第14話 2ndシングル前編

いろいろと悩んだ末、2ndシングルに向けて作成したラフアレンジは、まったく毛色の異なる曲調となった。

表題曲がEDMを基調としてアコースティック系のサウンドもやや多めに取り入れたミドルテンポの楽曲である一方、カップリングは3拍子と4拍子が混在するオーケストラサウンドがメインとなるバラードとし、振れ幅を極限にまで広くすることを命題とした。


「……と、こんな感じで行こうかと思うんですが如何でしょうか」

メンバー、スタッフが集まっての会議でラフを流し、感触を伺う。

「おっ、2ndシングルでその方向性はなかなか攻めているね。まぁ、A面の方はスタジアムアンセムっぽくて海外曲が好きな層に特に受けそうだし、B面は歌唱力の技巧が光りそうな感じでしんみり聴かせられそうだな」

田中は上々の反応を示し、他の銘々からも異存の声は上がらない。

「では、これで仕上げに入ります。作詞は北山さんにお願いしようと思うので、レコーディングについても日程をフィックスして問題ないかなと」

北山は商業レベルのクオリティを維持しつつ歌詞を筆早く仕上げてくれるため、戸松も全幅の信頼をおいている。

「あー、それなんだけど、また香坂ちゃんにA面の方はメインで担当してもらいたいなと個人的には考えている。余力があったらB面も」

田中という想定外の方向から飛び道具が放たれ、戸松の心臓がピクリと跳ねる。

香坂を見やると落ち着き払った表情をしており、田中との調整が事前に行われていたことが伺える。

「とはいえ、とまっちゃんの作業効率やゆいちゃんの都合もあるだろうから、あくまで今の話は提案ってことで。話題性があるに越したことはないけど、それよりかは楽曲のクオリティを優先したいしな。どちらを選ぶかはとまっちゃんが判断してくれ」

戸松と香坂のの関係性を知らないながらの配慮は、戸松にとっては何の意味もなさず、イエス以外の回答を絞り出す選択肢は存在しえなかった。


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「やっほー、智久くん。アレンジの調子はどうだい?」

会議の翌日、作詞作業のため北山と香坂が連れ立って戸松の家へやってくる。

戸松の場合、ガイドメロディを作れば作曲が終了するわけではなく、作詞で生まれたフレーズに合わせて音程や音価を調整することがあるため、作詞家の作業に立ち会うパターンが多い。

戸松と北山の二人だけでの作業であれば、最近はビデオ通話で事足りていたため、直接顔を合わせて制作を行うことに幾分新鮮味が感じられた。

「二人ともいらっしゃい。惟子さんがこうしてウチに来て作業するっていうのも随分久しぶりですね。……香坂さんも今日はよろしくお願いします」

「あれれ、ずいぶん他人行儀じゃん。同じ学校に通っていたのに」

「え、何でそれを……」

香坂を見やると、ツンと澄ました顔をしている。

「私も戸松さん……トモと同じく惟子さんのファンだから、ついつい自分のことをいろいろと知ってもらいたくて話しているうちに、流れで喋ることになっちゃって」

香坂が呼び方を"間違えた"ことの理由を、この場では問いただす由もない。

「いやあ、こんな美少女が同じクラスにいたってだけで学生時代は彩り豊かだったでしょ。うらやましいねぇ、青少年」

「惟子さん、発言から加齢臭が出ていますよ。純朴な作曲家をいじめないでください」

交際していたことがよりによって北山に露顕することは断固として避けたかったため、単なる同級生であったと認識していることにホッと胸をなでおろす。

「とりあえず雑談はその辺にして、曲作りに早く取り掛かりましょう」

このまま話を続けるとボロが出かねないと判断し、メインルームへ向かうよう二人を促す。

「はいはーい。それじゃ、ちゃっちゃと終わらせてお二人の甘酸っぱい思い出を聞かせてもらおうかな」

口調こそ軽いものの、北山の顔つきは仕事モードへと切り替わっていた。

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