第28話 段田ハウスにて
「先程は本当に申し訳ございませんでした!」
段田さんは深々と頭を下げていた。警察官が去った後、俺と鮒田は家の中に招かれ、リビングでコーヒーを頂いている。
「やめてください。俺達もちょっと酔っ払っていて、ふざけてやってしまった面もあったので……」
「しかし、私がみっともなく酔い潰れてしまったのがそもそもの原因なので……」
「その通りだ!」
「鮒田は黙っていろ。ややこしくなる」
「事実を言ったまでだ! こういうことは、はっきり言った方がいい!」
鮒田の言っていることも分かる。段田さんの酔い方はなかなか迷惑なものだった。いつもあの調子だとすると、お店側からNGを食うのも遠くないだろう。
しかし、あそこまで酷いことになるには何かしら事情があるのではないか? やたらと家族のことを気にしていたようだが……。
「ところで! ダンジョンオーナーは家族に逃げられたのか? 酔っているとき、うわごとのように家族のことを話していたぞ!」
こんなストレートな尋ね方が出来るのは鮒田だけだ。感心する。
「……はい。その通りです。あの、話してもいいですか?」
よほど誰かに聞いて欲しかったのだろう。俺達が頷くと段田さんは滔々と話し始めた。
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段田さんの長い、ながーい話しを要約するとこうだ。
段田さんは仕事でとても大きなミスをした。会社に損害を与えるレベルの。本来ならそれを挽回すべく頑張るのが筋だ。しかし、段田さんは逃げた。転職先も決めないで会社を辞めてしまった。
ここで怒ったのは奥さんだ。共働きで生活はなんとかなる。しかし、自分に相談もせず、逃げ出したのが許せなかったのだ。徐々に2人の関係にヒビが入り始める。
そんなおり、段田さんは庭にダンジョンが出来ているのを発見した。世間を騒がすダンジョンが自分の家の庭に。調べてみるとプライベートダンジョンは非常に儲かることがわかる。無職の段田さんは飛びつき、プライベートダンジョンをオープンさせてしまった。またもや奥さんに相談もせずに。
「それで、奥さんと娘さんは出て行ってしまったと」
「……はい」
段田さんはリビングのローテーブルの前でずっと項垂れている。
「何故だ! 金儲けを始めたぐらいで何故出て行くんだ! 女さんの考えていることは分からん!」
「私が楽な方、楽な方へと流れていってしまってるのが許せなかったんだと思います」
「とは言っても大半の人は楽して儲けられるなら、それを選ぶのでは?」
「言われたんです。"あなたはそうやって、ボケっとダンジョンの管理人をして一生を終えるつもり? そんな人と結婚をしたつもりはないわ"って。私は何も言えませんでした」
俺も何も言えません。
「ふはははっ! 簡単な話しではないか! ダンジョンに頼るのではなく、ダンジョンを活かす商売を考えればいいのだ!」
「……どういうことですか?」
段田さんが少し顔を上げた。
「ダンジョンオーナーの奥さんは、漫然とダンジョンに生かされているような状況を嫌ったのだ! だからといってダンジョンと全く関係ない仕事を探すのは愚か者のやること。段田ダンジョンを最大限に活かして金を稼げばいい! 頭を使い、獰猛に金を稼ぐのだ! そして全てを取り戻せ!!」
「ダンジョンを活かし、取り戻す……」
「そうだ! 思い付いたことはなんでもやってみればいい! この鮒田武がついているぞ!!」
「は、はい! ありがとうございます!」
段田さんはしっかりと顔を上げ、前を向いていた。
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