第13話 フクロウの目

「あと、もう一つ便利なアイテムの試作品、貸し出しするね!」


 ミクが上機嫌で店の奥に行き、そしてすぐに帰ってきた。


「じゃーん! こちらも私が開発したオリジナル商品、『アドバンスド・アウル・アイ +2』、通称『黒梟(くろふくろう)』です!」


 その手に掲げられているのは、目を全体的に覆うタイプの、黒い縁取りのゴーグルだった。

 冒険者が目を守るためにゴーグルを着用するのはよくあることなので、ライナスとしてはそこまで珍しいものには思えなかったが、彼女が自慢げに持ってきた以上、なにかあるのだろうな、とも考えた。


「目の保護のために強化の魔水晶がはめ込まれているのはもちろん、暗闇でも見通すことができる機能、も付いています。そしてさらに! なんと、魔石を見ることができる機能もあるのです!」


 そう言われても、ピンとこない。魔石は普通に肉眼で見えるからだ。


「……えっと、実際に見てもらった方が早いね……モードを『加工品探知』にして、と……」


 ミクが、そのままでは身長差があるためにライナスを椅子に座らせ、そのゴーグルを取り付けた。

 バンド部分は緩く、調整してもまだちょっとぐらつくほどだったが、彼女が起動つまみをスライドさせると、きゅっと引き締まり、顔に適度にフィットした。


 直後、ライナスの目の前には、店内が、まるで星空のように、あちこちに光り輝く魔石が点在しているのが見えた。

 その多くが黄色っぽい色だが、中には水色や橙色、赤色も見える。

 さらに、その大きさや光量もまちまちで、どうやら魔石としての種類や純度が反映されているようだった。


 彼が感嘆の声を上げる。


「凄いでしょー。これには魔石探知機能が組み込まれていて、魔石をある程度『透過』して見ることができるの。だから、アイテムに組み込まれている魔石の種類や強さを把握できるよ。基本的に視界内にあるものは大体見通せます。薄い壁だったりしたら、それを透過して見つけることもできるの……ダンジョン内とかだと、モンスターだけじゃなく盗賊とかが潜んでいることもあるから、そういうのに気づくこともできるのが利点だよ」


 ニコニコと笑顔で説明する彼女が身につけているピアスやネックレス、右手の中指に装着されている指輪からもかなり明るい光が漏れていた。


「それだけじゃなく、左側のつまみを真ん中にスライドさせると、それは『未加工品探知』で、つまり魔獣や妖魔が自らの体内に持っている魔石を直接見ることができるの。ということは、索敵機能はもちろん、どれぐらい強い魔石を持っているかを把握することもできるよ。物陰に潜んでいたりする魔物も探知可能。まあ、分厚い扉や壁の向こうは見えないんだけど……曲がり角の向こう、とかだったら、魔力探知の範囲内だから把握できることも多いの。ハンターにとって獲物を素早く察知できて、しかもある程度強さの目安が把握できる……それって凄いと思わない?」


「ああ、凄い! この街のハンターはみんな、こんな凄いものを身につけているのか!」


 ライナスのその賞賛に、メルとミクは、目を見合わせて苦笑いする。


「……それ、まだ数点試作品があるだけなの。『魔力探知』自体は広まっているアイテムなんだけど、音として感知するものが多いわね。そこまで具体的に視覚で感知できる優れものは、現在の魔道具としてはまだ存在してないわ」


 メルがライナスにそう教えた。


「えっ……どういうことですか?」


「この手の魔道具って、試作品ができても、半年から一年ぐらいは試用を繰り返し、さらに時間をかけて量産できるようにしてやっと店頭に並ぶの。ものによっては、先に騎士団とかの正規軍に採用されるけど……」


「……これって、そんなに特別なものなんですか? それがなんでここに……」


「さっき言ったでしょう? ミクは天才って……彼女が本格的に主任技師として活動を始めたのが三年前だから、まだ製品化されていないものも多いのよ。ミクはそれほどの逸材……多分、魔道具の歴史を、五十年は先に進めることになるでしょうね」


「……そんなに、ですか?」


 驚きと、半ば呆れの混じった表情でミクを見つめるライナス。その様子に、彼女は照れる。


「やだ……そんなに持ち上げないで。私は好きでやってるだけだから……あ、その『黒梟』の説明、続けるね。左のつまみを一番下に持って行くと、加工品、未加工品の両方を探知できるようになります。それと、右のつまみで『感度』を調整できるの。あまり感度を高めすぎると、ほんの小さな価値のない魔石まで明るく見えちゃうし、充魔石の消費も多くなるから気をつけてね」


「へえ、そうなんだ……確かに、『未加工品』モードにしたら、店内の魔石は見えなくなった……メルさん、これって……」


「あ、だめっ!」


 メルの方を見ようとしたライナスを、ミクが止めようとしたが、手遅れだった。


「うわっ!」


 彼が大きな声を上げてメルから目をそらす。

 彼女の体内……胸部のあたりに、血のように赤い魔石が、大きく、非常に眩しく輝いているのを見てしまったからだ。


「……見られちゃったね……ライナス君、今見たこと、絶対に、絶対に秘密よ」


 メルが、低い声のトーンで呟く。


「……はい……その……理由も聞かない方が良いんですよね?」


 ライナスが『黒梟』の起動スイッチを切り、取り外しながらそう言葉にした。


「ええ……そうしてくれると助かるわ」


 彼女は、悲しそうに、けれど、ほっとしたようにそう言った。

 ライナスは直感的に、今の強力な赤い魔石が、メルが召喚されたときの悪魔じみた強さに関係していることを察した。


 そして彼でも知っていた……魔石を体内に有する人間は、もはや人間ではなく……「不死族妖魔」であることを。

 

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