第3話 Beginning(3)
「なかなかいいじゃない。 なんてったってお酒はもちろん、つまみが美味しい! コレが一番よね、」
その『新月』にやってきた5人はごきげんで、香織も陽気にそう言った。
「あたし、ほんっまに酒と食べ物に関してはめっちゃハナ利くねん。」
「南さんっぽいけどね、」
彼女にそう言われて、すかさず
「あ、佐屋さんはあたしより先輩なんやから。 『南さん』なんて呼ばんといて。」
南は彼女にビールを注ぎながら言った。
「え? でもさ~。 ほら。 社長のトコのヨメじゃない? やっぱりさあ、」
「も~~。 あたしはヒラやし! 北都家のヨメったって、こうしていち社員として頑張りたいんやから。 志藤さんも『南』って呼んでいいからね、」
「え? なにどっかに隠しカメラとかあっておれら陥れようとか思ってへんよなあ、」
志藤はタバコを手に笑った。
「アホか、もう。」
すると泉川が
「んじゃあ、おれも年上だから『南』って呼び捨てしよっかな~、」
アハハと笑った。
「んまあ・・ちょっとなんかしらんけど腹立つけど。 でも、しゃあないし。」
「アハハ。ま、呼び捨ても性に合わないし。 ね、『南ちゃん』。」
まったく嫌味なく
人懐っこくスッと入ってくる不思議な空気を持っていた。
「ねー、タマちゃん。 これとこれ。 オーダーしてきて~。」
「あ、はい。 南さん、水をもらってきましょうか。 ペース速すぎです、」
「ありがとー。 ほんまタマちゃんて気が利くよね~~~。」
玉田が席を外すと
「ほんま。 めっちゃいい子やなー。 タマちゃんは。 素直で優しくて。 ちょっと気が弱いトコもあるけど。 人のよさが顔に出てるし、」
南は言った。
「まー。 物足りないトコもあるけどな。 怒ると泣きそうになってしまうから、こっちも気い遣う、」
志藤は焼酎のロックの氷をグラスの中でくるっと回して笑った。
「とか言って。 けっこう容赦なく怒ってるじゃない。 廊下までタマちゃんのこと怒る声聞こえるもん、」
香織は明るく笑った。
その時誰かの携帯が鳴った。
「あ、すんません、」
泉川がポケットを探って席を外す。
そして数分で戻ってきたが、またしばらくすると携帯が鳴る。
それを2~3度繰り返し。
「なんやねん。 もー。 こっちが落ち着かへん!」
志藤は気分を害してしまった。
「すみません。 おれちょっとこれでシツレイします、」
泉川は悪びれることなく上着を手にした。
「は?」
「もー『早く来て』ってうるさくて。」
満面の笑みでそう言ってかぜのように去ってしまった。
「なんや、アレ・・」
南は頬づえをついてボソっとつぶやいた。
「・・さあ、」
香織も気が抜けたような声でそう言った。
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