アメリカの ど田舎へ。~子連れアメリカ半横断 引っ越しの旅~

かわのほとり

第1話 サウスダコタってどこ?

 「あのさ、サウスダコタに仕事が決まったんだけど。」

 

 5月末のある晴れた日に、メールの返信を終えた旦那が言った。


 この話は、アメリカのカリフォルニアからサウスダコタへ約2300マイル(約3600km)の距離を、住む家も決まってないのに荷物を町宛てに送り、ちび3人を連れて愛車カローラ君で移動を強行した、わが家のドタバタ引っ越し顛末記てんまつきである。

 

 私が、カリフォルニアで学生だった日本人の旦那と結婚してカリフォルニアに住むこと6年。卒業して就活をしていた旦那の仕事が、サウスダコタのとある町に決まった。当時の私たちは太郎(5歳)、次郎(3歳)、さぶ(もうすぐ1歳)の5人家族だった。


 なになにサウスダコタ? 一体どんなところ? サウスダコタを全く知らなかった私たちは興味深々。ワクワクしながら調べはじめた。


 わかったことは次の3つだった。


・場所はアメリカ中西部。アメリカの真ん中からちょっと上へいったあたりにある州。


・有名なのはマウント・ラシュモア。皆さんも4人の大統領の顔が大きな岩山に彫ってある写真をどこかで目にしたことがあるのではないだろうか。


・もう一つ有名なのは、物語シリーズや日本でも70~80年代に放送された大人気テレビドラマで有名な「大草原の小さな家」シリーズのインガルス一家が定住した地ということ。


 いやいや、今知りたいのは観光情報じゃなくって生活情報なんだけど。


 どうやらサウスダコタ州のアジア人は人口の1パーセントもいないらしい。アメリカでアジア人と言えばまず中国人やインド人。サウスダコタにはきっと日本人はほとんどいないに違いない。


 ここカリフォルニアでは日本人も多く、日本食も比較的簡単に手に入るけれど、サウスダコタでは日本食はおろか、アジア系食材店もあるかどうかわからない。これは最低限の調味料は買い込んでいかなくては。


 サウスダコタのことをアメリカ人の知人にも聞いてみたが、誰もよく知らない。長男、太郎の幼稚園の先生にも「サウスダコタ?今度、タロが引っ越していくところ、という以外何もわからないわ」なんて言われる始末である。


 引っ越すからにはまず住む家が必要だが、ネットで調べても不動産情報はほとんどない。まさか田舎過ぎてアパートや借家がほとんどないなんてことじゃ……。一抹いちまつの不安が頭をよぎる。


 このままではらちが明かない。とりあえず行ってみるべし。ということで、まず旦那が一人新しい職場にあいさつに行き、町を偵察することになった。


 2日後に帰ってきた旦那が話してくれた引っ越し先の町は、私の想像をかなり超えたものだった。

 

 町の中心、ダウンタウンは4ブロックほど。車だと「ここがダウンタウン~?」と言っているうちに通り過ぎてしまうらしい。そんな小さなダウンタウンなのに飲み屋は9つもあるらしい。

 

 新しい職場のボスによると、町には食品スーパーは2軒あり、多分米は売っているだろうということ。

 

 旦那の携帯電話はその町では電波がなくてつながらなかったという。ごく限られた携帯電話会社のものしか使えないらしい。

 要するに、ど田舎ということだ。


 携帯電話の電波が繋がらない……?

 一体どれほどの田舎なの。


 肝心の家探しはどうだったかというと、物件はないわけではないが、時期が悪いらしく見つからない。不動産屋をまわり、タウン情報誌を見て探したそうだが難しく、とりあえずある不動産屋のウェイティングリストに名前を書いてきたそうだ。

こうなったらとりあえず向こうへ行って、探すしかない。そう腹をくくって引っ越しすることにした。


 荷物は引っ越し会社にお願いして、私たち5人は愛車カローラ君に乗って移動することになった。

 荷物の送り先の住所はまだないけどどうしよう。私たちは考えた。

(え~い、町宛てに送っちゃえ!)


 驚くことに、本当に町宛てに引っ越し荷物は送れちゃったのである。


 これは、正確、迅速に配達される日本ではまず無理なことだろう。もちろん引っ越し会社には、住所が決まり次第連絡することになっていたが。


 サウスダコタへは大体1週間から10日くらいで着くとのことだったが、ネット情報だと引っ越し荷物は大抵2週間、ひどくなると1か月、とにかく遅れるのが普通らしい。でもそれは荷物が着くまでに住む場所を決めなくてはならない我が家にとっては好都合だ。それまで2,3週間のホテル暮らしも覚悟した。


 引っ越し準備を始めたが、いつもちび3人が私の周りでゴソゴソしていて、一つ箱に詰めたと思ったら、隣の箱から何かを引っ張り出して遊びだす始末。こんなんじゃ荷造りなんて、出来やしない。なので引っ越し準備は彼らが寝てから進めた。


 そんなこんなで出発前には2日も徹夜をするはめになり、フラフラの状態で住み慣れた町を出発することになった。


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