかはわからんけれども。


 と、そこにひとりの女戦士が立っていた。


 亜麻色の長い髪、整った顔立ちに、スタイル抜群の美女ちゃん。ただし、デカい。


 胸も尻もデカく腰回りはほっそりしているが、そうでなく身長がだ。190センチ近くある大女である。武器はロングソードのようだが、彼女が持つと小さく見える。それだけ美女ちゃんはデカいのだ。


 確か、ルカって名前だった。美人だけど、これだけ大きいと男どもが萎縮しちゃって、敬遠されているって話だ。


 このナリだからギルドじゃ、ちょくちょく見かけるけど、直接話したことはない。彼女、パーティーメンバーの募集を見ているのかな……?

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