第11話

 だけどせめて仮想通貨に手を出さなければ、こんなに切羽詰まっていなかったはずだと思うとため息が出る。

 買うつもりなんかなかったのに、ぼろ儲けした人が続出しているとインターネットに書いてあったから、つい色気を出しちゃったんだよなぁ。


 手に持った木箱を掴んでいる手に力を入れた。頼んだぜ、と声には出さずに言ったが、一方では胸の片隅がざわつく。


 「別に死人が出た訳でもないんだ……。ただの偶然だろ。バカバカしい……」


 額の汗を手で拭って、歩く歩調を緩めた。すれ違う人が怯えたような視線を送ってくる。無意識に考えを口に出して言っていたみたいだ。経済的な不安が増えると、人間は独り言が増えるっていうからな……。

 罪を誤魔化したい時にも独り言が増えるのだろうか、という疑問には蓋をして、乾いた唇を舐めた。


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