布団に、さようなら

お母さんが羽毛布団を買ってきた

古くなったから、だって

どちらかというと

今、噂になっているあったかーい布団にしたくて

買い換えただけみたい

「前のはどうするの?」

いわゆる中古品だし、買い取りは安いはず

「アンタ、使う?」

私の羽毛布団はあるし、同じメーカーだから

零から一にもならない

「いまのがあるからいらない」

「お客様用にしようかなあ、あとおじいちゃんが泊まる時の」

それがいい、それがいい、と、お母さんは言って

圧縮機でべっこべこの固い塊を作って押し入れにしまった


「羽毛布団の二枚掛けとかすれば」

けらけらと笑うもんだから

「それって寒さと暖かさと天秤釣り合ってる?」

さあね、と躱されて、やっと暖かくなってきた教室の椅子

「結構なお値段だったらしいし、数年経ってるけど使えるし」

でも中古ってのがキモだよね

「気にしない人は、気にしないけどねー」

ほら、メルカリでも売ってるよ、と画面を見せられる

なるほど、めっちゃ安いが売っていることは売っている


そんなつまらない会話をしながら朝のホームルームを待つ

くだらないけど、本当にくだらない話題だけれど

一つの箸が転がれば、どんどん転がり回ってく

これが濃くなる日常、一ヶ月もなれば薄くなる記憶

日々の欠片だけれど、これだけ喋れれば幸せだと思う

話を聞いてくれる友人がいるって幸せだと思う

だから、カッチカチの布団さん、話題になってくれて

ありがとう

布団さん、さようなら

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