第6話 俺、子分が出来る
あー、かったるいな。
サマンサのお供でお嬢様方の付き合いに参加中だ。
場所は喫茶店での一幕。
お嬢様方はケーキをちびちび食べながらお茶を楽しむ。
俺は速攻でケーキを食ったけどな。
やる事がないので、魔力操作しながら、メニューを眺める。
ケーキはどれも銀貨3枚からだ。
お茶は銀貨2枚から。
大盛のちょっと豪華な定食が銀貨1枚なので、ケーキとお茶のセットで一日分の食事代が丸々出て余る。
お茶は二杯以上飲むようだから、かなりの金額が出て行く。
日常的にこんな付き合いをしてたら、そりゃお金がいるよな。
しかも今日来たのは一番ランクの低いお店だ。
普通はレストランを貸切って行うそう。
王都に家がある場合は家の庭とかでやるらしい。
そういうのに呼ばれた場合はただで参加できるが、プレゼントを持っていったりしないと不味いみたいだ。
しかも、何回か呼ばれたら、今度は自分で主催しないといけない。
そして、ダンスパーティだ。
これにはドレスやアクセサリーなどの諸々の準備がいる。
金貨が飛んでいく事請け合いだ。
幸いにして12歳はまだお子様なので、本格的なダンスパーティはない。
デビュタントだったっけ、ああいうのを経て本格的に参加し始めるそうだ。
俺が行く訳ではないから、興味はない。
「やはり、みなさんはゲイリック王子を狙っているそうですわ」
「スェイン様も人気がありますわ」
「いえいえ、一番はクロフォード様でしょう」
名前が上がったゲイリック王子は顔を知っている。
第三王子だそうだ。
スェインは伯爵次男で剣の扱いが上手いとの事。
クロフォードは男爵の嫡子で嫁ぎ先に手ごろなんだそうだ。
「サマンサは誰を狙っているの?」
「私は、千人規模とはいえ、村長の娘だから、高望みはしないわ。優しい人でさえあれば」
「そう、無欲なのね」
気配を消して近づいてくる男がいる。
何で分かったかというと。
空気の中に魔力を循環させていると、人に当たったら流れが乱れる。
なので分かった。
殺し屋さんかな。
排除するべきだろうな。
俺はスタンガン型の魔道具を取り出すと、近づいて来た男に手を伸ばしてバチッとやった。
男が崩れ落ちる。
「きゃー」
「みなさん落ち着いて」
「ザイク、間違いじゃないでしょうね」
サマンサが語気を強め俺を問い詰める。
「気配を消していたんだ。たぶん殺し屋だろう」
店員が来て気絶した男をあらためる。
「客ではないです。はっ、この顔は手配書にあった物盗りのハデス」
ハデスの風体は痩せて頬がこけて無精ひげを少し生やしている。
「ほらな、間違いじゃなかったろう」
「殺し屋じゃなかったけどね」
「みなさん、お騒がせしました。帰る時に一割引く割引券をお渡しします」
店員達がハデスを担ぎ上げ、店長らしき人がそう言って騒動を締めくくった。
「サマンサ、あなたの従者はなかなかやるのね」
「ええ、でも魔欠者なんです」
「いやだわ。盗らないわよ。目つきがきつくなっているわ」
「欠点を差し引いても素晴らしい従者ですので、譲る事はできません。私には大切な人です」
「あら、大切な人なんて言うと将来を誓った恋人みたいね」
「「誰が!」よ!」
俺とサマンサの声がハモった。
「あらあら」
くすくす笑いで場が満ちる。
従者と出来ているなんて恰好のスキャンダルだろう。
まあ、一時期噂になってもすぐに消えるさ。
俺は気にしない事にした。
お茶会は終わり、店を出て学園に帰ろうとした時に、なんとハデスが待っていた。
「復讐か? 辞めとけ」
「やっちゃうわよ」
サマンサは臨戦態勢だ。
「いえ、違うんでさあ。兄貴に子分にしてもらいたい」
ハデスは顎の無精ひげをかいた。
兄貴って事は俺か。
姐御じゃないんだな。
「なんで俺なんだ?」
「いえね、隠蔽の魔法を破られたのが初めてでして、敵に回すより味方にしようと」
「そうか。物盗りを辞めるなら子分にしてやっても良い」
「もう物盗りは廃業でさぁ、こんなになっちゃあねぇ」
そう言って片手を挙げたハデスの手には入れ墨が彫られていた。
今回の逮捕で前科持ちってところか。
案外、簡単に釈放されるんだな。
でも前科がつくと次は厳しそうだ。
「ところでお前は何が出来る?」
「情報収集は任せてくだせぇ」
「分かった。ほらよ」
俺は金貨を投げてやった。
ハデスは金貨を受け取りニカッと笑った。
ハデスが文字通り消えて行く。
隠蔽魔法を使ったのだろう。
「いいの? あんな奴を子飼いにして」
「法を犯すようなら、処分するさ。だが、なんとなく裏切らない気がする。俺に挑戦しにくるような気はするけど」
「分かっているのなら良いわ」
俺に子分が出来た。
13歳なのに30ぐらいの男がな。
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