第22.7話 父娘7
香坂から情報を聴取した翌日、いよいよ須川父と面談の時が訪れる。
須川宅のリビングに、須川父、田中、戸松、須川、香坂の5名が会するが、話し合いが始まる前から空気はひりついており、戸松は今にもこの場を逃げ出したい気持ちに駆られる。
「須川常務、本日は終業後にもかかわらず貴重なお時間をいただきありがとうございます」
「構わんよ、娘のことだ」
田中の挨拶に須川父が鷹揚に頷く。
皆を振り回している大本の原因であるにもかかわらず、尊大な態度をとる須川父に戸松は歯ぎしりをする。
「さて、彩奈さんがKYUTEを脱退するよう常務から進言があったとのことですが、どういった経緯でそのようになったんでしょうか」
田中の性格からしても須川父の態度は気に入らないであろうはずが、そんな様子もおくびに出さず、努めて冷静に話を切り出す。
「単純な話だ。フェスというチャンスをあげたにもかかわらず、結果を残せなかった。このまま彩奈にアイドルをやらせるメリットはないと判断した。それだけだ」
何を分かり切ったことを、と須川父が簡潔に言い放つ。
暫しリビングを静寂が支配する。
「……あの、今のお話で気になった内容があるんですけど、お聞きしていいでしょうか?」
沈黙を破ったのは、須川の付き添いをするのみと約束していたはずの香坂。
一方で、傍らに坐する須川は、俯きがちで何を考えているのか分からない様相である。
娘を一瞥した須川父は頷き、香坂へ先を促す。
「先ほど、フェスというチャンスをあげた、って仰いましたよね?どういう意味ですか?」
「字義通りだ。本来、メジャーデビューしたてのアイドルがあの規模のフェスに出られるわけがないだろう。私があらゆるコネを使って君たちを出演させるべく働きかけたわけだ」
須川の顔がサーッと青くなる。
半面、香坂の顔色は変わらないものの、ジッと考え込む素振りを見せる。
ふと、戸松の頭の中に一つの疑念が沸き上がる。
「そのフェスが失敗に終わったから、娘さんを脱退させるとのことですが、KYUTEを解散させるという判断に至らなかったのは何ででしょうか」
「KYUTEにはそれなりのサンクコストを支払っている。今後も採算が取れないと分かったら解散という選択肢もあり得るが、まだそれを判断する時期ではないだろう。尤も、これは経営層としての判断だ」
一呼吸置き、須川父が言葉を続ける。
「一方で、このまま人気が出ないままズルズルと活動を継続した場合、娘は売れないアイドルというレッテルを張られる可能性がある。父親としては、娘がそんなレピュテーションリスクに晒されるのを看過する訳にはいかない。これが彩奈だけを脱退させる理由だ」
須川父の顔は相も変わらず仏頂面であったが、話を聞いた後では、先ほどまでと随分と印象が違って見えた。
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