第21話 After the Festival -後の祭り-
紗枝を連れ立って控室へ向かうと、ちょうど4人は私服へと着替え終わり部屋に戻ってきたところであった。
扉をノックし部屋に入ると、新垣と種田、須川の3人は、戸松の隣の女性が誰なのか訝しむ表情を見せる。
半面、香坂の表情は驚愕の色が強く滲み出ており、反応の差に紗枝は内心苦笑を禁じ得ない。
「すみません、こんなタイミングで。こちらは戸松紗枝で私の姉です。いろいろとご縁が重なった結果、今日は関係者席に招待することとなり、こうして皆さんにご挨拶するに至った次第です。どうぞよろしくお願いします」
「KYUTEの皆さん、スタッフの皆さん、初めまして。紹介があったとおり、智久の姉の戸松紗枝です。いつも弟がお世話になっております。智久が音楽プロデューサーをしているとのことで、皆さんのことはデビュー当初から応援しています。智久が偉そうにプロデューサーをやっているようですが、何か至らない点があれば遠慮なく私に仰ってください。私が智久をしっかりと”指導”しますので。これからもよろしくお願いしますね」
本日の結果への言及を避けつつKYUTEを応援する口ぶり、さらには弟をダシにしての親しみやすさの演出に、戸松は我が姉ながら心の中で賛辞を贈る。
「戸松さんのお姉さんですか……。私は種田優美と申します。お会いできて光栄です!あの……!もしよろしければ紗枝さんってお呼びしてもいいでしょうか。私のこともぜひ優美と呼んでいただけたら……!」
先ほどまでの落ち込み具合から一転、種田が興奮の面持ちを露にまくし立てる。
「えぇ、優美さん。これまでの活躍は私も存じ上げていますよ。優美さんのダンスには私もとても心を動かされました」
「え、それはすごく嬉しいです!私、元々戸松さんの……、あ、智久さんのファンで、こうして一緒にお仕事できるだけでも光栄なのに、お姉さまにまでこうして褒めていただけて、それだけで感無量です!」
種田の単純さに、周りの空気も幾分か和ぐ。尤も本人にはその自覚はなく、それこそ種田が他者から愛される所以であるのかと戸松は思案する。
「って、ごめんなさいね。皆さんのお時間を奪ってしまって。今日こうしてお邪魔したのは、弟がお世話になっていることにお礼を言いたかっただけなので。あ、つまらないものですが、よろしければ召し上げってください」
紗枝は会話に一区切りつけるべく差し入れのお菓子が入った袋を差し出し、皆もその雰囲気を汲み取り、会釈をもって答える。
「みなさん、こんな弟ですけど、これからもよろしくお願いしますね。それでは失礼しますね」
そう語る紗枝の視線は香坂を始終捉えており、彼女もその意味について考えざるを得なかった。
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