第9話「こいつらに、天罰を与えるためさ!」

 森の中にポツンと佇む一軒家。

 地図に書かれている場所はここだろう。


 俺は『気配感知』スキルで建物内に誰か居ないか調べる。中からは3人分の反応が出て来た。

 ドーガ達の可能性が、高い。


 こっそりと建物に近づき、壁に耳を当て『聞き耳』スキルを使ってみる。

 中からは聞いたことのある声が聞こえた。ドーガ、カテジナ、シャルロットの声だ。

 どのルートで逃げるか相談しているようだ。


 ここで逃がせば、捕まえるのに時間がかかるだろう。

 俺は小声でサイドを呼び寄せる。


「俺は入り口から突入する。もしかしたら窓から逃げる可能性があるから、アンタは窓の外で待機してもらってて良いか?」


 小屋には窓が一つある。簡単にぶち破れそうな窓だ。


「おうよ」


 サイドが窓際に移動したのを見て、俺は扉の前に立った。

 ベル達に頷きかけ、返事代わりに頷き返される。


「ドーガ。ここに居たのか」


 俺が扉を開けると、ドーガ達の視線が集まる。


「おぉ、アンリじゃねぇか。こんな所でどうしたんだ?」


 ドーガは顔は笑っているが、頬がひくつき明らかに動揺している。

 さも偶然友人にあったような態度、隠し事をしていますと言わんばかりの反応だ。

 後ろの二人カテジナとシャルロットは、そんなバレバレの反応に呆れ気味だ。


「何故ドランを殺した」


「殺した? 違う違う。誤解だって」


 俺の問いに対し、ドーガはヘラヘラと笑いながら否定をした。

 両手を広げ、やれやれといった感じだ。


「アンリ、ちょっと聞いてくれよ、実はよぉッ!」


 ドーガは馴れ馴れしい態度でゆっくりと近づいて来て、斬りかかって来た。

 不意打ちのつもりなのだろうが、明らかに挙動不審な態度だ。余裕で避けられる。


「ハッ! それで不意打ちのつもりかよ。頭を使うのは相変わらず苦手なようだな」


「んだと!?」


 顔を真っ赤にして、俺を睨みつけてくる。

 煽りがいがある奴だ。これでドーガの頭から逃げるという発想は無くなるだろう。


 一旦バックステップで距離を取る。

 

「俺はドーガをやる。お前達は小屋の中から出てくる2人の相手をしてくれ」


 俺の言葉に、3人が「分かった」と返事をする。 

 すぐさま小屋の中から出て来たドーガが、俺に向かって走って来た。

 ドーガの後につづき、カテジナとシャルロットも出てくるのが見えた。


「テメェもぶち殺してやる!」


「出来るもんならやってみろ」


 完全に頭に血が回っているおかげで攻撃は単調だ。

 振り下ろす腕に、剣を突き刺した。


「ぐあっ!」


 俺の腕力ではドーガの腕を切断は難しい。なので斬るよりも突いた方が効果的だ。

 大きいダメージは与えられないが、動きを鈍らせることは出来る。

 補助バフをかけた状態でも、ドーガと真正面から戦えば負ける可能性がある。

 なので、まずはチクチクと両腕にダメージを与え、腕が上がらなくする。


「シャルロット! 中級回復魔法ハイヒールをかけてくれ!」


「分かったわ」


 ドーガの背中越しから、カテジナが杖を構えるのが見えた。


「おい。これはどういう事だ!!!」


 カテジナが詠唱をおえると、ドーガの体に白い糸が何重にもなって絡まった。

 対象に拘束する魔法使い系のスキル『捕縛』だ。

 ドーガは絡まった糸を無理やり外そうとして、バランスを崩しその場で転び動けなった。


「カテジナ何をやっているんだ! シャルロットも見てないで何とかしろ!」


 ギャーギャーと喚きたてるドーガを、カテジナとシャルロットは冷めた目で見下していた。


「何をって決まってるでしょ。貴方を突き出すためよ」


「私達、関係ないので。でも関係ないと言っても信じて貰えそうにないので、貴方を突き出す事にしました」


 二人の発言に、ドーガはぽかんとした顔をした。


「ほら、アンリも見てないで手伝いなさいよ。まずはこいつを気絶させて大人しくさせないと、街まで連れていけないでしょ」

  

「貴女達もですよ」


 はぁ、そうだな。こいつらはそういう奴だ。

 自分の不利を悟ったので、さっさとドーガを売り渡す。大方そんな考えだろう。


「一つ聞くが、ドランを殺すのにお前らは加担してないのか?」


「私達がそんな事するわけないでしょ!」


「そうです。私とカテジナには、ドランを殺すような理由がありませんし」


「大体、ドーガがドランを殺したから追われてたって知ってたら、初めから縁を切ってたわよ」


 私達がそんな事するわけないねぇ。

 俺に薬を盛った上で襲っといて、よくもまぁぬけぬけと。


「お、お前ら。恩をあだで返しやがって!」


「恩なんてないわよ」


「バーカ」


 そこからは3人で罵詈雑言の嵐だった。

 俺、こんな奴らとパーティを組んでいたんだよなぁ。


「あ、あの。どうします?」


 おっと、思わず思考を飛ばしてしまっていた。

 ベルの言葉で我に返った。


「そうだな。とりあえず、ドーガを街まで連れて行くか」


「悪いね。それは出来ない相談だ」


 唐突に目の前に黒い影が現れたと思ったら、スッと軌跡が見えた。

 慌てて避けたために、バランスを崩し転ぶ寸前の所を、ベルとモルガンに支えられた。


「お前は……」


 そこに居たのは、ミーシャだった。

 ボロボロの布切れを身にまとい、気持ちの悪い笑みを浮かべている。


「何故ここに?」


「何故? 決まっているだろ?」


 彼女がパチンと指を鳴らすと、木の陰からゴブリンウォーリアが姿を現した。

 その数4匹。


「グギャ!」


 ミーシャの登場に、カテジナとシャルロットが呆けている。

 そんな彼女たちにゴブリンウォーリアが襲い掛かった。


 魔法使いと僧侶。そんな2人がゴブリンウォーリアに敵うわけもなく、一撃で意識を刈り取られる。

 ゴブリンウォーリア達がカテジナとシャルロットそれぞれを小脇に抱えると、今度はもう1体のゴブリンウォーリアがドーガを抱えた。

 静かだと思ったら、いつの間にかドーガも気絶させられていたようだ。


「こいつらに、天罰を与えるためさ!」


 ミーシャが何やら合図をすると、ドーガ達を抱えたゴブリンウォーリアは森の奥へ走っていった。

 先ほどから、ゴブリンウォーリアやミーシャが俺の『気配感知』スキルには反応していない。ミーシャの『隠密』スキルを発動させているからだろう。

 

「あいつらは私が貰っていく。もし邪魔をするというのなら、それなりの覚悟を持って追いかけて来な」


 ミーシャはそう言って踵を返し、森の奥へ歩いていく。

 そんなミーシャを守るように、ゴブリンウォーリアが後に続く。


「アンリ。どうしますか?」


「深追いはやめておこう」


 ゴブリンウォーリアが4体。別に俺一人でも倒せない数ではないが、ミーシャの発言からすると、他にも伏兵が居る可能性がある。

 ここで無理に追いかけるのは危険だ。下手をすれば俺だけじゃなく、ベル達まで危険な目に合わせる事になる。


「ところで、サイドの奴は?」


「あっ!」 


 サイドは先ほどの隠れた位置でうずくまって倒れていた。


「すまねぇ。後ろから変な女とゴブリンに襲われてこのザマだ」


「気にするな。こっちもそいつらにドーガをさらわれてしまった所だ」


 モルガンに頼んで、サイドを『完全回復フルヒール』で治してもらった。

 ここでコイツに死なれては、色々とあらぬ誤解を受けかねない。


 モルガンのユニークスキル完全回復により一瞬で回復した事に驚くサイドに「黙っててくれよ」と釘を刺し、俺達は街へと帰って行った。




次回、ざまぁ回です

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る