第37話

 一息ついて、タルトを口に運ぶ。タルト生地はバターの風味よりも小麦の香りがよく、意外にも素朴な味だった。しかしマスカットはみずみずしいのに薄く何かでコーティングしてあるのか、水分が沁み出ていない。食材を活かして丁寧に使っているのがわかる。本店が神戸にある老舗の喫茶店というだけあって、シンプルなのに美味い。


 永里もつられたのか、コーヒーを飲み、サクランボのワッフルを口にした。


 「最初の洋風居酒屋からカラオケに移動する際に、白井さんと茜は連絡先を交換したそうです。茜が二次会に行かないって言ったら、白井さんがじゃあ、連絡先を教えて、って。茜の話では、潮田という人がその時に、南由に通信アプリのIDを交換しようと言っていたそうです」


 「南由は誰とも連絡先を交換していないと」

 「そうですね。南由はスマホの充電が切れたと言って断ったそうです」

 「充電がなかったっていうのは本当のことなの?」


 「本当です。南由が『連絡先を聞かれたら、イヤでも断れないから困る』と言っていたので、私があらかじめ本当に充電を切らしておけばいい、と言っていたんです。

 私が幹事なので、もし誰かと連絡が取りたくなったら、繋いであげるから、と。南由はすぐに顔に出るし、押しに弱いから」


 「そうだね。それで、永里から見た、潮田の印象はどんな感じだった?」

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