第5話 Beginning(5)

そして



志藤は翌朝、地下鉄の出口のところで



「あ、おはようございます、」



いきなり泉川にでくわしてしまった。



「・・ジャガー通勤やないんか?」


ちょっと嫌味交じりに言うと



「え? ああ。 昨日飲んじゃったし。  彼女ンとこ泊まっちゃって直行だったし・・」



フツーに切り返された。



「あ・・そ、」



「駐車場も。 会社はヒラのために用意してくれてないですからねー。 ホラ、ここの。 ビルの中の立体駐車場借りてんですよ。」



通りかかったビルを指差した。



「あ・・そ、」



同じ返事を若干タメて返した。



「志藤さんはスーツは自分で選ぶんですか? やっぱ奥さん、ですか?」



いきなり訊かれた。




「あ・・? おれは全部自分やけど。」



「そーですかあ。 ほんっとおしゃれですよね。 大阪からあなたが来た時はおれ思わずこっそり秘書課に用があるフリして見に行っちゃいましたもん、」



屈託なくそう言われ。




「は? おれ?」



少し驚いた。



「芸能二部の女の子たちが志藤さんのこと騒ぐから。 でもほんとセンスいいし、ネクタイひとつとってもさりげないおしゃれっていうか。」



褒められて少し顔が緩んでしまう。



「や・・そんな意識してへんけど、」



本当はネクタイを選ぶのも朝じっくりと時間をかけ、靴は傷むので何足かをローテーションで履く。 



ハンカチひとつでもスーツに合わないと思うときちんと選びなおす。



「憧れちゃうな~~~って。 ほんと密かに思ってたんですよ。 で。 もっともっとそばで仕事したいなーって、」



あっけらかんと言われて



「そんだけのことで・・事業部に来たかったとか?」




呆れたように彼に言った。



「ま。 もちろん。 志藤さんがめっちゃ仕事できるって聞いてたし。 それもありますけど。 もうおれの見本にしたい人ですから。 あなたみたいにカッコよくなりたくて。」



・・アホか



こいつ




心からそう思ってしまった。



意味わからへんし!



だからぼんぼんなんか必死に仕事なんかやらへんて!!




思わず早歩きになってしまった。




しかし泉川は気にせず前を歩いていた女子社員に



「あ、美穂ちゃん。 おはよ。  ねえ、この前言ってた店だけどさ~~、」



小走りに駆け寄って話しかけたりしていた。





ほんっまに!



なんでこんなに腹立たしいねん!!



思わず拳をぎゅーっと握り締めてしまった。


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