第046話 俺、思い出す!
「俺がこの世界で目指すのは、アイテムコンプリートだ」
「アイテムコンプリート、でございますか?」
「具体的にはこの俺専用のアイテム、『財宝図鑑』を完成させるのが目標だな」
「あっ。それは、主様がいつも肌身離さずお持ちの御本にございますね」
「だな」
俺は『ゴルドバの神帯』をほどき、『財宝図鑑』を開く。
そこには名前が記載されていたりされてなかったり、絵がついていたりついてなかったりと、色々と歯抜けになったなんとも半端な図鑑の姿があった。
「これの完成が、主様の目的」
「YES! で、だ」
ごくりと喉を鳴らすナナを横目に、俺はメモ紙にペンを走らせ始める。
「まずは確認。モノワルドに存在するアイテムのレアリティは9種類。間違ってないよな?」
「はい。その通りにございます」
「じゃあナナ。レアアイテムって言われるとどの辺のレアリティを想像する?」
「それは……」
俺の問いかけにナナは頬に指を当てながら考えを巡らせ、少しの間を置き答えを口にした。
「やはり、SR以上のもの……でございましょうか?」
「YES! その通り。モノワルドではSR以上のレアリティを持ったアイテムを、レアアイテムと呼んでいる」
「はい」
「この世界の住人にとって関係の深いアイテムのレアリティ。今日まで俺は、そのレアリティと世間の評価について調べ続けてきた」
ペンを止め、書き上げた物をナナに見せる。
「そうして現時点までで俺が把握した9種類のレアリティの名称と、それらが今のモノワルドで受けている評価・立ち位置を簡潔にまとめた表……それがこれだ」
【低レア】
----------レアアイテムの壁----------
----------オンリーワンの壁----------
----------存在不明の壁----------
【高レア】
THE・主観!
あくまで参考情報、という奴である。
(でもしょうがないね! レアリティそのものについて深く言及する本とか、全然ないんだもんよ!)
モノワルドの人ってそれぞれが適性に合わせた専門的な仕事してるから、こういった大本の基礎研究とか、意外とおろそかになってるのかもしれない。
大事なのは自分の適性とそれを伸ばすことだから、よそ見している暇がないともいう。
閑話休題。
「『財宝図鑑』に登録されるのも、SR以上のアイテム……レアアイテムだ。だから俺の旅の目的は、世界中のレアアイテムを集め、手に入れるということでもある」
「なるほど……それはまた、遠大にして困難な目的だと思います」
「だな。それは俺も思う」
未だに手に入れられていない『鑑定眼鏡』ですらレアリティSRである、という点を考えても、これがどれだけ険しい道のりなのかは推して知るべし。
とはいえ、それらSRアイテムくらいは本当にまだマシで……。
「問題は一点物。LR以上のアイテムだな」
「LR……アリアンド王国の国宝でもある、あらゆる生物を乗りこなせるという『ベルレフォンの手綱』や、至竜が守るといわれる『ドラゴンオーブ』、北果ての賢者ホーリィが持つという『ニムバスの
「詳しいな、ナナ」
『ニムバスの杖箒』と『蓬莱の玉の枝簪』。
俺が知らないアイテムの名前がふたつもあった。
こういうの聞いちゃうと、それがどんなアイテムなのかとかついつい妄想しちゃうよなぁ。
「わたくしの集落に時折やってくる旅の詩人の方が、よく歌ってくださいました」
「旅の詩人、吟遊詩人か……!」
「はい」
はぇ~、意外なところに意外な情報ソースがあるもんだ。
思わぬ情報をゲットしつつも、俺は話の軌道を元に戻す。
「そうしたこの世界にふたつとないアイテムも、俺は集めていかなきゃいけないんだ」
「それは……ともすればこの世界に混乱をもたらしてしまうのではないでしょうか?」
「そうだな。ふたつとあれば穏便に終わった話だが、そうは問屋が卸さなかった」
俺の望む未来における最難関が、これである。
アイテムコンプリートを目指す上で避けては通れない問題。それが――。
「一点物のアイテムは、正攻法じゃ手に入らない問題」
俺の頭の中で禿げ頭のダンディが「な、なにをするきさまらー!」と叫んだ。
「国宝に手を出すのはもちろん、LRを所持していらっしゃる方々は、それこそ伝説とうたわれるものたちにございます。主様はいかように、それらを手に入れようとしていらっしゃるのですか?」
「ああ。それらのアイテムをどうやって手に入れるのか、それが俺の人生における重要な部分になる」
だが、ナナの口から出た当然の質問に対して、俺は答えをひとつしかもっていない。
「当然、手段を選ばずに手に入れる」
財力、武力、権力、信頼……使える力はなんでも使って、俺はアイテムを集める。
「それは……時には殺してでも奪い取る、ということにございますか?」
俺の頭の中でもう一度、禿げ頭のダンディが「な、なにをするきさまらー!」と叫ぶ。
だが、安心して欲しい。
「俺ならば、安易に殺す選択肢を選ぶ必要はない! ……《ストリップ》!」
呪文を唱えると共に、俺の手のひらに握られるのは……ナナのパンツ。
俺が買い与えた、小さなリボンがくっついてる可愛いブランドデザイン(HR)の奴である。
「ふえあ!?」
「この力があれば、相手の装備を強制的に解除し、俺の物にすることができる」
そして装備を奪われた側はその分だけ弱体化し、俺から奪い返すのは困難になる。
ううん、相変わらず完璧な能力だ。惚れ惚れするね。
あ、パンツは返しておくね。
「だから、争うことはあっても、そうそう殺すことにはならない……はずだ」
最悪は想定しているし、そのための
「俺には『財宝図鑑』と《ストリップ》の魔法がある」
目的があって、それを為すための特別な力がある。
「だから俺は、なんとしてでもアイテムコンプリートを成し遂げる。それが俺の、この世界で生きる指標だ」
「主様……」
実際に口に出してみれば、意外とすんなり頭の中で考えがまとまった。
(力をつけ、レアアイテムを集め尽くし、世界の頂点に立つ。そのために、金を稼いで、情報を集めて、特にLR以上のアイテムには喰らいついていく)
まとまったからこそ、自分が今どこにいるのかを理解して。
「……まぁ、まだまだ地固めだな」
「?」
「チャンスがあればもちろん動くが、今はまだ、俺自身の力が足りない」
財力も、武力も、権力も、仲間も、まだまだ足りない物ばかりだ。
「だが、絶対に諦めるつもりはない。いずれ俺は、すべてのレアアイテムをこの手にするんだ」
そうして世界を
(そう、そうだよ! ミリエラの魅了対策とかナナの救世の使徒様プレイとか、バッドエンドフラグを回避することばっかりに意識が向いてて、俺自身の掲げた最終目標をすっかり忘れてたぜ!)
思い……出した!!
(アイテムコンプリートのその先で……俺は、自由にモノワルドを楽しみ尽くす!)
最強最高の名の下に、そりゃもう自由に旅して遊んで暮らすのだ!
(なぜなら俺は、集めたアイテム引っ提げて、ゲームクリア後の世界を自由に歩ける奴大好きマン! ただ集めるだけじゃなく、集めたアイテムで楽しむまでが、俺のポリシー!)
この日。
俺は第二の人生でやりたかったことを、再認識した!!
ただいま、俺。おかえり、俺!!
「……やはり主様は、特別なお方だった」
「ん?」
やっべっ。
ちょっと自分に浸りすぎて、ナナの言葉が聞こえなかった。
「今なんて言って――」
「主様!」
「うおっ!?」
近い近い近い!
いきなりナナに詰め寄られ、俺は仰け反った姿勢で話を聞く。
「主様の目的、わたくし大よそ理解いたしました。それが成し遂げられたとき、この世において間違いなく偉業と語られることであると、確信いたしております」
「お、おう」
「ですが……疑問があるのです」
「疑問?」
「はい。主様は救世の使徒……それがどうして、斯様なことをなさるのでしょうか?」
「えっ」
「偉業であるのは確かなのですが、ヒト種を安定に導く使命を帯びた方のすることとしては、いささか不思議なことだな、と」
「………」
思い……出した!!
『――結果として、ナナをさらに騙す形にはなったが致し方ない』
『――連れ歩く限り、これからも嘘をつき続ける必要があるだろう』
『――それが手を出してしまった俺の、責任なんだから』
『――言い訳、考えとこ』
「……oh」
言い訳、考えるの、忘れてたーーーーーー!?
(え、ちょちょちょ待てよぅ)
世の中の安定を目指す救世の使徒が、世の中を混乱させるレアアイテム集めする理由?
(そ、そんなんどう考えればいいんだ!?!?)
「主様?」
「うぇっ、あー、えーっと」
信じて疑ってない真っ直ぐな瞳が、俺の顔をのっそりと覗き込んでくる。
じわじわと、バッドエンドのイメージが、頭の中で展開していく。
『そんな、信じていましたのに……主様が主様でないなんて……神罰執行! てぇぇぇ!』
ぐしゃぁっ!
『そう、やはりわたくしの人生に希望などなかったのですね。この世にもはや、未練はありません』
ぶしゅー!
(……これは、やばい!)
絶賛大ピンチな俺の頭の中には、QTEも、選択肢も、どっちも出て来やしない。
(どうする、どうする、俺!!)
焦った俺の指先は、知らず『財宝図鑑』に触れていた。
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