第19.5話 不調5

翌日の夕方には戸松の体調も粗方回復し、その次の日からはフェス準備へと復帰することとなった。

週の後半にはリハーサル、週末には本番を控え、スタッフたちの間にも緊張感が溢れており、会議室に到着した戸松も改めて気合を入れなおす。

「こんな時期に体調崩しちゃってすみません。今日から改めて頑張りますんでよろしくお願いします」

「いやぁ、復活してくれて何よりだ。とはいっても無理はするなよ。とまっちゃんを酷使しないでください……って香坂ちゃんとかにも注意されちゃったしな」

取り急ぎ田中へ休んだことへの謝罪を伝えにいったところ、フェスのことで埋め尽くされた頭をリセットする言葉が早々に繰り出される。

「……そうなんですか。まぁ、スタッフの中で一番体に鞭打っているのは田中さんのような気がしますが」

「まぁな。年休の残数は減らないし、増えていくのは残業時間ばかりってね。管理職だから残業代もつかないし、あの子たちの活躍を見ることだけが頑張る理由になっている節はあるな」

疲労が余程蓄積しているのか、やや愚痴めいた口調で田中が返答する。

「おはようございまーす。あ、戸松さーん、もう体調大丈夫なんですか」

会議室に入ってきたKYUTEメンバーのうち、種田が真っ先に声を上げる。

戸松が彼女らを見やると、香坂は気まずそうに目を逸らす。

「ご迷惑おかけしちゃってすみません。一先ず体調は良くなりました。田中さんから聞きましたが、種田さんを始めとして皆さん色々と心配してくださったようで、ありがとうございました」

香坂へ直接話しかけようものなら間違いなく逃げられると判断し、種田への返答にかこつけて香坂の様子を伺う。

戸松の視線に気づいた香坂は、思い悩んだ表情を一瞬見せたのち、他メンバーの影に隠れる選択肢をとる。

香坂へのいら立ち半分、上手く立ち回れず直接話しかけることができない自分へのいら立ち半分で、体調は良くなったにもかかわらず胸のむかつきが収まらない復帰初日であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る