美JCと猫耳は神社によく映える

人紀

プロローグ

 虫の音が響く夜半頃のことだ。


 満月の光がうっすらと照らす石段を、若い男女がのろりのろりと登っていた。男が持つ懐中電灯の光が細く延び、先に続く上段辺りをうっすらと照らしていた。


 高校のブレザーを着崩し厚化粧した女は、何かいらいらした感じで登っていた。


 だが、しばらくすると、何かに耐えきれないといった感じで隣にいる男を睨んだ。


「ちょっとぉ!

 秋に肝試しとか、マジであり得ないんだけどぉ」


 強い口調であったが、枝葉が揺れるざわめきぐらいで男の腕にしがみ付く様子と、その豊満な胸がギュウギュウ押し当てられる状況に、同じくブレザーを着た男の顔はユルユルになっていた。


「なんだよぉ。

 お前マジでびびってるの?

 マジ、ハズく(はずかしく)ね?

 ねえねえ、ハズくね?」


 それに対して、女はムキになって言い返した。


「はぁ?

 そんなんじゃ無いしぃ。

 ってか、高校生にもなって、お化けを見に行っている事自体がハズイしぃ」


 しかし、言葉とは裏腹に男の腕をさらに締め付ける女に、男はニヤニヤが止まらないといった感じで女を見下ろしていた。


 彼らが登るのは、うらぶれた神社の石段だ。


 ずいぶん昔から廃れ、人の行き来が途絶え、今では人成らざる者の住み処になった――と噂になっている場所だ。


 曰く、二メートルにもなる狼顔の巨人が、歌いながら追いかけてくる、とか。


 曰く、巫女さんの格好をした猫又が、不気味な声で鳴きながら招いてくる、とか。


 様々な噂が広まった結果、彼らのような若者が、時折、怖いもの見たさでやって来るようになっていた。


 怪談話、と言うより最近では都市伝説と言った趣であった。




 都市伝説――慌て者の見間違いや、もしくは、何者かの意図的行動から広がる噂のことだ。




 だが、果たして全てが偽りかどうか。


 現に今、彼らが向かう先にある石段の中央に――人成らざる者――人外が悠然と立っていた。


 巫女装束を身にまとったその女は、胸から腰にかけて緩やかな曲線を描く体を前掛かりにし、登ってくる男女を見下ろしていた。


 小さくて白い顔に薄らと浮かぶ赤い口からは、時折艶めかしい舌が唇を舐めていた。


 そして、その者の長い黒髪の上には三角の耳――猫の耳がピンと伸びていた。


 確かにいるものの、多くの人間が目撃した事の無い存在――妖怪であった。




 今、男女はそれに気付かず、人外に向かって進んでいく。




 人々はいつもそうだ。


 彼女らのテリトリーとは気付かず進み、いつの間にか、その懐近くに迷い込むのだ。


 そして――。


 妖怪は、若い二人を招く様に手を上げて、ゆっくりと振る。


 招き猫のようなその動作に引かれ、引き寄せられるかのように、若者達は妖怪が立つ場所に向かって迷い無く登っていく。


 若者達があと三段ほどにまで近づいた時、人外は突然声高に歌い始めるのであった。


「にゃ、にゃにゃにゃぁ~♪

 にゃにゃにゃぁ~♪」


 その脇を、若い二人は先ほどまでと変わらぬ様子で通り過ぎていった。


「あれ……。

 なんかちょっと……。

 なんかちょっと、今、気配感じなかった?

 ねえ、マジでいなかった?」


 女が男の腕を抱きかかえながら、涙目で辺りを見渡した。


 そんな様子を、男は嬉しそうにからかった。


「いねーよ!

 てか、びびりすぎじゃね?

 マジでうけるんだけど!」


 女はおびえた目のまま、男に怒鳴った。


「ビビビビってないしぃ!

 マジ、ビビってないしぃ!

 っていうか、お前マジうざくない!?」


 そんな彼らを、妖怪は振り返りながら小首をひねった。


「にゃん?」

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