第14話 生きるということ
サトシは公園で野球をしていた。草野球チームの練習だ。サトシはバットをブンブン振り回していた。そして5回目のスイングでズボッと肩を脱臼した。サトシはグランドを転げ回り悶絶し、チームメイトに助けを求めた。チームメイトはそれを無視してサトシを笑った。サトシはそれを見て怒りたくなったが、あまりにも痛みが激しく、それどころではなかった。次第にサトシは気を失っていった。
サトシは夢を見ていた。
ヨーロッパのお城のベランダのようなところで木の椅子に座り、姫様と向かい合って、紅茶を飲んでいる夢だった。紅茶のカップは高級な陶器で、姫様は幼なじみのミオちゃんだった。ミオちゃんは幼稚園からずっと一緒で、就職した会社まで一緒だった。ミオちゃんは笑顔でサトシに笑いかけていた。ミオちゃんは実に楽しそうに笑っていた。サトシも楽しいと感じていた。しかし、ジッとミオちゃんを見ていると段々サトシの会社の、皮がシワだらけで二重顎のお局さんの河田さんに見えてきた。この河田さんはいつも人の悪口を言っている。サトシはこの河田さんを嫌っていた。なぜなら卑屈な河田さんと一緒にいると気分が悪いからだ。そしてミオは完全に河田さんへと変化した。サトシはそこで意識を取り戻した。サトシはグランドで仰向けに寝転んでいた。そして脱臼した肩は治っていた。ふと右へ顔を向けると女の人が立っていた。サトシは驚愕した。なんで君がいるんだ。サトシの横に立っていたのはミオちゃんだった。ミオちゃんは微笑んでいた。ミオちゃんは白い着物を着ていた。しかししばらくするとミオちゃんは煙よように消えていった。ミオちゃんどこへ行くのだ。なんで消えるのだ。サトシはいなくなったミオちゃんのことを考えながら、自宅へ帰った。自宅へ帰ると年老いた母がサトシに言った。
「ミオちゃんな、あんたの職場の河田さんいう人に殺されたねんてな。今ニュースで流れたで。なんか恨み持ってはったらしいな。なんの恨みかわからんけど」
母はそう言うと、台所へと入っていった。
台所へ入った母が独り言を言った。
「どんなに恨んでも人は殺したらあかんで。なんでかわかるか?それはその人の幸福を追求する権利を永久に奪うということやからや。生きるという事は幸福を追求することや。幸福を追求することを永久に奪われたとき、人は死んだも同然になる」
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