第21話 教卓上の戦い

「いけ!! 季節外れのサンタゴブリンを叩きのめせ!」

「ブイ!!」


鮒田が召喚したオークがハンマーを振り下ろすと、教卓の天板は音を立てて震えた。なるほど、大した怪力だ。しかし、


「このゴブリン! ちょこまかと逃げやがって!」


当たらなければ意味はない。オークの攻撃は大振りで単調。ゴ治郎は嘲笑うかのように紙一重でそれを躱す。裏庭ダンジョンで一対多の戦闘経験も積んでいるゴ治郎に通じるものではない。


「やれ!」

「ブイ!」


「そこだ!」

「ブイ!」


威勢は良いがハンマーは空を切り、天板を叩くのみ。


「どうした? ゴブリンは雑魚ではなかったのか?」


「雑魚だ! 雑魚だから逃げているのだ! じっとして殴られろ!」


こいつ、まだ雑魚と言うか。それならば──。


「ゴ治郎! 反撃していいぞ!」

「ギギッ!」


タンッ! という足音が教卓に響く。オークからするとゴ治郎が消えたように見えただろう。顔に焦りの表情が浮かぶ。俯瞰でもゴ治郎の姿を捉えるのは困難だ。はっきりと見えるのは攻撃に転じる瞬間だけ。そう、このように。


「武蔵、後ろだ!」

「ブィ──」


背後から飛び蹴りを食らったオークがつんのめり──。


「残念。もう前だ」


「「!!!!」」


今度は正面に回り込んだゴ治郎がオークの顎を蹴り上げた。


「……」


鮒田は声もなく、教卓に大の字になったオークを見つめる。


「鮒田」


「……」


「ゴブリンがなんだって?」


「……なかなかやるではないか」


鮒田の額をたらたらと流れる汗は、空調がきいていないからだけではないだろう。


「なかなか? 星3のオークが何も出来ずにやられたんだぞ?」


「……と、とても強かったです」


「それだけか?」


「うるさい! 俺は謝らないぞ! 俺は鮒田武! 謝らない男だ!」


「……はぁ。お前、本当に友達なくすぞ?」


「や、焼肉だ! 焼肉で手打ちにしろ! 俺は鮒田武! 金で全てを解決する男だ!」


多分、これがこいつの謝り方なのだろう。


「まぁいい。召喚してちょうど腹が減ったところだ。A5ランク和牛の食べ放題で我慢しよう」


「ふははははっ! お安い御用だ!」


なんて立ち直りの早い奴だ。ある意味感心する。これが鮒田家の帝王学の成果なのだろうか。


「さぁ、行くぞ!」


ゴ治郎と武蔵を召喚石に戻した俺達は、消費したカロリー分を摂取するために講堂を後にした。

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