第51話 泊まりのキャンプは大成功の回
「やややや……! 違うくて! ダイが! いや、俺だけど……っ! わぁぁ!」
穴があったら入って埋めてもらいたかった。何でよりにもよって賢太郎に渡してしまったんだ。タオルにあれほど包んで入れたって覚えてたのに、何故今忘れてたんだ。再びシュラフの中に潜り込んで息を潜めた。真っ暗な中で自分の荒い鼻息だけが響く。賢太郎がどういう顔をしているのか、見るのが怖かった。
「……ヒカル」
あのいつもの低くて優しい声で俺のシュラフごと抱きしめる賢太郎は、どんな顔をしているんだろう。
「してもいいって……思ってたのか?」
答えてもいいんだろうか。いや、答えないとダメなんだろう。自分の気持ちを伝える事が大切なんだから。正直に伝えてみようか。
「賢太郎が……、賢太郎が相手だったら、いいかなって……思ったから」
「でも、めちゃくちゃ痛いかもだぞ」
「……練習してたから、ちょっとはマシだと思う」
「れ、練習⁉︎」
自分で言っててその内容を思い浮かべてはシュラフの中で赤面した。すぐ近くで驚いた声を上げた賢太郎は、そんな俺の事をどう思ったんだろう。先走って、はしたないと思ったのかな。しばらくは絶対にシュラフから出ないと心に決めてそのままじっとしていると、穏やかな声で話しかけられる。
「ヒカル、お前って本当にいつも予想外の事をしてくれるよな。俺は昨日みたいな事でも『してもいいのか、嫌じゃないのか』って悩んでたっていうのに」
「ご、ごめん」
いつまでもシュラフの中に潜り込んでいると流石に呼吸が苦しくなってくる。外では賢太郎がぎゅうっとシュラフごと抱きしめてくるから尚更だ。顔を出したいけど恥ずかしいという感情の狭間でウロウロしていると、更に賢太郎は言葉を続けた。
「初めて、はテントじゃなくてせめてちゃんとしたコテージでも借りてって思ってたけど」
「へ……」
「ヒカルがそんなに乗り気なら、別にどこでもいいか」
ガバッとシュラフを捲られて、隠していた顔が露出する。息苦しさは一気に改善したけど、その代わり汗だくになった顔を見られるのが恥ずかしかった。
「けんたろ……っ」
そんな俺の恥じらいなど関係ないというように、賢太郎は俺に最後まで名前を呼ばせてくれなかった。声も吐息も全て飲み込まれて苦しい。汗だくで恥ずかしくても離してくれない。やっと解放された時には息が荒くなっていた。
「テントでするのもスリルがあっていいかもな」
「な……なにが……」
「ヒカルが恥ずかしがるのが可愛いから、テントで声を我慢させるのもいいかなって」
「……っ! 変態!」
俺をシュラフごと抱きしめたまま、ははっと明るく笑う賢太郎は「そろそろ起きないとマズイな」と言って起き上がる。
(まだそんなに遅い時間じゃないと思ったけど、キャンプの朝は早起きしないといけないのか?)
「あんまりこうやってると、我慢出来なくなったらまずいからな」
そう言ってさっさとシュラフを片付け始める賢太郎を見つめながら、しばらくしてやっとその意味が理解出来た俺は急いで起き上がって片付けを始める。勿論、タオルと一緒に飛び出したアレは急いで残りのタオルに包んでリュックの奥底へ押し込んだ。
「さ、それじゃあ朝食のホットサンド作るか」
「うん! 俺、火起こすよ」
「いや、炭の処理が大変だから朝はバーナーで作る」
「へぇー」
どれだけ道具が入ってるんだと思うほど、賢太郎のリュックからはたくさんの調理器具が出てくる。俺も頼まれた荷物はリュックに入れたりもしたけど、中身を考えたら明らかに賢太郎の方が重量がありそうだ。それでも平気な顔して背負って移動してきたんだから、本当に敵わない。
「ありがとう、賢太郎」
「何が?」
「いや。遠足部はじめてのキャンプ、楽しかったな」
そう言って俺が笑うと、賢太郎も目を細めて笑った。今度キャンプに行く時は俺ももっと荷物を運べるように、賢太郎に頼ってばかりじゃなくてちゃんと役立てるように頑張ろう。
(相川にも、俺が賢太郎の足枷になってるなんて言われないようにする!)
相川と今度何かあっても胸を張って言い返せるようになろうと決意する。そして出来たら賢太郎の大切な友達である相川と腹を割って話して、仲良くなれたらいいなと、そんな風に考えていた。
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