第49話 ある観察者の提案

なんで見つかったの!?


慌てて召喚モンスターを召喚石に戻し、耳を澄まして庭の様子を探る。私が尾行していた証拠はない。ここは惚けて乗り切るべき? しかしタイミング的に私が怪しいのは間違いない。勘の鋭い人ならば、モンスターの出現しない第1階層と姿の見えないモンスターのことを紐付けるかもしれない。となると、やはり怪しいのは私。


さっきの闘いっぷりを見る限り、彼と敵対するのは愚策。なんとか穏便に──。


ピンポーン! と私の気持ちにそぐわない能天気なチャイムの音が響いた。モニターに映るのはレッドキャップの召喚者、水野晴臣。明らかに怒った顔をしている。あぁ、どうしよう。とりあえずお茶かしら? 時間を稼いで、先ずは怒りを鎮めるのが良さそうね。


玄関に向かい、思い切ってドアを開ける。


「あら、何かありましたか?」


「ええ。お宅のダンジョンで困ったことが起きまして」


「……それはどんなことですか?」


「俺達以外の召喚モンスターがダンジョン内に居たんです」


「……立ち話で済む内容ではなさそうですね。どうぞ上がって下さい」


「えっ、上がるんですか?」


なんでそこに引っ掛かるの? 警戒されてる?


「ええ、お茶でも飲みながら詳しくお聞かせ頂けませんか?」


「いや、えっと、お茶を……2人で……家に」


急にしどろもどろになる。理由は分からないけれど、主導権を握るチャンスね。


「ちょうどお湯を沸かしたところなんです。冷めてしまうので、ささ、上がって上がって」


そう言って彼の手を引っ掴み、玄関の中に入れる。


「わっ、分かりました! お邪魔します!」


これは、なんとかなるかも。



#



「えっ、じゃあ、八乙女さんがリアルダンジョンwikiの管理人ってことですか?」


「そうよ。人に言うのは初めてなんだから、内緒にしてね」


私は謝罪した上ですっかり何もかも話してしまっていた。私が召喚モンスターを使って水野君達を尾行していたことに始まり、私の召喚モンスターのことやリアルダンジョンwikiのことも。


何故こんな流れになったのかって? それは水野君がいきなり自分の召喚モンスターの秘密を話したからっていうのもある。でも多分、私は誰かに自分のことを話したかったのだ。


「この召喚モンスターがいれば、ダンジョンの情報は幾らでも集められますもんね」


そう言って水野君は再度召喚したリド──ファントムリザード──を見ている。


「このモンスターのことはリアルダンジョンwikiには載せないんですか?」


「載せないわよ。姿を消せるトカゲのモンスターなんて混乱を招くだけだもの。私の仕事もやり難くなるし」


自分のことが話題になるのが恥ずかしいのか、リドはしきりに頭をかいている。かわいい。


一方のレッドキャップ、ゴジロウはスキのない様子でシュッとテーブルの上に立っている。その瞳はオッドアイ。


「水野君だって、ゴジロウの瞳のことは内緒にしておきたいでしょ?」


姿を消しているリドの居場所を見破ったゴジロウの瞳は、ダンジョン内の怪しいところを光で指し示すらしい。看破の魔眼といったところかしら。


「そうですねー。瞳とか隠し通路の話は内緒にしておきたいってのが本音です」


隠し通路。


まさかそんなものがダンジョンにあるなんて。様々なダンジョンにリドを侵入させてきたけど、今日まで全くその存在を知らなかった。


「その短剣、反則よね」


「ですね。SMCでは使えないです」


隠し通路の先で手に入れたという短剣は魔剣といってもいいほどの切れ味。キマイラさえ簡単に屠ってしまう。もちろん、ゴジロウの速さと技量があってのことだけど。


「ねえ、水野君」


「は、はい! なんですか?」


私が改まったから驚いたみたい。ちょっとかわいい。


「これからもたまに、ウチのダンジョンに来てくれない?」


「えっ、いやーそれは。入ダン料が……」


「18時以降はお客さん来ないから、それからだったらお金は要らないわ。その代わり──」


「その代わり?」


「情報が欲しいの。特に隠し通路の先についての。水野君はこれから色んなダンジョンに行くでしょ? そして隠し通路も見つける。その先に何があるのか。私は知りたくて仕方がないの。どうかしら?」


「喜んで!!」


私は同志を得たのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る