第十三話 最強の陰陽師、取り逃がす


 ぼくは、魔族たちがいた場所を見下ろす。


 溶けた鉄が煮えたぎり、一面が緋色に染まった演習場に、もはや彼らの姿はない。


 御坊之夜簾オンボノヤスが熱を嫌がり、溶鉄の周りだけ少し霧が晴れる。

 ふとそこに、微かな光を見つけた。

 消えかかっているそれは、どうやら魔法陣のようだ。

 よく見てみれば――――それは以前、ガレオスが用いていたものに似ている。


 ぼくは小さく呟く。


「一匹逃がしたか」




――――――――――――――――――

※赫鉄の術(術名未登場)

沸騰する鉄の波濤を浴びせる術。温度は約2,800℃。人体がこれに包まれると、全身の水分が瞬時に沸騰、蒸発し小規模な水蒸気爆発が発生。肉体が爆散した後、残った有機物が燃焼を始めると考えられる。溶鉄の高温は骨すらも融かすが、炭素を昇華させるには至らないため、炭化した死体の一部が残ることとなる。

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