幕間 イーファ、プロトアスタ首長公邸にて④


 嘘みたいだ、と。

 巨大なドラゴンに乗ってあの人が現れた時、イーファは思った。

 こんなタイミングがあるだろうか。


 だけど同時に――――きっと助けに来てくれると信じていた。


「ええと、手短に言いますと……ドラゴンと仲良くなりました」


 それを聞いて、イーファは思わず笑いそうになった。

 無茶苦茶だ。

 でも思えば、あの人はいつだって無茶苦茶だった。

 ぜったいに無理だと思えることをやってのける。

 自分が壁だと思い込んでいたものを、打ち壊してくれる。

 そうして、新しい景色を見せてくれる。


「イーファ」


 自分の名前を呼ぶ声。

 イーファは差し伸べられた手に向かい、足を踏み出した。


 求めてくれることがうれしかった。取るに足らない、一介の奴隷に過ぎなかった自分を。

 学園行きが決まったあの時も。

 そして今も。


「行くなっ!!」


 その時、背中にリゼの声が響いた。

 イーファは足を止める。


 その声音には、自分の身を案じるような響きがあった。

 同胞だと言ってくれた人だ。きっと、本当に心配しているのだろう。


 だけど――――、


「ごめんなさい……わたし、やっぱりここには残れません」


 イーファは背中を向けたまま答える。

 リゼや王子になんて答えればよかったのか、今ようやくわかった。


 きっかけは、なんだっただろう。


 学園ヘ共に行くことが決まって、侍女メイドや奴隷仲間にからかわれたことだろうか。


 屋敷で叱られていた時に、いつも助けてくれたことだろうか。


 それとも――――なにを言われても平然として、なんでも一人でできてしまうのに……時折どうしようもなく、寂しそうな顔を見せていたことだろうか。


 きっと……そのすべてが、そうだった。


「わたしは、セイカくんと行きます」


 イーファは振り返り、リゼへと告げる。



「あの人が好きだから!」



 イーファはリゼに背を向け、走り出した。

 セイカの下へ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る