(ざまぁ)ミーシャ視点「切り裂かれた所を糸で縫い合わせれば、死なないらしいよ」

 -ミーシャ視点-



 あの日、ゴブリンを産んだ私に、天からの声が聞こえた。


『今度はお前が天罰を与える番だ』


 ゴブリン我が子を殺そうとする女冒険者から、自らの手で打ちたいと言って剣を借り、隙をついて冒険者や神父たちを皆殺しにしてやった。

 その時生まれたゴブリンは、私の言葉が分かるらしく、他のゴブリン達と私を結ぶかけ橋になってくれた。


 そして、ようやくドーガ達を見つけ、どうやって奇襲をかけようか考えている時にアンリ達を見かけた。

 手紙でドーガ達の場所を教えたら、ノコノコと現れ、奇襲のタイミングを作ってくれた。

 これはきっと、自らの罪を認め、罰を受け悔い改めた私への神の|思し召し(おぼしめし)でしょう。

 あぁ……神よ。感謝します。



 ★ ★ ★



 さぁて、メインディッシュの時間だ。

 思わず笑みがこぼれる。


「お、おい。俺をどうするつもりだ? 俺は男だからゴブリンと子作りなんて出来ないぞ!」


 あらあら。

 もしかして、ドーガは知らないのかな?


「ゴブリンは相手の性別関係なしに孕ませられるって、もしかして知らなかったの?」


「えっ……どうやって?」


 本当に知らないのか、キョトンとした顔をしている。

 そう、知らないのね。じゃあ教えてあげよう。

 だって、「どうやって?」と聞かれたのだから。


「お前ら、やれ」


「グギャアアアアアアア!!!」


 4匹のゴブリンウォーリアがドーガに襲い掛かり、服を脱がし始めた。


「えっ、ちょ……まさかっ!?」


 どうやら答えが分かったようだ。


「待て、俺はそんな趣味はない。頼む。やめてくれ後生だ! ミーシャ、お前に忠誠を誓う。だからッ!」


「ダメよ。だって、これは天罰なのだから」


「やめ、やめろぉおおおおおおおお!! んああああああ!!!」 


 ドーガの汚い声が、辺り一面に響く。


「やめてくれ! し、死んでしまう!」


 痛みか、それとも男として辱められているからか、涙を流しながらドーガは私に許しを請う。

 死んでしまう、か。私も初めてをドーガに奪われた時、死ぬんじゃないかと思うほど痛かった。

 そして、痛みに耐えながら泣く私に、あなたはなんて言ったか覚えてる?

 忘れてるだろうか、思い出させてあげるわ。

   

「おいおい、もっと気持ちよさそうに腰を振れよ」


 目配せすると、ゴブリンウォーリアが、ドーガの目の前に剣を振り下ろした。 


「は、はい! 喜んで腰を振らせて頂きます!」


 ハハッ、いい気味だ。 

 難癖付けて毎晩のように私に迫って来たんだ。次はお前が迫られる番だ。



 ★ ★ ★



 7日後。

 そこには妊婦のようにお腹を大きくしたカテジナ、シャルロット、そしてドーガが居た。

 妊婦のように大きくなっているのは当然だ。全員子供が出来ているのだから。

 もちろん相手は人間じゃない。ゴブリンだ。


「いや、ゴブリンの子供を産むなんて嫌よ!」


「大丈夫。初めは不安かもしれないけど、じきに慣れてくるから」


 不安がるシャルロットのお腹を、優しく撫でる。

 お腹の子は元気が良いようで、お腹越しに動いているのが分かる。


「嫌よ! 絶対に嫌!」


 なおも喚き叫ぶシャルロット。

 不意にシャルロットの手をホブゴブリンが握った。


「あら、シャルロットのお産を手伝ってくれるのね。それじゃあ私はカテジナの方に行くわ」


「や、やだ。コイツ気持ち悪いから退けてよ。お願い、ミーシャがここに居て!」


 人の恋路を邪魔するほど、野暮ではない。

 私はその場から離れ、カテジナの元へ歩き出す。

 シャルロットの叫び声の質が変わった。騒いだことで出産が始まったのだろう。


「カテジナ。調子はどう?」


「……れつに」


 シャルロットに対し、カテジナは従順だ。

 多分「別に」と言ったのだろう。舌を取ってしまったので上手く発音が出来ていない。


 最初は反抗的な態度を取っていたが、そのたびに舌を引き抜き、爪を剥ぎ、逆らうとどうなるか体で教えた。

 今では呂律ろれつの周らない舌で「ごめんなさい」を繰り返すようになった。私の同じように、彼女も天罰が下ったことを理解したのだろう。 

 

「う、ぐぅ……」


「あら、カテジナも始まったのね」


 額には玉のような汗がにじんでいる。

 初めてのお産で、痛いのだろう、苦しいのだろう。

 これが私の受けた天罰で、貴女達がこれから受ける天罰だ。

 

 カテジナとシャルロットの出産は程なくして終わった。

 彼女達にはこの後もゴブリン達の子作りに励んでもらう。もし彼女たちの罪が清算されたとしたら、それは誰かが助けに来たときだろう。

 なので、それまでは罰を受け続けてもらう。


 さてと、次はドーガの出産だ。


「ああああああああああ!!!!!」


 先ほどからドーガは体を反り、ずっと叫んでいる。

 お腹がぶよぶよと動くたびに、声を張り上げ叫ぶ。こちらももう間もなくだろう。


「ぐあああああああああああ!!!」


 ドーガの腹から爪が生えた。

 すると、そのまま腹を突き破りゴブリンが中から出て来た。

 男の場合は、こうやってゴブリンを出産する。 


「うわぁ、うわあああああああ!?!?!?」


 自分の内側から割かれた腹を見て、素っ頓狂な声を上げるドーガ。

 もはや助からないのは一目瞭然だ。


「大丈夫よ。実は私が生む前に、教会で偶然男性が出産してるところに立ち会ったの」


 その男も、ドーガのように腹を引き裂かれていた。

 助からないだろう。そう思ったが、その男は死ななかった。


「切り裂かれた所を糸で縫い合わせれば、死なないらしいよ」


 私はドーガの腹の中に手を入れて、破れた部分を糸で縫い始める。

 糸を縫うたびに、ドーガの体はビクンビクンと跳ね上がり、口からは泡を吹き始めた。


「シャルロット。言わなくても分かるわよね?」


「は、はい。『中級回復魔法ハイヒール』をかければ良いんですね!?」


「ええ。そうよ」


 とはいえ100%助かるというわけではない、万が一にも死んでしまっては困る。

 なので回復魔法をかけながら、丁寧にチクチクと縫う。


 何とか終わった。

 ドーガは白目を剥きながら泡を吹いている。

 先ほどゴブリンに破られた腹の傷は、血が止まったようでこれならすぐに死ぬことは無さそうだ。


 これで、またゴブリンを産ませることが出来る。

 コイツには死ぬまで死ぬような思いをさせてやるんだ。

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