転生者であろうと、税金は払っていただきます!

明久 亜伸

第1話 この町にも、転生者が現れているようですね。

私は、毎朝、机の上の書類に目を通すことから、今日の仕事が始まる。



人口2万人にも満たない小さな町だが、繁華街が大きくて、旅行者が宿泊施設を利用するのが年間10万人以上という。

町の中心近くに3つの市場を用意しているが、近郊の町や遠くの巨大都市からわざわざやってくるほどの盛況ぶりなのだ。これはひとえに、立地が良かったということ。

巨大都市3つに囲まれた、ちょうど真ん中あたりに、この町が存在しているので、とにかく物流が盛んな町なのだ。



町の中心は、いま私がいる役場を中心に、自衛団、銀行、商工会などが。

3つの大きな道沿いに、それぞれ大きな商店街があり、そのだいたい真ん中の横道に入ったところが市場になっている。

大都市から、他の遠くの都市から、それらの周りの小さな町から、人と物とお金が集まってくる。


いわゆる、交易都市、と言われるものだな。中学校くらいの地理や歴史で習ったことはあるだろう。そんな感じの町なのだ。




その町において私は、町長の次に偉い立場に、なってしまったのだ。

…まあ、その言葉には語弊はあるかな。たしかに私自身立候補したし、推薦人も多数いたので、だからこの立場になれたのだから。

しかし、私よりももっと仕事ができる人はいただろうに。

そう思うことは、時々ある。今でもだ。




ま、とにかく、なってしまったのだから、今の仕事を全うしていくだけだ。

「えーと、次は、商工会から。先週の宿泊人数と売り上げ、こっちは…、ああ、ギルドか。」

旅行人の立会所であるギルドは、役所の管轄だ。お店のアルバイト情報や苦情受付、旅人のレベル管理など、広く取り扱っている部署だ。だから報告書類もものすごく多い。メモ用紙でもいいから書き留めてくれと伝えているためか、本当にメモ用紙に用件だけ書いている案件も半分くらいある。

「ギルドの新規登録者数…今週は多いな。お祭りでもあったかな。」

人の流れが多いときというのはあるもので、お祝い事や災害時、モンスターの増減など、いろんな要素が絡んでくるのだが、



「おや?転生者が2名か。ふーむまた来てるのか。」



この世のものではない者、違う世界から来た者。

これまでの本人たちの証言から、転生者という枠を設けてデータ管理をするようになったのは、ここ10年くらいだろうか。私の子供のころには、そういう人はいなかった。


あ、いや、いなかったのではなく、言えなかった、ということだと認識している。

つい去年、もう老人になってしまった人が、実は違う世界から来ていたという証言が役所に伝わり、実際にははるか昔から、そのような存在は確認されていたようだ。

しかしそういった案件も、噂話とか、素性がハッキリしない話だったとか、周りも冗談だと思っていただとか。

それが、ここ最近は自ら転生者だと名乗り出てくる人が多くなったのである。これも時代の変化なのだろうか。




転生者を別枠で取り扱う理由は、他の人と比べて、秀(ひい)でたなんらかの才能を持ち合わせている人が、ある割合以上に存在するため。


人には才能と努力によって、個々の能力を発揮するものではあるのだが、その割合は全体の2割弱とみている。


たとえば武器を取り扱えるもの、魔法が使えるものなどは、モンスター討伐に赴くことが出来るが、若いころから鍛錬して、そこまでの技術を持てる人は、市民のうち1割程度しかいない。現実はこんなものだ。


それが転生者になると、確認できただけでも5割を超える。これは驚異的な数字であり、有り得ない事なのだ。もちろん、モンスター討伐に限らないが、一般市民に比べてもはるかに高度な専門性技術を持っている人が多いのだ。

だから、表立って特別扱いはしていないが、管轄は別ジャンルで取り扱うことになっている。これは私がこの立場になる前から決まっていたことなので、私自身も、そのルールに従っているにすぎないのだ。


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